CQ2    乳房部分切除術後に断端が陰性の場合,全乳房照射後の腫瘍床に対するブースト照射は勧められるか?

推奨

●病理学的な断端陰性の浸潤性乳癌について,腫瘍床に対するブースト照射が弱く勧められる。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:94%(45/48)


推奨におけるポイント
■ブースト照射は,温存乳房内再発率を低下させ,特に若年者では効果が大きい。
■しかし,全生存率の改善は認めず,リスクを評価して適応を決定する必要がある。

背 景・目 的

 病理学的な断端陽性乳癌では断端陰性乳癌に比べ局所再発率が高いことが知られており,ランダム化比較試験(RCT)による検証は少ないものの,多くの施設では全乳房照射後に腫瘍床に対する10~16 Gy程度のブースト照射が行われている。しかしながら,病理学的な断端陰性の浸潤性乳癌については,腫瘍床に対するブースト照射によって温存乳房内再発率を有意に低下させることがRCTで報告されているが,施設によってはブースト照射が行われていない。そこで腫瘍床に対するブースト照射の有用性,安全性について検討した。

解 説

 病理学的な断端陰性の浸潤性乳癌については,EORTCのRCTで,腫瘍床に対する16 Gyのブースト照射によって20年の温存乳房内再発率を16.4%から12.0%に低下させることが報告されているが,全生存率の改善は認めていない1)

 本CQでは,乳房部分切除術後の断端陰性患者に対する全乳房照射後の腫瘍床ブースト照射について,益としては温存乳房内再発割合の改善,全生存割合の改善について,EORTC試験とLyon試験2)の2編を採用し,害としては整容性についてEORTC試験に近年の文献を1編3)加えた計2編を採用した。

 益に関しては,温存乳房内再発と全生存率についてメタアナリシスを行い,ブースト照射により温存乳房内再発は有意に低下し〔リスク比(RR)0.66,95%CI 0.57-0.77,p<0.0001〕,全生存率はブースト照射の有無で有意差を認めなかったハザード比(HR) 0.96,95%CI 0.71-1.31,p=0.81

 EORTCの報告によれば,40歳以下,41~50歳,51~60歳,61歳以上のいずれの年齢層でもブースト照射による局所再発率の有意な低下を認めたが,特に40歳以下で局所再発率の低下が大きかった1)。ただし,この試験では断端陰性の定義が日本と異なり,非浸潤部が露出していても陰性とみなされており,ブースト照射による影響がより強いと考えられることに注意が必要である。切除断端までの距離が5 mmより大きい場合を陰性と定義した場合のブースト照射を行わない日本人のデータでは,観察期間中央値9.3年で10年温存乳房内再発率が40歳以下で15.7%と有意に高いことが報告された4)。また,断端が近接している場合は,ブースト照射の適応について外科側と協議することが望ましい(☞外科FRQ2参照)。

 害に関しては,長期整容性についてメタアナリシスを行い,ブースト照射により有意に悪化した(RR 1.99,95%CI 1.59-2.49,p<0.0001)。また乳房線維化については,EORTCの報告でブースト照射により有意に乳房線維化の頻度が高くなった。しかし,重度の線維化の頻度は20年で5.2%と低く,40歳以下の年齢層ではブースト照射群,非ブースト照射群で重度の線維化の頻度に有意差を認めなかった1)

 また,ブースト線量に注目すると,別のEORTCの報告では重度の線維化の頻度がブースト線量26 Gy群では10年で14.4%であったのに対し,10 Gy群では3.3%と有意に少なかった5)。日本人でのブースト線量10 Gyの報告では,ブースト照射で毛細血管拡張は増加した(0%から7%,p<0.0001)が硬結・線維化は増加しなかった(3.4%から3.0%,p=0.27)6)。わが国では,ブースト線量は10 Gyを用いることが多く7),先述のブースト線量16 GyのEORTC試験の有害事象が許容内であったことを考えると,わが国でのブースト照射は安全に施行可能と考えられた。

 ブースト照射は,温存乳房内再発率を低下させると考えられ,特に若年者では再発リスクが高いため効果も大きい。しかし,全生存率の改善は認めておらず推奨度としては弱くなると考えた。また,ブースト照射は,整容性の低下や乳房線維化の増加につながる。

 以上をまとめると,益としてブースト照射が局所再発を有意に減少させることが挙げられる。また,害としては晩期有害事象および整容性低下のリスクが高まることや,約1週間程度の通院期間の延長や治療費の増加が挙げられる。

 ブースト照射が局所再発を有意に減少させること,それにより再発に伴う治療費や精神面での負担のリスクも低減することを患者によく説明する必要がある。ブースト照射に伴い治療期間が延長すること,治療費が増加することに関しては患者の好みは分かれると考えられる。

 ブースト照射は局所再発を有意に減少させ,特に40歳以下で顕著である。一方,乳房線維化のリスクが高まるが,40歳以下では軽い。40歳以下では晩期有害事象を考慮しても益が害を上回り,若年者では推奨されると思われる。

 温存乳房内再発抑制の程度がより大きく,乳房線維化のリスクが少ない若年の年齢層では利益が害を上回ると考えられ,ブースト照射がより推奨される。NCCNガイドラインでは50歳未満をブースト照射適応判断の基準の一つに挙げている。8)

