FRQ2   乳房部分切除術後の領域リンパ節照射あるいは乳房全切除術後放射線療法(PMRT)を行う患者に対して,通常分割照射と同等の治療として寡分割照射は勧められるか?

ステートメント

●乳房部分切除術後照射の領域リンパ節照射,乳房全切除術後放射線療法(PMRT)への寡分割照射は,エビデンスは十分でないが総合的に検討して,行うことを考慮してもよい。

背 景

 乳房部分切除術後照射(radiation therapy after breast conserving surgery;RT-BCS)の領域リンパ節照射(regional node irradiation;RNI)と,乳房全切除術後放射線療法(PMRT)では,通常分割照射(conventional fractionation;CF)が標準である。寡分割照射(hypofractionation;HF)の有効性・安全性について検討した。

解 説

 RNIには一般的に腋窩,鎖骨上,内胸の各リンパ節領域への照射が含まれ,上腕神経叢,心臓,肺などの組織の放射線関連の毒性のリスクがあり,肩の機能障害,上肢浮腫,肺線維症,上腕神経障害,麻痺などのリスクに注意を要する。

 HFは,乳房部分切除術後の全乳房照射(WBI)では広く行われているが,RNIとWBIの照射部位の違いから,RNIへの寡分割照射適応の懸念として,線量の不均一性,心臓・肺・上腕神経叢に対する1回線量が高いことによる長期的影響,乳房全切除術後の乳房再建への影響などが挙げられる。

 至適な線量・分割方法を検証すべく,イギリスで行われたランダム化比較試験(RCT),START-A試験(照射期間を5週で50 Gy/25回,41.6 Gy/13回,39 Gy/13回の3群比較),START-B試験(50 Gy/25回/5週と40 Gy/15回/3週の2群比較)では,乳房全切除術後例がそれぞれ登録症例の15%(336/2,236)と8%(177/2,215)に組み入れられたが,全症例の10年間の長期追跡調査においてHFとCFで局所再発に有意な差は認められず,晩期毒性については,HFはCFと同等あるいは一部で軽い傾向がみられた1)~4)。また,インドからの二次元治療計画でのHF-PMRT報告おいても晩期毒性は軽微であった5)。以上のように,初期の臨床試験の結果はコバルト装置使用や二次元治療計画であってもHFの有効性・安全性を支持していた。

 乳房全切除術を受けた乳癌患者において,HFとCFを比較したRCTは1件のみであった。Wangらが局所進行乳癌(腋窩リンパ節転移陽性が4個以上)患者820人を対象に,乳房全切除後の胸壁および鎖骨上およびレベルⅢ腋窩リンパ節領域へのHFとCFを比較したRCT(HFの非劣性を検証したRCT)である6)。観察期間中央値58.5カ月の時点で,5年間の局所・領域リンパ節再発率は,HF-PMRTが8.3%,CF-PMRTが8.1%と,HF-PMRTはCF-PMRTに対して劣らないことが報告された。急性毒性についてはHF-PMRTはCF-PMRTに対して有意に軽度であった(Grade 3の皮膚毒性:3% vs 8%,p<0.0001)。晩期毒性についても両群間に有意差はなかった。この結果から,高リスク乳癌の患者に対して,HFによるPMRTは短期的には安全かつ有効であることが示唆された。この試験結果を日常臨床に外挿するにあたって,胸壁への電子線の使用や内胸リンパ節が照射されていないことに注意する必要がある。

