CQ11   食事によるイソフラボン摂取は乳癌患者の予後に影響を及ぼすか?

ステートメント

●食事によるイソフラボンの摂取は乳癌患者の予後を改善する可能性がある。

エビデンスグレード:Limited-suggestive(可能性あり)


ステートメントにおけるポイント

■再発,乳癌死亡,全死亡のリスクを増加させるという報告はなく,再発のリスクを減少させる可能性があるため,乳癌患者が大豆摂取することを推奨してもよい。

背 景・目 的

 アジアでよく食されている大豆食品に含まれる大豆イソフラボンは植物エストロゲンの一種であり,その抗エストロゲン作用からアジアと欧米の乳癌発症率の差を説明する因子として研究されてきた。いくつかのコホート研究で乳癌罹患の減少が観察されており,発症リスクを減少させる可能性がある。乳癌患者にもその抗エストロゲン作用から,再発リスクを減少させる可能性があると考えられる半面,弱いエストロゲン作用から再発リスクを高める可能性もあるとして欧米では摂取を控えるよう勧めるガイドラインもある。ここでは欧米とアジアの乳癌患者に対する研究結果について解説する。

 イソフラボンは一般健康への影響も関連することから,乳癌患者のイソフラボン摂取と予後の評価のアウトカムとして,乳癌再発(重要度9点),乳癌死亡(重要度8点),全死亡(重要度7点)を採用した。

解 説

 乳癌再発をアウトカムとした研究は3件であった1)~3)。3件の内訳は,中国での研究が2件,米国と中国の3つのコホートのプール解析を行った研究が1件である。プール解析に含まれている個別の研究は含めていない。個々の研究で,イソフラボン摂取に対し,統計的に有意なリスクの減少がみられたものは中国での閉経後乳癌患者を対象とした研究〔ハザード比(HR)0.67(95%CI 0.54-0.83)〕1),および,米国と中国の3つのコホートのプール解析を行った研究〔HR 0.75(95%CI 0.61-0.92)〕2)であり,他では有意な関連はみられなかった。閉経前乳癌と閉経後乳癌を別々に解析した結果があるものは別研究として扱い,メタアナリシスを行ったところ,効果に異質性は認められず,全体として統計的に有意なリスク減少が認められた〔HR 0.76(95%CI 0.67-0.87)〕(図1)。

 乳癌死亡をアウトカムとした研究は8件であった2)~9)。8件の内訳は,中国での研究が3件,多民族を対象とした米国での研究が2件,ヨーロッパ10か国の共同コホートが1件,韓国での研究が1件,米国と中国の3つのコホートのプール解析を行った研究が1件である。プール解析に含まれている個別の研究は含めていない。個々の研究で,イソフラボン摂取に対し,統計的に有意なリスクの減少がみられたものは中国人に対する1件の研究のみであり〔HR 0.62(95%CI 0.52-0.74)〕7),他は有意な関連はみられなかった。閉経前乳癌と閉経後乳癌を別々に解析した結果があるものは別研究として扱い,メタアナリシスを行ったところ,効果に異質性が認められ,ランダム効果モデルによる解析では,リスク減少の傾向はみられなかった〔HR 0.97(95%CI 0.93-1.01)〕(図2)。

 全死亡をアウトカムとした研究は7件であった1)~3)5)8)~10)。7件の内訳は,中国での研究が2件,多民族を対象とした米国での研究が2件,米国,カナダ,オーストラリアの共同コホートが1件,欧州10カ国の共同コホートが1件,米国と中国の3つのコホートのプール解析を行った研究が1件である。プール解析に含まれている個別の研究は含めていない。個々の研究で,イソフラボン摂取に対し,統計的に有意なリスクの減少がみられたものは中国および米国の乳癌患者を対象とした2件であり〔HR 0.25(95%CI 0.09-0.69),HR 0.52(95%CI 0.33-0.82)〕5),他は有意な関連はみられなかった。メタアナリシスの結果,効果にやや異質性が認められたものの,ランダム効果モデルによる解析では,リスク減少の傾向はみられなかった〔HR 0.99(95%CI 0.96-1.02)〕(図3)。しかし,欧州10カ国の共同コホートのサンプルサイズが他の研究に比べて非常に大きく,ほぼこの研究の結果がメタアナリシスの結果となっているので,この研究を除いた場合のHRは0.87(95%CI 0.76-1.00)となった。

