BQ2    StageⅠ-Ⅱ乳癌の術前にCT,PET,PET-CTによる全身検索を行うか?

ステートメント

●遠隔転移の徴候がないⅠ-Ⅱ期の乳癌術前のCT,PET-CTによる全身検索を行う意義は低い。ただし,術前化学療法(NAC)の対象となる症例や,乳癌サブタイプや腫瘍グレード,患者背景によっては,CT,PET-CTによる全身検索を考慮する必要がある。

背 景・目 的

 一般に乳癌患者に対して術前にCT,PETやPET-CTによる全身検索が施行されることが多い。StageⅠ-Ⅱ乳癌の術前に検査を行うかどうかについて,検討を行った。

解 説

 遠隔転移巣の検出,ステージ変更,死亡率減少,および合併症・副作用をアウトカムとして,定性的システマティック・レビューを行った。

 遠隔転移検出に関しては,局所の病期診断に加えてPET/CTを行うことで遠隔転移の検出率は上昇することが示された1)~7)。今回検討した研究においてはStageⅠで検出率0~13%,StageⅡAは5~20%,StageⅡBは14~49%と高い検出率を認めた。「乳癌診断ガイドライン2018年版」で検索した範囲では,StageⅠでは0.4%(2/493人),StageⅡAでは5.3%(4/76人),StageⅡBでは10.9%(13/119人),StageⅡ全体では6.9%(7/347人)で遠隔転移が発見されており,それと比べるとかなり遠隔転移の検出率が高くなっており,一部の研究においては患者選択にバイアスが否定できないものもあった(二次資料①)。

 ステージ変更については,局所の病期診断に加えてPET/CTを行うことで,初期ステージング時には診断されていないリンパ節転移や遠隔転移が検出され,ステージがアップステージとなる症例が存在することが示された1)~4)6)9)。今回検討した研究においてアップステージ率はStageⅠにおいて0~50%,StageⅡAで9.5~29%,StageⅡBでは11~48%であった。また,ダウンステージとなった症例が12.7%とする報告もあり,PET/CTによって病期がより正確に判断される可能性も示された。一方で,一部の研究においては患者選択にバイアスが否定できないものもあった。サブタイプや年齢別の検討は少なく,今後の検討課題である。

 死亡率減少に関しては,検索の範囲では該当する論文はなかった。

 合併症・副作用に関しては,検査に使用する薬剤や放射線被曝について記載した研究は認めなかった。

 サブタイプ別での検討では,今回の検索の範囲では報告が少なく,Luminal typeよりもHER2過剰発現やトリプルネガティブ乳癌で転移が多いという報告もあったが,そうではない報告も混在していた。年齢別の検討は少なく,本診療ガイドライン2018年版で検索された40歳未満の初発乳癌患者においては,FDG-PET/CTによってStageⅠで5%(1/20),StageⅡAで5%(2/44),StageⅡBで17%(8/47)に遠隔転移が見つかったという報告もあり,若年者においては症状がない場合でも施行することが,生存率や不要なコストや治療の削減に役立つ可能性があるが,今後の検討課題である。

 FDG-PET/CTによって手術する前に遠隔転移が診断されれば,StageⅣとなり,現在の診療ガイドラインでは原発巣切除(原発巣切除)は推奨されてない(☞乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版,外科CQ4参照)。転移の見つかる可能性が高い群においては推奨されていない手術を回避でき,早期に全身治療を開始できるのでFDG-PET/CT施行のメリットは大きい。また,ステージが変更になることで,治療方針が変更となり,予後に差が出る可能性もある。NCCNガイドラインでは以前はPET/CTでの全身検索を推奨しないとしていたが,ver8. 2021からはcT2以上あるいはcN+(StageⅡ以上)で術前薬物療法が考慮される際には,FDG-PET/CTを行うことをoptionalとして取り入れるようになっている(二次資料②)。

 一方で,転移の頻度が少ない群に対して検査を行った場合,副作用や被曝については少なく許容範囲内と考えられるとしても,偽陽性の可能性はあるために,不利益が発生する可能性がある。費用に関しては,欧米よりはるかに安い検査費用であるが客観的な評価は困難である。

 本BQについては,当初はCQとして検索および定性的システマティック・レビューを行った。これまでの研究からは検査を行うか行わないかを判断できるだけのエビデンスは得られず,今後のデータの蓄積によって大幅なアウトカムの変更は考えにくいことから,BQとしてのステートメントを行うこととした。遠隔転移の徴候がないⅠ・Ⅱ期の乳癌術前の患者にCT,PET-CTによる全身検索を行っても遠隔転移の見つかる頻度が低いと考えられ,検査を行う意義は低いと考えられる。ただし,術前薬物療法の対象となる症例や,乳癌サブタイプや腫瘍グレード,患者背景によっては,CT,PET-CTによる全身検索を考慮する必要がある。また,患者の中には検査を希望する方もいて,益と害を患者に十分に説明して主治医もその必要性があると判断される場合は行うことも可能であると考えられる。

検索キーワード

 PubMedで“Breast Neoplasms”,“Preoperative”,“Diagnosis”,“Tomography,X-ray Computed” or “Positron-Emission Tomography”,“Sensitivity” or “Specificity” or “predictive value” or “accuracy”およびその同義語のキーワードで検索した。検索期間は2016年1月から2021年3月までとした。

参考にした二次資料
  1. 日本乳癌学会編.検診・画像診断CQ7.乳癌診療ガイドライン2疫学・診断編2018年版.第4版,東京,金原出版,2018,pp217-218.
  2. National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Breast Cancer. Version 8.2021. https://www.nccn.org/(アクセス日:2021/9/30)
参考文献

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2)Riedl CC, Slobod E, Jochelson M, Morrow M, Goldman DA, Gonen M, et al. Retrospective analysis of 18F-FDG PET/CT for staging asymptomatic breast cancer patients younger than 40 years. J Nucl Med. 2014;55(10):1578-83. [PMID:25214641]

3)Nursal GN, Nursal TZ, Aytac HO, Hasbay B, Torun N, Reyhan M, et al. Is PET/CT necessary in the management of early breast cancer? Clin Nucl Med. 2016;41(5):362-5. [PMID:26914560]

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