CQ7 乳癌初期治療後の食事による脂肪摂取は乳癌患者の予後に影響を及ぼすか？
背 景・目 的
総脂肪摂取の増加が乳癌再発リスクを増加させるかどうかは結論付けられない。一方で，疫学・予防CQ6では乳癌初期治療後の肥満は乳癌再発リスクを増加させる可能性があることが示唆されており，肥満を招く脂肪を多く食事摂取することが乳癌再発リスクを増加させるかもしれないという仮説が成り立つ。この仮説を検証することは初期治療後患者の日常生活を指導するうえで重要と考えられる。本項では乳癌初期治療後の総脂肪摂取と乳癌再発リスクの間に関連性があるか否かを検討した。
解 説
害のアウトカムとして乳癌再発リスク（重要度9），乳癌死亡リスク（重要度8），全死亡リスク（重要度5），益のアウトカムとして一般健康への好影響（重要度2）と設定した。
2021年3月の検索時点で総脂肪摂取と乳癌患者の乳癌再発リスク，乳癌死亡リスクに関する論文は極めて少なく，乳癌初期治療後の総脂肪摂取を経時的に調査して乳癌再発，死亡リスクとの関係を調査した論文は8件のみであった1）～8）。すべて2005年以降の論文で，6件は数千人規模の大規模コホート研究であり1）3）～5）7）8），うち5件では乳癌初期治療後の高脂肪食，総脂肪摂取と乳癌再発，死亡リスクの関連性を認めなかった1）3）～5）が，1件は高脂肪食で乳癌死亡リスクの増加を認めた7）。残り2件は大規模なランダム化比較試験で，1件は乳癌初期治療後に脂肪からのカロリー摂取を15～20％にすること等を目標とした個別指導による介入をした群（n＝1,537）とパンフレット指導にとどめた群（n＝1,551）を比較する試験（WHEL試験）であったが，10年無再発生存率（RFS），10年全生存率（OS）に差は認められなかった2）。もう一方の試験は脂肪からのカロリー摂取を15％以内にすることを目標とした個別指導による介入をした群（n＝975）と一般的な食事指導にとどめた群（n＝1,462）を比較する試験（WINS試験）で，5年RFSに有意な差を認めた〔HR 0.76，（95％CI 0.60-0.98，p＝0.034）〕6）。しかし，この試験では介入群の体重が対照群に比較して減少しており，これが結果に影響を与えたのではないかと考察されている。したがって，脂肪摂取制限が直接結果に影響したかどうかについての解釈は難しい。
今回の我々のメタアナリシスの検討でも上述した2件のランダム化比較試験においても乳癌再発リスクでHR 0.90（CI95％ 0.6-1.04）と有意差を認めなかった2）6）（図1）。また6件のコホート試験においても乳癌再発リスク（図2），乳癌死亡リスク（図3）ともにそれぞれHR 1.01（CI95％ 0.90-1.12），HR 1.05（CI95％ 0.90-1.21）と有意差を認めなかった1）3）4）5）7）。
以上より，検索した論文は最近の信頼性の高いものばかりであったが，その多くが初期治療後の総脂肪摂取の増加と乳癌再発死亡リスクに関連はないとしている点，関連ありとしたコホート研究は1件である点，ランダム化比較試験の1件は結果の解釈が困難である点を鑑みて，両者の関連は結論付けられないと判断した（limited-no conclusion）。疫学・予防CQ6の結論と合わせて考えるのであれば，日常診療においては患者に脂肪制限食を指導するのではなく，運動や総カロリー制限による肥満防止を指導することが望ましい。
検索キーワード
2018年版と同様にPubMedで“breast neoplasms”，“neoplasm recurrence”，“local recurrence”，“dietary fats”，“fat intake”のキーワードで，2016年1月以降の論文を2021年3月に検索した。本CQに対して文献検索を行った結果，PubMed 11編，医中誌47編が抽出され，一次スクリーニングで10編の論文が抽出され，二次スクリーニングにて内容が適切でないと判断した論文を除外し，最終的に8編の論文を対象に定性的および定量的システマティック・レビューを実施した。
参考文献
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