BQ1   StageⅠ-Ⅱ乳癌に対する乳房部分切除術後の放射線療法として全乳房照射は勧められるか?

ステートメント

●全乳房照射を行うことが標準治療である。

背 景

 海外のランダム化比較試験では,すべての放射線療法併用群で温存乳房内再発の有意な減少を認めており,乳房部分切除術後の乳房照射は必要であると結論付けている。また,これらのランダム化比較試験のメタアナリシスにより,乳房部分切除術後の放射線療法が生存率向上にも寄与していることが明らかとなった。

 乳房部分切除術後の全乳房照射の有用性(再発低減,生存率向上)について概説した。また,乳房部分切除術後の乳房照射が省略できる症例についても概説した。

解 説

 乳房部分切除術後の乳房照射の有用性は,17のランダム化比較試験(計10,801例)についてEBCTCGが行ったメタアナリシスによって証明されている1)。メタアナリシスに含まれる各ランダム化比較試験は対象症例,治療法などが多少異なるが,多くは4 cm以下の腫瘍に対して腫瘍摘出術を行い,放射線療法(50 Gy前後の全乳房照射と一部は10 Gy程度の追加照射)の有無でランダム化割り付けを行っている。このメタアナリシスでは,乳房部分切除術後に放射線療法を加えることにより,乳癌死の絶対リスクが有意に低下することが示された。10年での乳癌再発の絶対リスクは15.7%減少(35.0%→19.3%,2p<0.00001),15年での乳癌死の絶対リスクは3.8%減少(25.2%→21.4%,2p<0.00005)した。ただし,乳癌再発や乳癌死の低下率の絶対値は,各患者の再発リスクの大小により異なる点には注意が必要である。EBCTCGのメタアナリシスの結果から,乳房部分切除術後の放射線療法は,10年までの乳癌の再発をほぼ半減させ(約35%→19%へ約16%減),15年までの乳癌死を約1/6減少(約25%→21%へ約4%減)させると見積もられる。言い換えれば,10年までの乳癌再発を4例減らすことにより,15年までの乳癌死を1例減らすことができるということになる1)

 一方,早期乳癌患者のうち,温存乳房内再発リスクが低いホルモン受容体陽性の高齢患者については,放射線療法が省略できるのではないかとの検討も行われてきた2-3。70歳以上,かつエストロゲン受容体陽性の患者への術後薬物療法として,タモキシフェンのみの群とタモキシフェン+放射線療法の群を比較したランダム化比較試験では,10年局所・領域無再発率はそれぞれ90%,98%で有意差が認められたが(p<0.001),10年全生存率には有意差がなかった(66% vs. 67%)2)。65歳以上の低リスク(ホルモン受容体陽性,腋窩リンパ節転移なし,腫瘍径3 cm以下,断端陰性,「G3かつ脈管侵襲あり」ではない,などの条件で判定)乳癌患者を対象としたランダム化比較試験(経過観察期間中央値9.1年)でも,放射線療法によって10年温存乳房内再発は有意に減少したものの(0.9% vs. 9.5%,p<0.001),生存率には有意差がみられなかった3)。さらに,65~70歳以上の低リスク乳癌患者に関するシステマティック・レビューでも,内分泌療法に放射線療法を加えることによって温存乳房内再発の有意な減少が認められたものの〔5年:リスク比(RR)0.18,95%CI 0.10-0.34,10年:RR 0.27,95%CI 0.13-0.54〕,生存率の改善は認められなかった4)。50~70歳以上を対象とした別のシステマティック・レビューでも,内分泌療法のみの群では内分泌療法+放射線療法の群と比べて,局所再発が有意に多かったが(HR 6.8,95%CI 4.23-10.93,p<0.0001),生存率には有意差は認めなかった5)また,低リスク乳癌に対して術後放射線療法を省略しホルモン療法のみを行った前向きコホート研究(経過観察期間中央値5年)では,5年累積温存乳房内再発が2.3%と,予め規定された閾値5%を下回っていたことが報告された(低リスク: 55歳以上,腫瘍径2 cm未満およびリンパ節転移なし,G1−2, ルミナルAサブタイプ)6)現時点では,高齢の低リスク患者についても,原則として放射線療法は有用と考えられるが,個々の患者の身体的,社会的状況も考慮する必要があるかもしれない。早期乳癌患者のうち,ホルモン受容体陽性の高齢患者に対しては,放射線療法を省略して内分泌療法のみを行うことも容認し得るという意見もあり,NCCNガイドラインでは,70歳以上のエストロゲン受容体陽性,cN0,T1症例の乳房部分切除術後には,内分泌療法のみを行い,乳房照射を省略するという選択肢も考慮するとされている。ただし,ここで日本と米国では平均寿命に差がある点には注意しておかなければならない。平均寿命が米国人よりも長い日本人では,70歳代であっても放射線療法による温存乳房内再発率の改善が生存率に影響する可能性を否定できず,日本人において全乳房照射の省略を考慮できる年齢は不明といえる。

