BQ3    乳製品の摂取は乳癌発症リスクを減少させるか?

ステートメント

●乳製品の摂取により乳癌発症リスクは減少する可能性が示唆されている。ただし,過剰摂取にはリスクを高める可能性があり注意を要する。

エビデンスグレード:Limited-suggestive(可能性あり)

背 景

 牛乳は蛋白質,脂質,炭水化物,ビタミン,ミネラル等,種々の成分から構成されている。このうち,比較的豊富に含まれているビタミンD,カルシウムは近年のメタアナリシスの結果から,乳癌発症リスクの減少効果が示唆されている(二次資料①)。また,成分の一つである共役リノレイン酸は動物実験モデルで乳癌の発癌抑制効果が報告されている。一方,動物性脂質は古くから乳癌発症リスクを増加させるのではないかと考えられてきた。このように,乳製品は乳癌の防御・リスク因子の可能性を秘めた成分から構成されており,乳製品と乳癌発症リスクとの関連性は注目を集めてきた。この分野では,特に乳製品の摂取量の多い北欧地域を中心に,1980年代から疫学研究が盛んに実施されている。

解 説

 2017年にWCRFとAICRが共同で作成した「Diet, nutrition, physical activity and breast cancer」が公表され,2018年に改訂された(二次資料②)。その中で,閉経前女性に対して200 g以上の乳製品を摂取することによる乳癌発症リスクについて6件の研究のメタアナリシスが行われ,相対リスク(RR)0.95(95%CI 0.92-0.99)とわずかにリスクが減少したと報告されている。

 その他2件のメタアナリシスが報告され,1件はRR 0.79(95%CI 0.63-0.99)とわずかにリスクが減少し1),もう1件ではRR 0.87(95%CI 0.68-1.11)と有意な関連は認めなかった2)

 閉経後女性に関して,8件のメタアナリシスでは,RR 0.97(95%CI 0.93-1.01)と有意な関連は認めなかった二次資料②)。

 乳製品の種別について,WCRF/AICR2017ではミルクの摂取量では200 g/d以上の摂取に関し7件のメタアナリシスが行われ,RR 0.99(95%CI 0.94-1.04)と関連しなかった(二次資料②)。閉経前の5件でRR 0.97(95%CI 0.88-1.06),閉経後の6件でRR 1.01(95%CI 0.97-1.04)と関連しなかった。全乳では150 g/d以上の摂取について5件のメタアナリシスが行われ,RR 1.01(95%CI 0.96-1.06)と関連しなかった。

 乳製品の品種と乳癌発症リスクに関してメタアナリシスが報告されている3)。全乳について,最大摂取群と最小摂取群について8件のコホート研究からRR 0.99(95%CI 0.87-1.12)と有意なリスク減少は認めず,5件のコホート研究による用量反応関係もRR 1.02(95%CI 0.92-1.13)と有意差を認めなかった。無脂肪乳では最大摂取群と最小摂取群について7件のコホート研究からRR 0.93(95%CI 0.85-1.00)と有意にリスク減少し,5件のコホート研究による用量反応関係もRR 0.96(95%CI 0.92-1.00)と有意差を認めた。ヨーグルトでは最大摂取群と最小摂取群について5件のコホート研究からRR 0.90(95%CI 0.82-1.00)と有意にリスク減少したが,3件のコホート研究による用量反応関係はRR 0.87(95%CI 0.72-1.06)と有意差を認めなかった。

 最近では発酵乳製品かどうかが注目されており,ミルクに代表される非発酵乳製品を長期間多く摂取するとホルモン陽性乳癌ではハザード比(HR)1.30(95%CI 1.02-1.65)とリスク増加し,ヨーグルトやチーズ等の発酵乳製品ではホルモン受容体陰性乳癌のHR 0.38(95%CI 0.20-0.78)とリスクが低減されると報告している4)一方,発酵乳製品が関連しないとのコホート研究も3件報告されている5)~7)。アジア地域から2件のコホート研究がされており,韓国の報告では,閉経前でHR 0.58(95%CI 0.35-0.97),閉経後でHR 0.90(95%CI 0.64-1.28)と閉経前女性でミルク摂取が多いとリスクが下がる6)日本では,閉経前でHR 1.20(95%CI 0.52-2.80),閉経後でHR 1.32(95%CI 0.70-2.49)と閉経前後にかかわらずリスクに関与しなかった7)

