CQ8   3cm未満で1~4個までの乳癌脳転移に対して定位手術的照射(SRS)を行った場合,全脳照射の追加は勧められるか?

推奨

●全脳照射の追加を行わないことを弱く推奨する。

推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:中,合意率:98%(40/41)


推奨におけるポイント
■少数個の脳転移に対してSRSを行った後に全脳照射を追加することで頭蓋内再発率は下がるが全生存率,神経因性死亡は変わらない。
■3カ月後の高次機能障害発生割合は全脳照射追加で増加する可能性がある。

背 景・目 的

 予後良好な単発脳転移患者に対する全脳照射のみと全脳照射+SRSでは,全脳照射+SRSのほうが,有意に全生存期間が延長されることが知られており1),予後良好な少数個の転移に対して全脳照射のみを行うことは勧められない。そこで今回は,少数個の転移に対するSRS±全脳照射を検討した3つのランダム化比較試験をもとに,1~4個の脳転移に対してSRSを行った場合に全脳照射の追加を行うべきか検討した。

 脳転移に対する放射線治療に関しては,レビューが多く存在するものの,乳癌患者に絞ったランダム化比較試験は存在せず,さまざまな固形癌からの脳転移例を対象にした臨床試験の結果を評価した。また,局所治療として分割照射を含めたSTIを行うことも多いが,今回の検討で採用したランダム化比較試験はすべてSRSを行っていたため,CQとしてはSRSとした。

解 説

 今回のシステマティック・レビューでは,全脳照射を追加しないことの害として,全生存率の低下,頭蓋内増悪(再発)率の増加を検討した。また,全脳照射を追加しないことの益としては高次機能障害(認知機能で代替)発生割合の低下を検討した。全生存率と頭蓋内増悪率についてはSRSに全脳照射を加える群と加えない群を比較したランダム化比較試験の3編を採用し,メタアナリシスを行った2)~4)。前述の3編ではそれぞれ,高次機能への影響も評価しているものの評価方法が異なることから,高次機能障害の評価については評価方法が同じであった2つのランダム化比較試験を用いてメタアナリシスを行った3)4)。乳癌の脳転移に対する放射線治療が生存に与える影響について検討する観察研究も複数存在するが,治療を行った時代や患者背景の違いが大きく,統合困難であると判断した。また,高次機能障害についても複数の観察研究が存在するものの,評価方法や評価時期の違いが大きく,メタアナリシスを行うことは困難であると判断した。

1)全生存率
 1~4個の脳転移に対するSRS±全脳照射のランダム化比較試験3編のメタアナリシスを行うと,全生存率はSRS単独群で86%(178/208例),SRS+全脳照射群で85%(165/195例),〔ハザード比(HR)0.85,95%CI 0.48-1.52,p=0.59〕の結果となり,本解析ではSRSのみ行い,全脳照射を追加しないことによる全生存率の低下は認めなかった。SRS±全脳照射の3つのランダム化比較試験を再検討した結果,50歳以下ではSRS単独のほうが,全生存率が有意に改善する報告もある5)。しかし,対象患者数が68/364例と少なく,うち乳癌患者は20人であった。

2)頭蓋内制御率
 前述の3編のSRS±全脳照射の比較試験では,SRS単独群で1年頭蓋内制御率が低かった。メタアナリシスを行うと,頭蓋内増悪率はSRS単独群で57%(113/200例),SRS+全脳照射群で24%(44/184例),〔リスク比(RR)2.41,95%CI 1.52-3.81,p=0.0002〕の結果となり,SRS後に全脳照射を追加しないことにより,頭蓋内増悪率は有意に増加する。ただし,神経因性死を報告した2編2)3)においてSRSに全脳照射を加えるか否かでの1年神経因性死亡割合に差はなかったと報告している。

3)高次神経機能障害発生割合
 今回は比較的予後良好とされる少数個の脳転移患者を対象としたため,全脳照射省略の高次機能への影響についても検討を行った。今回の検討対象となった3つのランダム化比較試験ではそれぞれ,高次機能への影響を評価しているものの,Changら3)とBrownら4)はHopkins Verbal Learning Test-Revised(HVLT-R)を用い,Aoyamaら2)はMini Mental State Examination(MMSE)を用いて評価している。HVLT-Rを用いて評価した2編でメタアナリシスを行うと,3~4カ月後の高次機能障害割合はSRS単独群で53%(44/83例),SRS+全脳照射群で86%(51/59例),(RR 0.53,95%CI 0.25-1.15,p=0.11)の結果となり,SRS+全脳照射と比較してSRS単独群は高次機能障害発生割合が少ない傾向であった。さらに,Changらは高次機能障害発生割合が全脳照射追加群で高かったことを理由に本試験を予定症例数に到達する前に終了していることは留意すべきである。しかし,その一方で,MMSEを用いて評価を行ったAoyamaらは,両者の1年後のMMSEスコア中央値には差がなかったと報告している。