 乳房部分切除術後の全乳房照射により,乳癌再発,乳癌死のリスクを低減でき,さらに現時点では全乳房照射を安全に省略できる患者も明らかではないことから,乳房部分切除術後には全乳房照射を行うのが標準治療である。ただし,乳癌再発リスクが低い高齢者では,身体的,社会的状況によっては全乳房照射の省略を考慮してよいかもしれない。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Radiotherapy”,“Early Breast Cancer”,“Stage Ⅰ,Ⅱ Breast Cancer”,“Mastectomy,Segmental”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年1月1日~2021年3月31日とし,324件がヒットした。一次スクリーニングで16編の論文が抽出され,二次スクリーニングで内容を検討した結果,最終的に2編の論文(メタアナリシス)を採用した。これに加えて,「乳癌診療ガイドライン①治療編2018年版および2021年web改訂版」の参考文献や他のガイドライン,二次資料などから重要と思われる文献を採用した。

参考文献

1)Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG), Darby S, McGale P, Correa C, Taylor C, Arriagada R, et al. Effect of radiotherapy after breast-conserving surgery on 10-year recurrence and 15-year breast cancer death:meta-analysis of individual patient data for 10,801 women in 17 randomised trials. Lancet. 2011;378(9804):1707-16. [PMID:22019144]

2)Hughes KS, Schnaper LA, Bellon JR, Cirrincione CT, Berry DA, McCormick B, et al. Lumpectomy plus tamoxifen with or without irradiation in women age 70 years or older with early breast cancer:long-term follow-up of CALGB 9343. J Clin Oncol. 2013;31(19):2382-7. [PMID:23690420]

3)Kunkler IH, Williams LJ, Jack WJL, Cameron DA, Dixon JM. Breast-conserving surgery with or without irradiation in early breast cancer:N Engl J Med. 2023;388(7):585-594. [PMID:36791159]

4)Chesney TR, Yin JX, Rajaee N, Tricco AC, Fyles AW, Acuna SA, et al. Tamoxifen with radiotherapy compared with Tamoxifen alone in elderly women with early-stage breast cancer treated with breast conserving surgery:A systematic review and meta-analysis. Radiother Oncol. 2017;123(1):1-9. [PMID:28391871]

5)Matuschek C, Bölke E, Haussmann J, Mohrmann S, Nestle-Krämling C, Gerber PA, et al. The benefit of adjuvant radiotherapy after breast conserving surgery in older patients with low risk breast cancer- a meta-analysis of randomized trials. Radiat Oncol. 2017;12(1):60. [PMID:28335784]

6)   Whelan TJ, Smith S, Parpia S, Fyles AW, Bane A, Liu F, et al. ; LUMINA Study Investigators. Omitting radiotherapy after breast-conserving surgery in luminal A breast cancer. N Engl J Med. 2023;389(7):612-619[PMID:37585627]