 以前より用量依存性の関連を認める報告は少なかったが,低脂肪乳製品の中等度摂取が閉経前でHR 0.49(95%CI 0.29-0.84)とリスクが低減するが,最大摂取群ではHR 0.84(95%CI 0.52-1.35)とリスク減少を認めず,過剰摂取はリスク減少効果を弱める可能性が示唆された8)。また,乳製品の高カロリー摂取でHR 1.17(95%CI 1.03-1.33)とリスクが増加,特にミルクにおいてHR 1.42(95%CI 1.18-1.72)と過剰摂取がリスクを増加させるとの報告もある5)

 以上より,過去の研究を総合すると,乳製品全般の摂取は乳癌発症リスクを減少させる可能性が示唆されている。しかし,脂肪含有量の多い非発酵乳製品の過剰摂取はリスクを高める可能性もあり注意を要する。

検索キーワード

 PubMedで“Breast Neoplasms”,“Dairy Products”,“Milk”のキーワードと同義語で検索した。検索期間は2016年1月から2021年3月までとした。該当文献63件の抄録から6件を選択し,原文査読により新たに1件(文献番号2)を引用した。2018年で引用した1件と合わせ,8件を解説に引用した。

参考にした二次資料
  1.  Chen P, Hu P, Xie D, Qin Y, Wang F, Wang H. Meta-analysis of vitamin D, calcium and the prevention of breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 2010;121(2):469-77. [PMID:19851861]
  2.  World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research;Continuous Update Project. Diet, Nutrition, Physical Activity and Breast Cancer 2017, Revise 2018.
参考文献

1)Dong JY, Zhang L, He K, Qin LQ. Dairy consumption and risk of breast cancer:a meta-analysis of prospective cohort studies. Breast Cancer Res Treat. 2011;127(1):23-31. [PMID:21442197]

2)Mills PK, Beeson WL, Phillips RL, Fraser GE. Dietary habits and breast cancer incidence among Seventh-day Adventists. Cancer. 1989;64(3):582-90. [PMID:2743252]

3)Wu J, Zeng R, Huang J, Li X, Zhang J, Ho JC, et al. Dietary protein sources and incidence of breast cancer:a dose-response meta-analysis of prospective studies. Nutrients. 2016;8(11):730. [PMID:27869663]

4)Kaluza J, Komatsu S, Lauriola M, Harris HR, Bergkvist L, Michaëlsson K, et al. Long-term consumption of non-fermented and fermented dairy products and risk of breast cancer by estrogen receptor status-population-based prospective cohort study. Clin Nutr. 2021;40(4):1966-73. [PMID:33004231]

5)Fraser GE, Jaceldo-Siegl K, Orlich M, Mashchak A, Sirirat R, Knutsen S. Dairy, soy, and risk of breast cancer:those confounded milks. Int J Epidemiol. 2020;49(5):1526-37. [PMID:32095830]

6)Shin WK, Lee HW, Shin A, Lee JK, Kang D. Milk consumption decreases risk for breast cancer in Korean women under 50 years of age:results from the health examinees study. Nutrients. 2019;12(1):32. [PMID:31877693]

7)Kojima R, Okada E, Ukawa S, Mori M, Wakai K, Date C, et al. Dietary patterns and breast cancer risk in a prospective Japanese study. Breast Cancer. 2017;24(1):152-60. [PMID:26993124]

8)Aguilera-Buenosvinos I, Fernandez-Lazaro CI, Romanos-Nanclares A, Gea A, Sánchez-Bayona R, Martín-Moreno JM, et al. Dairy consumption and incidence of breast cancer in the‘Seguimiento Universidad de Navarra’(SUN)Project. Nutrients. 2021;13(2):687. [PMID:33669972]