 Liuらにより,212件の論文が検索され,2003~2019年に出版された25件の論文でPMRT症例におけるHFとCFを比較したシステマティック・レビュー,メタアナリシスが行われた7)。RCTは1件のみで残りは後ろ向きの研究であった。合計3,871例の乳癌患者を対象としており,そのうちHF-RT群が2,080例,CF-RT群が1,791例であった。全生存率は13編で2,646例を対象とし,両群間に有意差は認められなかった〔オッズ比(OR)1.08,95%CI 0.87-1.33,p=0.49〕。無病生存率は10編で2,100例を対象とし,両群間に有意差は認められなかった(OR 1.13,95%CI 0.91-1.40,p=0.28)。局所・領域リンパ節再発は14編で2,881例を対象とし,両群間に有意差は認められなかった(OR 1.01,95%CI 0.76-1.33,p=0.96)。遠隔転移率は10編で1,408例を対象とし,両群間に有意差を認めなかった(OR 1.16,95%CI 0.85-1.58,p=0.34)。急性皮膚毒性は23編で3,456例を対象とし,両群間に有意差は認められなかった(OR 0.94,95%CI 0.67-1.32,p=0.72)。急性肺毒性は10編で1,853例を対象とし,両群間に有意差は認められなかった(OR 0.94,95%CI 0.74-1.20,p=0.62)。7編で1,363例を対象に遅発性皮膚毒性が報告され,両群間に有意差は認められなかった(OR 0.98,95%CI 0.75-1.27,p=0.88)。上肢のリンパ浮腫は9編で1,801例を対象とし,両群間に有意差は認められなかった(OR 0.99,95%CI 0.77-1.28,p=0.94)。肩可動制限は4編で1,078例を対象とし,両群間に有意差は認められなかった(OR 0.75,95%CI 0.43-1.31,p=0.31)。6編で1,677例を対象に遅発性心臓関連毒性が報告され,両群間に有意差は認められなかった(OR 1.17,95%CI 0.82-1.65,p=0.39)。以上のように,同報告ではHFはCFと比較して有効性,毒性ともに有意差はないと結論付け,より大規模なRCTの必要性を強調した。

 乳房全切除術後の乳房再建は一般的になってきており,乳房再建後にPMRTを行うと,再建合併症の発生率が高まる(☞放射線BQ8参照)。乳房再建例を含むHF-PMRTの第Ⅱ相前向き試験では,96例中43例(45%)の乳房再建例を含み胸壁・再建乳房および領域リンパ領域に対して,36.63 Gy/11回で照射された8)。観察期間中央値54カ月で,急性または晩期のGrade 3以上の再建以外の毒性はなかった。5年の局所再発率は4.6%,無遠隔転移・局所再発率77%,全生存率は90%であった。PMRTに起因する再建物の除去または完全な失敗,予定外の外科的介入が必要となった再建合併症が35%発生した。再建乳房例に対するHF-PMRTとCF-PMRTのRCTは,Alliance A221505試験(phase Ⅲ randomized trial of hypofractionated post mastectomy radiation with breast reconstruction;RT CHARM)とFABREC(study of radiation fractionation on patient outcomes after breast reconstruction for invasive breast carcinoma)が行われており,結果の報告が待たれる。

 5~7週間の通常分割照射(CF)-PMRTは優れた腫瘍制御を示し,局所進行乳癌に対する乳房全切除術後の標準治療として確立された。しかし,通常分割照射(CF)は寡分割照射(HF)に比べ,治療期間が長く,患者にとって負担が大きく,医療費も高額になる。PMRTやRT-BCS・RNIで寡分割照射(HF)を行うことが検討され,これまでの結果では寡分割照射(HF)の安全性と有効性が支持されている。寡分割照射(HF)の局所-領域制御という点での有効性は確かなようであるが,乳房全切除術後に再建を受ける患者が増え,再建に対する影響については未解決の問題が残っている。また,研究はまだ主に後ろ向きであり,安全性と有効性を確認するためには大規模なRCTと,追跡調査が必要である。長期的なデータと進行中の試験の結果に基づいて,PMRTならびにRT-BCS・RNIにおける寡分割照射(HF)は新しい標準的な治療法に発展する可能性がある。ザンクトガレン2021パネルやESTROのコンセンサス・リコメンデーションでは,PMRTやRNIに対し寡分割照射(HF)を日常臨床で行うことを強く推奨している9)10)。有効性や短期の安全性は一貫しており,PMRTならびにRT-BCS・RNIにおける寡分割照射(HF)は総合的に検討して,行うことを考慮してもよい。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Radiotherapy”,“Dose Fractionation”,“Radiation”,“Lymphatic Metastasis”,“Lymphatic Irradiation”,“Neoplasm Recurrence, Local”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2021年3月までとし,381件がヒットした。10編の論文が抽出され,ハンドサーチで7編の論文を追加した。

