BQ3   術前化学療法後に病理学的完全奏効(pCR)が得られた乳房部分切除術後患者でも,温存乳房への放射線療法は勧められるか?

ステートメント

●放射線療法を行うことが標準治療である。

背 景

 近年,整容性良好な乳房温存を目指し,化学療法を施行して腫瘍を縮小させたうえで乳房部分切除術を行う治療法が行われる。また,治療前に乳房部分切除術非適応であった症例の一部で,乳房部分切除術が可能となる(☞外科BQ1参照)。これらの症例では,術前化学療法により病理学的完全奏効(pCR)となることがある。術前化学療法後にpCRが得られた乳房部分切除術後患者に対する術後放射線療法の必要性について概説した。

解 説

 乳房温存療法では,乳房部分切除術後に乳房への放射線療法を行うことで,乳房全切除術と同等の生存率が得られ(☞外科総説1参照),乳房部分切除術後の乳房照射は標準治療である(☞放射線BQ1参照)。近年,術前化学療法の普及と発展に伴い,pCRが得られる症例が増えているが,pCRとなった症例に対する術後乳房照射の有用性に関する前向きの研究はない。米国National Cancer Database(NCD)からの後ろ向きコホート研究では,術前化学療法後にpCRとなった乳房部分切除術後の5,383例(うち7%が照射省略)について検討され,照射省略による全生存率の低下は認められなかったが,局所・領域リンパ節制御や遠隔再発については解析されていない1)。検索した限り,術前化学療法後,pCRが得られた患者に対する乳房照射省略の安全性に関する文献はこの1編のみであり,照射省略の安全性についてのエビデンスは不十分である。

 局所進行乳癌への術前化学療法に関する主なレビューでは,術前化学療法後に乳房部分切除術を行う場合には,全例に術後放射線療法が必要であるとの認識が示されている2)3)。また,術前化学療法の経験が豊富なM. D. アンダーソンがんセンターでは,術前化学療法によりpCRが得られた症例に乳房部分切除術を行った場合でも,ほぼ全例に術後放射線療法を行い,良好な局所制御を得ている4)5)。これまで行われた局所進行乳癌に対する術前化学療法と術後化学療法の成績を比較したランダム化比較試験では,術前化学療法後に乳房部分切除術を行う場合,奏効度に関係なく術後放射線療法を行うように設定され,術後化学療法群と同等の成績が示されている6)~8)

 線量に関しても十分なエビデンスはないが,M. D. アンダーソンがんセンターや前述の臨床試験では,術前化学療法後に乳房部分切除術を施行した症例に対して,全乳房照射約50 Gy/約25回±腫瘍床10 Gy/5回のブースト照射のように,通常の乳房温存療法で使用する線量で行われた5)6)

 以上のように,エビデンスレベルが高い文献はないが,専門家の間では,術前化学療法後の乳房部分切除術にてpCRが得られた症例に対しても,温存乳房への術後照射が必須であるという認識で一致しており7)8),現状では温存乳房への術後照射が標準治療である。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Mastectomy,Segmental”,“Neoadjuvant Therapy”,“Pathology”のキーワードと,“pathologic complete response”の同義語で検索した。検索期間は2021年3月~2021年3月とし,37件がヒットしたが,新たに採用すべきものはなかった。ハンドサーチにより重要と思われる1編を採用した。

参考文献

1)Mandish SF, Gaskins JT, Yusuf MB, Amer YM, Eldredge-Hindy H. The effect of omission of adjuvant radiotherapy after neoadjuvant chemotherapy and breast conserving surgery with a pathologic complete response. Acta Oncol. 2020;59(10):1210-7. [PMID:32716227]

2)Buchholz TA, Lehman CD, Harris JR, Pockaj BA, Khouri N, Hylton NF, et al. Statement of the science concerning locoregional treatments after preoperative chemotherapy for breast cancer:a National Cancer Institute conference. J Clin Oncol. 2008;26(5):791-7. [PMID:18258988]

3)Kaufmann M, von Minckwitz G, Smith R, Valero V, Gianni L, Eiermann W, et al. International expert panel on the use of primary(preoperative)systemic treatment of operable breast cancer:review and recommendations. J Clin Oncol. 2003;21(13):2600-8. [PMID:12829681]

4)Peintinger F, Symmans WF, Gonzalez-Angulo AM, Boughey JC, Buzdar AU, Yu TK, et al. The safety of breast-conserving surgery in patients who achieve a complete pathologic response after neoadjuvant chemotherapy. Cancer. 2006;107(6):1248-54. [PMID:16862596]

5)Chen AM, Meric-Bernstam F, Hunt KK, Thames HD, Oswald MJ, Outlaw ED, et al. Breast conservation after neoadjuvant chemotherapy:the MD Anderson cancer center experience. J Clin Oncol. 2004;22(12):2303-12. [PMID:15197191]

6)van der Hage JA, van de Velde CJ, Julien JP, Tubiana-Hulin M, Vandervelden C, Duchateau L. Preoperative chemotherapy in primary operable breast cancer:results from the European Organization for Research and Treatment of Cancer trial 10902. J Clin Oncol. 2001;19(22):4224-37. [PMID:11709566]

7)Mamounas EP, Anderson SJ, Dignam JJ, Bear HD, Julian TB, Geyer CE Jr, et al. Predictors of locoregional recurrence after neoadjuvant chemotherapy:results from combined analysis of National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B-18 and B-27. J Clin Oncol. 2012;30(32):3960-6. [PMID:23032615]

8)Mak KS, Harris JR. Radiotherapy issues after neoadjuvant chemotherapy. J Natl Cancer Inst Monogr. 2015;2015(51):87-9. [PMID:26063895]