 脳転移切除後に全脳照射を加える群と腫瘍床へのSRSを加える群を比較する2つのランダム化比較試験においても,採用する評価方法や時期によって高次機能障害発生割合の結果が相反した6)7)

 以上より,適切な認知機能の評価方法が定まっているとは言い難い状況ではあるが,SRS単独治療は生存への不利益を伴わずに高次脳機能障害を回避する益がある可能性が示唆されるため,SRSの適応を超える増悪を認めるまでは全脳照射の追加を行わないことが弱く推奨される。その一方で,SRSを繰り返すことや頻回にMRIなどの画像診断で経過観察を要することなどによる経済的不利益があるため,これらの益と害に関して,患者の意向は分かれると思われる。さらに,わが国において,定位放射線照射は全脳照射のおよそ3倍の経済的負担となることも留意すべきである。乳癌脳転移のみを対象としたランダム化比較試験ではなかったため非直接性が高く,エビデンスの強さは「中」とした。わが国では,定位放射線照射装置やMRIが普及しており,標準治療としてSRSを実施可能であることも踏まえ,予後良好な患者の1~4個の脳転移についてはSRSのみ行い,増悪を認めるまでは全脳照射の追加を行わないことが弱く勧められる。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMed・医中誌・Cochrane Libraryで,“Brain Neoplasms/therapy”,“Radiosurgery”,“Brain Neoplasms/secondary”,“Breast Neoplasm”のキーワードで検索した。検索期間は2016年3月~2021年3月とし,それぞれ547件がヒットした。これらから一次選択として合計16編を一次選択し,二次検索で3編を採用した。2018年版と合わせて,合計6編の論文を採用した。

参考文献

1)Patil CG, Pricola K, Garg SK, Bryant A, Black KL. Whole brain radiation therapy(WBRT)alone versus WBRT and radiosurgery for the treatment of brain metastases. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(6):CD006121. [PMID:20556764]

2)Aoyama H, Shirato H, Tago M, Nakagawa K, Toyoda T, Hatano K, et al. Stereotactic radiosurgery plus whole-brain radiation therapy vs stereotactic radiosurgery alone for treatment of brain metastases:a randomized controlled trial. JAMA. 2006;295(21):2483-91. [PMID:16757720]

3)Chang EL, Wefel JS, Hess KR, Allen PK, Lang FF, Kornguth DG, et al. Neurocognition in patients with brain metastases treated with radiosurgery or radiosurgery plus whole-brain irradiation:a randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2009;10(11):1037-44. [PMID:19801201]

4)Brown PD, Jaeckle K, Ballman KV, Farace E, Cerhan JH, Anderson SK, et al. Effect of radiosurgery alone vs radiosurgery with whole brain radiation therapy on cognitive function in patients with 1 to 3 brain metastases:a randomized clinical trial. JAMA. 2016;316(4):401-9. [PMID:27458945]

5)Sahgal A, Aoyama H, Kocher M, Neupane B, Collette S, Tago M, et al. Phase 3 trials of stereotactic radiosurgery with or without whole-brain radiation therapy for 1 to 4 brain metastases:individual patient data meta-analysis. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;91(4):710-7. [PMID:25752382]

6)Kayama T, Sato S, Sakurada K, Mizusawa J, Nishikawa R, Narita Y, et al;Japan Clinical Oncology Group. Effects of surgery with salvage stereotactic radiosurgery versus surgery with whole-brain radiation therapy in patients with one to four brain metastases(JCOG0504):a phase Ⅲ, noninferiority, randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2018:JCO2018786186. [PMID:29924704]

7)Brown PD, Ballman KV, Cerhan JH, Anderson SK, Carrero XW, Whitton AC, et al. Postoperative stereotactic radiosurgery compared with whole brain radiotherapy for resected metastatic brain disease(NCCTG N107C/CEC・3):a multicentre, randomised, controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2017;18(8):1049-60. [PMID:28687377]