参考文献

1)START Trialists’ Group, Bentzen SM, Agrawal RK, Aird EG, Barrett JM, Barrett-Lee PJ, et al. The UK Standardisation of Breast Radiotherapy(START)Trial A of radiotherapy hypofractionation for treatment of early breast cancer:a randomised trial. Lancet Oncol. 2008;9(4):331-41. [PMID:18356109]

2)START Trialists’ Group, Bentzen SM, Agrawal RK, Aird EG, Barrett JM, Barrett-Lee PJ, et al. The UK Standardisation of Breast Radiotherapy(START)Trial B of radiotherapy hypofractionation for treatment of early breast cancer:a randomised trial. Lancet. 2008;371(9618):1098-107. [PMID:18355913]

3)Haviland JS, Owen JR, Dewar JA, Agrawal RK, Barrett J, Barrett-Lee PJ, et al;START Trialists’ Group. The UK Standardisation of Breast Radiotherapy(START)trials of radiotherapy hypofractionation for treatment of early breast cancer:10-year follow-up results of two randomised controlled trials. Lancet Oncol. 2013;14(11):1086-94. [PMID:24055415]

4)Haviland JS, Mannino M, Griffin C, Porta N, Sydenham M, Bliss JM, et al;START Trialists’ Group. Late normal tissue effects in the arm and shoulder following lymphatic radiotherapy:Results from the UK START(Standardisation of Breast Radiotherapy)trials. Radiother Oncol. 2018;126(1):155-62. [PMID:29153463]

5)Yadav BS, Bansal A, Kuttikat PG, Das D, Gupta A, Dahiya D. Late-term effects of hypofractionated chest wall and regional nodal radiotherapy with two-dimensional technique in patients with breast cancer. Radiat Oncol J. 2020;38(2):109-18. [PMID:33012154]

6)Wang SL, Fang H, Song YW, Wang WH, Hu C, Liu YP, et al. Hypofractionated versus conventional fractionated postmastectomy radiotherapy for patients with high-risk breast cancer:a randomised, non-inferiority, open-label, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2019;20(3):352-60. [PMID:30711522]

7)Liu L, Yang Y, Guo Q, Ren B, Peng Q, Zou L, et al. Comparing hypofractionated to conventional fractionated radiotherapy in postmastectomy breast cancer:a meta-analysis and systematic review. Radiat Oncol. 2020;15(1):17. [PMID:31952507]

8)Poppe MM, Yehia ZA, Baker C, Goyal S, Toppmeyer D, Kirstein L, et al. 5-year update of a multi-institution, prospective phase 2 hypofractionated postmastectomy radiation therapy trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2020;107(4):694-700. [PMID:32289474]

9)Burstein HJ, Curigliano G, Thürlimann B, Weber WP, Poortmans P, Regan MM, et al;Panelists of the St Gallen Consensus Conference. Customizing local and systemic therapies for women with early breast cancer:the St. Gallen International Consensus Guidelines for treatment of early breast cancer 2021. Ann Oncol. 2021;32(10):1216-35. [PMID:34242744]

10)Meattini I, Becherini C, Boersma L, Kaidar-Person O, Marta GN, Montero A, et al. European Society for Radiotherapy and Oncology Advisory Committee in Radiation Oncology Practice consensus recommendations on patient selection and dose and fractionation for external beam radiotherapy in early breast cancer. Lancet Oncol. 2022;23(1):e21-31. [PMID:34973228]