FRQ12   肺,骨,肝転移巣に対する外科的切除は勧められるか?

ステートメント

●生命予後延長を目的とした肺,骨,肝転移に対する外科的切除は勧められない。
●オリゴ転移に関しては今後の研究成果が期待されるが,現時点で外科的切除は勧められない。

背 景

 乳癌は原発巣から領域リンパ節を越えて広がると治癒は困難である。転移後の治療の目的は治癒から緩和へと移行し,症状のコントロール,QOLの改善,生存の延長を目標に行われる。また,少数臓器のオリゴ転移(oligometastatic disease;OMD)に対しては転移巣を切除することで臨床成績の改善が得られる可能性が論じられるようになってきた。乳癌の転移巣を切除することが生存の延長に寄与するか否かエビデンスをもとに検討した。OMDに対する放射線療法に関しては放射線FRQ6を参照されたい。

解 説

 乳癌の遠隔転移臓器は主に肺,骨,肝などであるが,いずれも転移を認めたときには多発性で多臓器に病変が及ぶことが多く,局所治療(手術,放射線療法)のみで治癒させることは極めて困難である。一方,近年では,PET-CTなどの有用な転移検索検査の普及や革新的な乳癌治療薬の臨床導入に伴い,遠隔転移を認めた際でも,少数臓器の少数転移(OMD)に対しては転移巣を切除することで無増悪生存期間(PFS),全生存率(OS)の改善が得られる可能性が論じられるようになってきた1)。OMDは新たに診断される転移・再発乳癌の1~10%を占めると報告されているが2)3),OMDに確立した定義はない。ABC3(The Advanced Breast Cancer Third International Consensus Conference)においては5個以下で必ずしも同一臓器でなくてもよいとのコンセンサスが示され,German expertsにおいては同一臓器内の限られた個数とのコンセンサスが示されるなど,組織団体ごとに異なる解釈がされているが,5個以内2臓器以内となっているものが多い4)

 転移乳癌症例のおよそ15~25%が肺に限局し,肺転移単独症例に対する肺切除は長期生存をもたらす可能性が示唆されているが,手術の適応に関しては転移の大きさやdisease-free interval(DFI)を考慮すべきと報告されている5)。従前の肺転移切除に関する報告では手術群における臨床成績の改善が報告されているが,これらのデータには選択バイアスがあり,非手術症例では悪い予後因子〔多発,急速増大,短いDFI,低いPS(performance status)〕が多いなど選択バイアスが認められる6)7)。また,乳癌既往のある単発性肺腫瘍では,良性,原発性肺癌,乳癌肺転移などが鑑別に挙げられ,孤発性の肺結節を有する乳癌患者1,286人のうち手術を行った167人の報告では,良性20例,原発肺癌70例,乳癌肺転移が52例であったとされており,転移か原発か判断に迷う単発性肺腫瘍の場合,診断を目的とした切除は考慮される。また,この52例と手術を行わず乳癌の肺転移と診断された25人を比較した結果では,多変量解析により手術による有意なPFSの改善が示された(p=0.003)が,全生存期間においては統計学的な有意差は認められなかった(p=0.192)8)

 骨転移は乳癌の転移部位としては最多であり,有痛性の骨転移に対しては疼痛の軽減と骨折予防効果を期待して放射線療法が考慮される(☞放射線BQ11参照)。骨転移に対して外科的切除が検討されるのは,脊髄圧迫による神経症状の軽減を図る際など限られた状況のみである。脊椎骨転移により有症状を呈する乳癌87例の検討では,積極的な整形外科手術により痛みを軽減し,神経学的機能を保持,改善可能となったと報告されている9)。骨転移に対する治癒を目的とした外科的切除が可能であるのは限られた部位であり,胸骨転移および原発巣からの胸骨浸潤のようなごく稀な場合である10)。乳癌からの胸骨転移症例20例に対する外科的切除の報告では,低い合併症率(minor complications 30%, major complications 5%)で良好な治療成績が得られると報告されているものの,全例で筋皮弁が必要になるなど相応の手術侵襲であり,害と益との比較が必要である11)。また,近年広く臨床導入されているビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体は骨関連事象の発現減少効果が明らかであり,骨転移の手術の重要性はさらに低下していると考えられる。

