BQ6    サプリメントの服用は乳癌発症リスクを減少させるか?

ステートメント

●サプリメントの服用が乳癌発症リスクを減少させる十分な根拠はない。

エビデンスグレード:Limited-no conclusion(証拠不十分)

背 景

 米国のDietary Supplement Health and Education Act of 1994(栄養補助食品健康教育法)によると,サプリメントの定義は「毎日の摂取量を増加させるために,ヒトに使用されるビタミン,ミネラル,ハーブや植物製品,アミノ酸,あるいは,その濃縮物,代謝物,成分,抽出物あるいは,それらを混合したものを1つかそれ以上含み,食事を補助することを目的とした製品(タバコを除く)」とされている。一方,わが国にはサプリメントを定義した法律はないが,それに類するものとして特定保健用食品制度がある。それによれば,個々の食品別に生理的機能や特定の保健機能について有効性や安全性等に関する科学的根拠に関する審査を受け,厚生労働大臣の許可を受けることで,「保健の用途」が表示できる(健康増進法第26条)。さらに厳しい規準をクリアすれば薬品に近い「疾病のリスク低減表示」も可能であるが,現在までのところこれに該当しているのは,骨粗鬆症に対するカルシウムと二分脊髄に対する葉酸のみである。

 なお,本項で取り上げるサプリメントの定義は,「粉末や錠剤,カプセルのように薬品に類似した形態をもち,薬事法の適用を受けない食品や植物由来の製品」とするが,dietary constituents and supplements(食品成分とサプリメント)という広い観点も含めて検討を行う。

解 説

 2007年11月にWCRFとAICRが共同で作成した「Food,Nutrition,Physical Activity and the Prevention of Cancer:a Global Perspective」第2版が公表された。WCRF/AICRは,その後の研究成果の追加を踏まえて,乳癌に対する「Continuous Update Project(CUP)Report」を2010年3月,2017年5月に公表している(二次資料①)。2018年にはこれまでの成果をまとめた「Diet,Nutrition,Physical Activity and Cancer:a Global Perspective」第3版が出された(二次資料②)。本項では,これらの報告書に依拠して解説を加える。

 まず,癌予防全般に関して,第3版では「がん予防のためには,サプリメントには頼るべきではない。サプリメントに頼るよりも健康的な食事を取るべき」としている。このように乳癌に限らず,癌予防のために食品サプリメントを摂取することは勧められていない。

 また,乳癌発症リスクと食品・栄養素について,リスク増加に強い関連性のある〔Convincing(確実),Probable(ほぼ確実)〕ものとしてアルコール,リスク減少の可能性があるもの〔Limited-suggestive(可能性あり)〕として,でんぷんを含まない野菜,食物に含まれるカロテノイド,カルシウムを多く含む食事,乳製品(閉経前乳癌のみ)を挙げている。ビタミンA,ビタミンC,ビタミンB6,葉酸,ビタミンB12,ビタミンD,ビタミンE,カルシウムサプリメント,鉄,カロテン類,イソフラボン等については証拠不十分で結論が得られない〔Limited-no conclusion(証拠不十分)〕としている。

 葉酸について,2014年に報告されたメタアナリシスでは,食事による葉酸摂取については25の症例対照研究の結果では若干のリスク低減との関連がみられたものの〔相対リスク(RR)0.79(95%CI 0.67-0.92)〕,食事による葉酸摂取に対する15の前向き研究および葉酸サプリメント摂取に対する3つの前向き研究による結果では,乳癌発症リスクとの間に関連がみられなかった〔RR 0.95(95%CI 0.87-1.03),RR 1.07(95%CI 0.95-1.21)〕1)。2020年に行われたメタアナリシスでも,葉酸摂取と乳癌罹患の間にリスク低減の関連がみられたものの〔RR 0.85(95%CI 0.79-0.92)〕,サプリメントとの間にはみられなかった〔RR 1.05(95%CI 0.95-1.17)〕2)。サプリメントの摂取が乳癌発症リスクを増加させる可能性を示唆したコホート研究3)も存在することから,サプリメントを乳癌予防のために摂取することは推奨できない。

 ビタミンA,C,Eといった抗酸化ビタミンについても,乳癌発症リスクを減少させないとしたコホート研究4)や,閉経前乳癌で亜鉛,閉経後乳癌でマルチビタミン,ベータカロテン,ビタミンC,E,亜鉛等を10年以上服用した群でリスクが減少しているという症例対照研究5)等があり,結果が一致していない。ビタミンCと乳癌罹患のメタアナリシスでは,高摂取群でリスク低減がみられるものの〔RR 0.86(95%CI 0.81-0.92)〕,サプリメントとの間にはみられなかった〔RR 1.02(95%CI 0.94-1.10)〕6)。食事ならびにサプリメントとして服用するカロテノイドおよびビタミンC,Eと,ホルモン受容体ごとの乳癌発症率との関係をみたコホート研究では,食事中のアルファカロテン量はホルモン受容体陽性乳癌発症リスクと逆相関が認められたが,サプリメントとして服用されたベータカロテンではそうした関係は認められなかった7)。また,サプリメントとして服用されたビタミンCには,乳癌発症リスク増加との間でわずかながらも正の相関がみられた〔RR 1.16(95%CI 1.04-1.30)〕ことや,食事からのビタミンC摂取量が高い群でビタミンCサプリメントによりリスク増加がみられたコホート研究もある〔RR 1.32(95%CI 1.04-1.67)〕8)ことから,サプリメントとして抗酸化薬を服用することの危険性も示唆されている。