 報告されたすべての研究で,リスクが有意に増加したものはなかった。また,食事の評価時期に関して,診断前のもの,診断前か診断後かはっきりしないもの,診断前の食事だが診断後も変化なしに絞って解析を追加したもの,診断後の食事も統計モデルに含めたもの,診断前後を分けて解析したもの等があり,うまく分類できなかったため,診断前,診断後に絞って結果をまとめることができなかった。ただし,診断前と診断後の食事の両方を考慮した研究では,どの研究も結果が変わらなかったとしている2,3,10)

 WCRFとAICRが共同で行っているFood, Nutrition, Physical Activity and the Prevention of Cancer:a Global Perspectiveでは,Continuous Update Report(CUP)として,2014年にDiet, nutrition, physical activity and Breast Cancer Survivorsが発表された(二次資料①)。この中では,これまでに報告された,大豆摂取と乳癌予後の関連についてのレビューが行われ,診断後12カ月以降の大豆および大豆蛋白質摂取とその後の全死亡との関連について,Limited-Suggestive(可能性あり)と結論付けている(その後に発表されたCUPは2014年のレビューの再掲である(二次資料②③))。

 より大規模かつ精度の高い研究を日本人も含め,多くの集団で行う必要があるものの,これまでの研究でイソフラボン摂取で有害事象が増えたという報告はなく,再発リスク減少の可能性があるといえる。

検索キーワード

 PubMed,医中誌で“Breast Neoplasms”,“Soybeans”,“Soy Foods”,“Isoflavones”,“prognosis”,“recurrence”,“survival”のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとした。文献検索の結果,PubMed 199編,医中誌145編が抽出された。一次スクリーニングで15編の論文が抽出され,二次スクリーニングにて内容が適切でない論文がないことを確認し,最終的に15編の論文を対象に定性的および定量的システマティック・レビューを実施した。更新作業として,検索期間を2021年3月31日までとし,同条件にて検索を行った。その結果,PubMed 62編,医中誌22編,Cochrane Library 147編が抽出された。一次スクリーニングで20編の論文が抽出され,二次スクリーニングにて内容が適切でないと判断した論文を除外し,最終的に10編の論文を定性的および定量的システマティック・レビューの対象として追加した。

参考にした二次資料
  1.  World Cancer Research Fund International/American Institute for Cancer Research. Continuous Update Project Report:Diet, Nutrition, Physical Activity, and Breast Cancer Survivors. 2014. https://www.wcrf.org/sites/default/files/Breast-Cancer-Survivors-2014-Report.pdf(アクセス日:2022/1/24)
  2.  World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Diet, Nutrition, Physical Activity and Cancer:a Global Perspective. Continuous Update Project Expert Report 2018. http://www.dietandcancerreport.org/(アクセス日:2022/1/24)
  3.  World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Continuous Update Project Expert Report 2018. Survivors of breast and other cancers. http://dietandcancerreport.org/(アクセス日:2022/1/24)
参考文献

1)Kang X, Zhang Q, Wang S, Huang X, Jin S. Effect of soy isoflavones on breast cancer recurrence and death for patients receiving adjuvant endocrine therapy. CMAJ. 2010;182(17):1857-62. [PMID:20956506]

2)Nechuta SJ, Caan BJ, Chen WY, Lu W, Chen Z, Kwan ML, et al. Soy food intake after diagnosis of breast cancer and survival:an in-depth analysis of combined evidence from cohort studies of US and Chinese women. Am J Clin Nutr. 2012;96(1):123-32. [PMID:22648714]

3)Ho SC, Yeo W, Goggins W, Kwok C, Cheng A, Chong M, et al. Pre-diagnosis and early post-diagnosis dietary soy isoflavone intake and survival outcomes:a prospective cohort study of early stage breast cancer survivors. Cancer Treat Res Commun. 2021;27:100350. [PMID:33770661]

4)Boyapati SM, Shu XO, Ruan ZX, Dai Q, Cai Q, Gao YT, et al. Soyfood intake and breast cancer survival:a followup of the Shanghai Breast Cancer Study. Breast Cancer Res Treat. 2005;92(1):11-7. [PMID:15980986]

5)Fink BN, Steck SE, Wolff MS, Britton JA, Kabat GC, Gaudet MM, et al. Dietary flavonoid intake and breast cancer survival among women on Long Island. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2007;16(11):2285-92. [PMID:18006917]

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10)Zhang FF, Haslam DE, Terry MB, Knight JA, Andrulis IL, Daly MB, et al. Dietary isoflavone intake and all-cause mortality in breast cancer survivors:The Breast Cancer Family Registry. Cancer. 2017;123(11):2070-9. [PMID:28263368]