 乳癌術後の遠隔転移臓器として肝臓は骨に次いで二番目に多く,40~50%の転移乳癌で認められると報告されている12)。肝転移は病勢の進行に伴って出現し,びまん性や多発の状態や多臓器の転移も随伴した状況で診断されることが多いが,乳癌からの肝転移症例の5%程度は診断時に肝臓に限局していると報告されている13)。タキサン系薬剤を含んだ治療を行ったときの生存期間中央値は,肝転移のみの症例,肝を含むほかの臓器転移症例ではそれぞれ22~27カ月,9~14カ月であった14)。乳癌肝転移の外科的切除に関する43文献,1,686症例を集積したシステマティック・レビュー(SR)では,83%(683/825)でR0切除が可能であり,合併症および30日以内の死亡はそれぞれ20%(174/852),0.7%(6/918)であったと報告されている。また,生存期間の中央値は36カ月,1年,3年,5年の生存率はそれぞれ90%,56%,37%と報告されており,術前のリスクを考慮し,選択された集団を対象とした場合は良い臨床効果が得られる可能性を示唆しているが,非ランダム化の後ろ向き研究のSRであること,個々の研究の症例数が少ないこと,それゆえ患者背景の不均質性が大きいことなど,多くのバイアスを含んだ結果となっている15)。異時性に診断された肝転移のみの症例で外科的切除を施行した139症例とケースマッチを行った523症例との比較においても,手術症例におけるOSの改善が示されたが(5年生存率:手術群69%,非手術群10%),2群間には年齢,肝転移の腫瘍径,ERの陽性率など重要な因子で有意な偏りを認めており,バイアスの大きい結果であった16)

 以上より,遠隔転移巣に対する外科的切除の意義は,転移巣切除による症状緩和および転移巣の病理組織学的診断である。転移巣であることを病理組織学的に確定することや治療選択に直結する重要なバイオマーカーに関する情報が得られることは,転移・再発乳癌の治療を進めていくうえで極めて重要な要素であるが,これは針生検材料で十分なことも多く,病理組織学的診断を目的とした外科的切除は針生検が困難な場合に選択されることが多いと考えられる。また,OMDに対しOSの改善を期待した外科的切除に関しては,近年の鏡視下手術の普及など手術侵襲の「害」を低減する背景も重ね考えるとその有用性が期待されるが,現状のデータにおいては手術群,非手術群間のバイアスが大きく,その功罪を決定する十分な根拠は不足している。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“breast neoplasms”“metastasis”“oligometastasis”“lung neoplasms”“bone neoplasms”“liver neoplasms”“surgery”をキーワードとして検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2021年6月までとし,159件がヒットした。それ以外にハンドサーチで10編の論文が追加された。この中から主要な論文16編を選択した。

参考文献

1)Tait CR, Waterworth A, Loncaster J, Horgan K, Dodwell D. The oligometastatic state in breast cancer:hypothesis or reality. Breast. 2005;14(2):87-93. [PMID:15767177]

2)Hanrahan EO, Broglio KR, Buzdar AU, Theriault RL, Valero V, Cristofanilli M, et al. Combined-modality treatment for isolated recurrences of breast carcinoma:update on 30 years of experience at the University of Texas M. D. Anderson Cancer Center and assessment of prognostic factors. Cancer. 2005;104(6):1158-71. [PMID:16047352]

3)Pagani O, Senkus E, Wood W, Colleoni M, Cufer T, Kyriakides S, et al;ESO-MBC Task Force. International guidelines for management of metastatic breast cancer:can metastatic breast cancer be cured? J Natl Cancer Inst. 2010;102(7):456-63. [PMID:20220104]

4)Thomssen C, Augustin D, Ettl J, Haidinger R, Lück HJ, Lüftner D, et al. ABC3 consensus:assessment by a German Group of Experts. Breast Care(Basel). 2016;11(1):61-70. [PMID:27051399]

5)Planchard D, Soria JC, Michiels S, Grunenwald D, Validire P, Caliandro R, et al. Uncertain benefit from surgery in patients with lung metastases from breast carcinoma. Cancer. 2004;100(1):28-35. [PMID:14692021]

6)Friedel G, Pastorino U, Ginsberg RJ, Goldstraw P, Johnston M, et al;International Registry of Lung Metastases, London, England. Results of lung metastasectomy from breast cancer:prognostic criteria on the basis of 467 cases of the International Registry of Lung Metastases. Eur J Cardiothorac Surg. 2002;22(3):335-44. [PMID:12204720]

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14)Atalay G, Biganzoli L, Renard F, Paridaens R, Cufer T, Coleman R, et al;EORTC Breast Cancer and Early Clinical Studies Groups. Clinical outcome of breast cancer patients with liver metastases alone in the anthracycline-taxane era:a retrospective analysis of two prospective, randomised metastatic breast cancer trials. Eur J Cancer. 2003;39(17):2439-49. [PMID:14602130]

15)Yoo TG, Cranshaw I, Broom R, Pandanaboyana S, Bartlett A. Systematic review of early and long-term outcome of liver resection for metastatic breast cancer:is there a survival benefit? Breast. 2017;32:162-72. [PMID:28193572]

16)Ruiz A, van Hillegersberg R, Siesling S, Castro-Benitez C, Sebagh M, Wicherts DA, et al. Surgical resection versus systemic therapy for breast cancer liver metastases:results of a European case matched comparison. Eur J Cancer. 2018;95:1-10. [PMID:29579478]