 複合ビタミンサプリメントと乳癌発症リスクの関係をみた米国のコホート研究では,両者に相関は認められなかった9)。一方,スウェーデンのコホート研究では,複合ビタミンの使用はむしろ乳癌発症リスクを増加させる可能性が示唆された10)。前述のビタミンCサプリメントの結果と重ね合わせて興味深い所見と思われる。葉酸,ビタミンB6,ビタミンB12の併用効果をみたランダム化比較試験においても,乳癌の発症に有意な影響は認められていない11)。5つのコホート研究と3つの症例対照研究をまとめたメタアナリシスでは,要約RRが0.10(95%CI 0.60-1.63),要約オッズ比(OR)が1.00(95%CI 0.51-1.00)であった12)

 ビタミンD摂取量と乳癌罹患については,多くの研究が行われている。メタアナリシスの結果から13)~15),ビタミンDの摂取やサプリメントによるビタミンD摂取が乳癌発症リスクを減少させる可能性が示唆されているものの13)15),ランダム化比較試験ではカルシウムとビタミンDサプリメント服用による乳癌の発症率減少は認められなかった〔ハザード比(HR)1.04(95%CI 0.94-1.14)〕14)。この試験のサブグループ解析では,ベースラインのビタミンD摂取量が600 IU/d以上のグループでは,両サプリメントの服用で乳癌発症リスクが増加していた〔HR 1.28(95%CI 1.03-1.60)〕。また,ビタミンDサプリメントのみ16),カルシウムサプリメントのみ17)の効果を調べたランダム化比較試験のメタアナリシスはどちらも乳癌発症リスクとの関連がみられなかった〔RR 1.11(95%CI 0.74-1.68),RR 1.01(95%CI 0.64-1.59)〕。2020年に行われたランダム化比較試験の結果も同様であり,ビタミンDサプリメントは,カルシウムサプリメントを併用してもしなくても,30%以上リスクを変化させることはないとしている18)。2021年に行われたランダム化比較試験のメタアナリシスでも関連はみられていない〔RR 1.04(95%CI 0.84-1.28)〕19)

 その他,鉄と乳癌罹患との関係を調べたメタアナリシスでは,食事による鉄,サプリメントによる鉄摂取と乳癌罹患との間に関連は認められていない〔RR 1.01(95%CI 0.89-1.15),RR 1.02(95%CI 0.91-1.13)〕20)。セレンと乳癌発症リスクを調べたメタアナリシス21)では,ランダム化比較試験,観察研究ともに有意な関連は認められていない〔RR 1.44(95%CI 0.96-2.17),RR 1.09(95%CI 0.87-1.37)〕。

 栄養素の量について,食物に含まれる程度の量(生理量)と比較して,それ以上は「薬用量」あるいは「大量(mega-doses)」と称される。少量(生理量)では癌予防に効果のある栄養素も,大量(薬用量)では有害であったり,場合によっては癌の病因になることもある。サプリメント摂取は食事からの栄養摂取が制限される状況下では許容されるが,薬品に近い扱いで大量に服用することは癌予防の観点からは推奨できないというのがWCRFとAICRの基本的スタンスである。

 例を挙げれば,大豆食品摂取については乳癌発症リスクを減少させるという報告もあるが,そこから短絡してイソフラボンのサプリメントを乳癌予防の目的で大量に摂取することは,推奨できない(☞疫学・予防BQ5参照)。

検索キーワード

 PubMedで“Breast Neoplasms”,“Dietary Supplements”,“Risk”等のキーワードで検索した。今回の検索期間は2014年から2016年までとした。検索結果の中から,本項に関連する二次資料1件,コホート研究1件を追加した。2022年度版の検索は検索期間を2021年3月31日までとした。7件を新たに引用し,2015年版より継続して引用した論文14件と合わせ21件を本文の解説に引用した。

参考にした二次資料
  1. World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research;Continuous Update Project. Diet, Nutrition, Physical Activity and Breast Cancer 2017.
  2. World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Diet, Nutrition, Physical Activity and Cancer:a Global Perspective. Continuous Update Project Expert Report 2018. http://www.dietandcancerreport.org(アクセス日:2022/1/24)
参考文献

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