 以上より,断端陰性の浸潤性乳癌では,特に若年者では腫瘍床に対するブースト照射が推奨される。

 RCTの長期経過を報告した論文は1編のみであり,エビデンスの強さは「中」とした。

 実際には,多くの施設で断端陰性の浸潤性乳癌に対しブースト照射が行われていない現状もあり,推奨決定会議では,ブースト照射を行うことを弱く推奨するという意見が45/48(94%)であったが,一方で行わないことを弱く推奨するという意見が2/48(4%)認められた。

 以上より,推奨としては,「乳房部分切除術後の病理学的な断端陰性の浸潤性乳癌について,腫瘍床に対するブースト照射が弱く勧められる」とした。

 また,非浸潤性乳管癌(DCIS)においてはBIG 3-07/TROG 07.01試験で全乳房照射に引き続き16 Gy / 8 回のブーストを追加する意義がRCTで評価された。試験の対象はDCISの部分切除術後で病理学的に1mm以上の切除マージンを確保して断端陰性と評価され,かつ,非低リスク症例(50歳未満,または,次のいずれかの因子をもつ:有症状,腫瘤触知,多発,腫瘍最大径1.5cm以上,核グレードが中または高,中心壊死,コメド壊死,切除マージンが10mm未満)であった。
5年の温存乳房内無再発率はブースト群97.1%に対して,非ブースト群で92.7%,(HR 0.47,  95%CI 0.31-0.72, p<0.001)と、ブーストを行うことで温存乳房内再発が有意に減少することが示された。一方,全生存率は両群で差異はなかった。9) 浸潤癌における試験と同様に,晩期毒性と整容性はそれぞれブースト群でイベントが有意に高頻度に観察された。3) 9) 
 

乳房部分切除で断端が陽性,または2mm未満に非浸潤癌が存在する場合の対処については(☞外科FRQ2)の議論も参照。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Radiotherapy”,“Mastectomy, Segmental”,“boost”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2021年3月までとし,275件がヒットした。一次スクリーニングで32編,二次スクリーニングで5編の論文が抽出され,ハンドサーチで4編の論文を追加した。

参考文献

1)Bartelink H, Maingon P, Poortmans P, Weltens C, Fourquet A, Jager J, et al;European Organisation for Research and Treatment of Cancer Radiation Oncology and Breast Cancer Groups. Whole-breast irradiation with or without a boost for patients treated with breast-conserving surgery for early breast cancer:20-year follow-up of a randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2015;16(1):47-56. [PMID:25500422]

2)Romestaing P, Lehingue Y, Carrie C, Coquard R, Montbarbon X, Ardiet JM, et al. Role of a 10-Gy boost in the conservative treatment of early breast cancer:results of a randomized clinical trial in Lyon, France. J Clin Oncol. 1997;15(3):963-8. [PMID:9060534]

3)King MT, Link EK, Whelan TJ, Olivotto IA, Kunkler I, Westenberg AH, et al;BIG 3-07/TROG 07.01 trial investigators. Quality of life after breast-conserving therapy and adjuvant radiotherapy for non-low-risk ductal carcinoma in situ(BIG 3-07/TROG 07.01):2-year results of a randomised, controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2020;21(5):685-98. [PMID:32203696]

4)Ono Y, Yoshimura M, Hirata K, Yamauchi C, Toi M, Suzuki E, et al. The impact of age on the risk of ipsilateral breast tumor recurrence after breast-conserving therapy in breast cancer patients with a >5 mm margin treated without boost irradiation. Radiat Oncol. 2019;14(1):121. [PMID:31291997]

5)Poortmans PM, Collette L, Horiot JC, Van den Bogaert WF, Fourquet A, Kuten A, et al;EORTC Radiation Oncology and Breast Cancer Groups. Impact of the boost dose of 10 Gy versus 26 Gy in patients with early stage breast cancer after a microscopically incomplete lumpectomy:10-year results of the randomised EORTC boost trial. Radiother Oncol. 2009;90(1):80-5. [PMID:18707785]

6)Okumura S, Mitsumori M, Kokubo M, Yamauchi C, Kawamura S, Oya N, et al. Late skin and subcutaneous soft tissue changes after 10-gy boost for breast conserving therapy. Breast Cancer. 2003;10(2):129-33. [PMID:12736565]

7)Aibe N, Karasawa K, Aoki M, Akahane K, Ogawa Y, Ogo E, et al. Results of a nationwide survey on Japanese clinical practice in breast-conserving radiotherapy for breast cancer. J Radiat Res. 2019;60(1):142-9. [PMID:30476198]

8)NCCN Clinical practice guidelines in oncology:BREAST CANCER, version 2. 2023. https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/breast.pdf (アクセス日:2023/2/24)

9) Chua BH, Link EK, Kunkler IH, Whelan TJ, Westenberg AH, Gruber G, et al. BIG 3–07/TROG 07.01 trial investigators. Radiation doses and fractionation schedules in non-low-risk ductal carcinoma in situ in the breast (BIG 3-07/TROG 07.01): a randomised, factorial, multicentre, open-label, phase 3 study. Lancet. 2022 ; 400(10350) : 431-40. [PMID: 35934006]