CQ12 乳製品の摂取は乳癌患者の予後に影響を及ぼすか?
背 景・目 的
乳製品は生活に密着した製品であり,社会の関心は高い。乳癌の発症リスクに関しては,メタアナリシスが報告されており,データにばらつきはあるもののリスクが減少する可能性がある。乳癌患者における乳製品の摂取と予後については研究が少ないが報告されている。
解 説
乳製品は一般健康への影響も関連することから,乳癌患者の乳製品摂取と予後の評価として,乳癌再発(重要度9点),乳癌特異的死亡(重要度8点),全死亡(重要度7点),一般健康への益について(重要度4点)を採用した。
1)乳癌再発リスク
乳癌再発をアウトカムとした研究は5件あり,内訳は診断前2件1)2),診断後2件3)4),診断前後1件5)であった。診断前3件のメタアナリシスの結果,ハザード比(HR)1.07(95%CI 0.91-1.25,p=0.41)であり,効果に異質性はやや認めたが,有意ではなかった(図1)。診断後の3件において,メタアナリシスを行った結果,HR 0.96(95%CI 0.85-1.08,p=0.49)と効果に異質性はなく,有意ではなかった(図2)。
2)乳癌死亡リスク
乳癌死亡をアウトカムとした研究については5件で,内訳は診断前1件2),診断後3件3)4)6),診断前後1件5)であった。診断前2件のメタアナリシスの結果,HR 0.96(95%CI 0.89-1.04,p=0.32)であり,効果に異質性は認めず,有意ではなかった(図3)。診断後4件のメタアナリシスの結果,HR 1.01(95%CI 0.80-1.28,p=0.71)と効果に異質性はなく,有意ではなかった(図4)。
3)全死亡リスク
全死亡をアウトカムとした研究は6件あり,診断前1件1),診断後4件3)4)6)7),診断前後1件5)であった。診断前2件のメタアナリシスの結果,HR 1.01(95%CI 0.95-1.08,p=0.75)であり,効果に異質性は認めず,有意ではなかった(図5)。診断後5件のメタアナリシスの結果,HR 1.03(95%CI 0.89-1.19,p=0.74)と効果に異質性は認めたが,有意ではなかった(図6)。
4)一般健康への益について
一般健康への影響を扱った研究は,乳癌以外の死亡を評価したコホート研究1件であった4)。総乳製品摂取に関してはHR 1.54(95%CI 0.99-2.39)と有意なリスクは認めなかったが,高脂肪乳製品では乳癌以外の死亡リスクはHR 1.67(95%CI 1.13-2.47)と高かった。一般健康への益に関しては,一般成人における乳製品に関するレビューが1件存在し,乳製品の摂取と脳卒中のリスク減少に関するメタアナリシスであった。この研究では日本人を対象とした研究が4件含まれている8)。
このメタアナリシスではHRは0.93(95%CI 0.88-0.98,p=0.004)と異質性は高いが有意な脳卒中のリスク低減を認めていた。また,東アジア6件を評価した結果でもHRは0.82(95%CI 0.75-0.90,p<0.0001)と異質性は高くなく,東アジアにおいても有意なリスク低減を認めていた(図7)。
高脂肪乳製品の摂取は以前より問題視されていた。高脂肪乳製品で研究された文献は再発について診断前2件1)2),診断後2件3)4),乳癌死亡については診断前1件2),診断後2件3)4),全死亡については診断前1件1),診断後2件3)4)存在した。
メタアナリシスを行った結果,再発に関してはHR 1.14(95%CI 1.02-1.29,p=0.02)と異質性がなく有意にリスク増加し,乳癌死亡に関してはHR 1.26(95%CI 1.06-1.49,p=0.008)と異質性がなく有意にリスク増加し,全死亡に関してはHR 1.24(95%CI 1.00-1.54,p=0.05)と異質性が大きく有意なリスク増加を認めた(図8~10)。
以上から,乳製品により乳癌患者において再発リスク,乳癌死亡リスクや全死亡リスクが増加する可能性は低い。ただし,高脂質乳製品は,乳癌再発リスク,乳癌死亡リスクの増加をきたす可能性があり,高脂質乳製品の過剰摂取は控えたほうがよさそうである。また,乳製品による乳癌以外の死亡リスクが増加する可能性は低く,脳卒中リスクの低減効果はほぼ確実である。日本人を対象とした研究がほとんどないこと,外国の研究でも高脂肪乳製品でなければリスク増加に至らない点や乳製品摂取による益の部分(脳卒中リスク低減効果)も勘案し,「乳癌患者の乳製品の摂取は乳癌患者の予後に影響を及ぼすかどうかは証拠不十分である」とした。
検索キーワード
PubMedで“Breast Neoplasms”,“breast cancer”,“Dairy Products”,“Dietary Fats”,“Prognosis”,“Recurrence”,“Mortality”のキーワードで検索した。検索期間は2016年1月から2021年3月までとした。その結果,PubMed 173編,Cochrane 46編,医中誌22編が抽出され,それ以外に1編の論文が追加された。一次スクリーニングで11編の論文が抽出され,二次スクリーニングにて内容が適切でないと判断した論文を除外し,最終的に3編の論文を採用した。本診療ガイドライン2018年版で選択した6編と合わせ8編を対象に定性的および定量的システマティック・レビューを実施した。このうち乳癌再発をアウトカムとした研究が内訳は診断前2件1)2),診断後2件3)4),診断前後1件5),乳癌死亡は診断前1件2),診断後3件3)4)6),診断前後1件5),全死亡は診断前1件1),診断後4件3)4)6)7),診断前後1件5),一般健康への益について1件4)の研究をアウトカムとして評価した。高脂肪乳製品に該当する研究は,乳癌再発で4件1)~4),乳癌死亡3件2)~4),全死亡2件1)4)で評価した。
参考文献
1)Saxe GA, Rock CL, Wicha MS, Schottenfeld D. Diet and risk for breast cancer recurrence and survival. Breast Cancer Res Treat. 1999;53(3):241-53. [PMID:10369070]
2)Hebert JR, Hurley TG, Ma Y. The effect of dietary exposures on recurrence and mortality in early stage breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 1998;51(1):17-28. [PMID:9877026]
3)Holmes MD, Wang J, Hankinson SE, Tamimi RM, Chen WY. Protein intake and breast cancer survival in the Nurses’ Health Study. J Clin Oncol. 2017;35(3):325-33. [PMID:28095274]
4)Kroenke CH, Kwan ML, Sweeney C, Castillo A, Caan BJ. High- and low-fat dairy intake, recurrence, and mortality after breast cancer diagnosis. J Natl Cancer Inst. 2013;105(9):616-23. [PMID:23492346]
5)Andersen JLM, Hansen L, Thomsen BLR, Christiansen LR, Dragsted LO, Olsen A. Pre- and post-diagnostic intake of whole grain and dairy products and breast cancer prognosis:the Danish Diet, Cancer and Health cohort. Breast Cancer Res Treat. 2020;179(3):743-53. [PMID:31773360]
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8)de Goede J, Soedamah-Muthu SS, Pan A, Gijsbers L, Geleijnse JM. Dairy consumption and risk of stroke:a systematic review and updated dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. J Am Heart Assoc. 2016;5(5):e002787. [PMID:27207960]