BQ4 初回腋窩リンパ節郭清後の腋窩リンパ節再発に対する外科的切除は勧められるか?
背 景
腋窩リンパ節郭清後の患者における腋窩リンパ節単独再発の報告は増えている。乳癌の初期治療においては,腋窩リンパ節転移個数が4個以上の患者に対して胸壁や領域リンパ節への放射線療法で予後の改善が期待できるなど,局所制御による治療効果はあると考えられる(☞放射線BQ5,FRQ4参照)。遠隔転移を伴わない腋窩リンパ節単独再発に対する外科的切除の意義についてエビデンスをもとに概説する。
解 説
腋窩リンパ節再発に関して,そこに外科的切除を加える群と切除しない群でのランダム化比較試験は存在せず,腋窩リンパ節再発に対する外科的切除の意義に関しては少数の後ろ向きの症例集積研究しかない1)~4)。2012年の腋窩リンパ節郭清後の同側腋窩リンパ節再発の報告によると,観察期間70.2カ月で4,473例中35例0.8%に再発を認めた1)。腋窩リンパ節再発後の乳癌特異的5年生存率は57.9%であった。外科的切除で得られる「益」としての生存率の向上に関しては,再腋窩リンパ節郭清できた12例の5年生存率が82.5%であったのに対して,再郭清なしの23例は44.9%であり,再郭清できたほうが有意(p=0.039)に予後良好であった。ただし,選択バイアスを含んでいる可能性には注意が必要である。センチネルリンパ節生検後では1%未満と報告されている5)。特にセンチネルリンパ節生検後の腋窩リンパ節再発症例に対しては腋窩郭清が基本であり,さらに術後放射線療法の適応について考慮すべきである。一方で,外科的切除の「害」である術後合併症,入院手術コストに関しての報告はないが,手術を行うことで,非手術に比べて術後合併症やコストが増えることは明らかである。患者の希望は,手術可能で根治が期待できれば手術を希望することが予測され,概ね一致すると思われる。
腋窩リンパ節再発に関しては,初回の腋窩リンパ節郭清が不十分であった可能性があり,根治を目指せる症例が一部に存在し,再郭清による生存率向上の恩恵を受ける可能性を重要視して,外科的切除を行うことを勧める。
以上,本BQは「乳癌診療ガイドライン2018年版」に引き続き当初CQとして取り上げ,定性的システマティック・レビューを行ったが,推奨決定会議において,後ろ向きの症例集積研究のみでランダム化比較試験は存在せず,今後も新たなエビデンスの創出の可能性に乏しいことが予想されたため,BQとして取り上げることとした。領域リンパ節の単独再発に対する放射線療法については放射線FRQ4を参照。
検索キーワード・参考にした二次資料
「乳癌診療ガイドライン2018年版」の同クエスチョンの参考文献に加え,PubMedで“Breast Neoplasms”,“Breast cancer”,“Lymphatic Metastasis”,“Neoplasm Recurrence, Local”のキーワードと,“axilla”の同義語で検索した。検索期間は2021年6月までとし,398件がヒットした。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索し,ハンドサーチも加え,数編の論文を加えた。この中から重要と思われる論文を抽出した。
参考文献
1)Shen SC, Liao CH, Lo YF, Tsai HP, Kuo WL, Yu CC, et al. Favorable outcome of secondary axillary dissection in breast cancer patients with axillary nodal relapse. Ann Surg Oncol. 2012;19(4):1122-8. [PMID:21969085]
2)Wright FC, Walker J, Law CH, McCready DR. Outcomes after localized axillary node recurrence in breast cancer. Ann Surg Oncol. 2003;10(9):1054-8. [PMID:14597444]
3)Konkin DE, Tyldesley S, Kennecke H, Speers CH, Olivotto IA, Davis N. Management and outcomes of isolated axillary node recurrence in breast cancer. Arch Surg. 2006;141(9):867-72;discussion 872-4. [PMID:16983030]
4)Newman LA, Hunt KK, Buchholz T, Kuerer HM, Vlastos G, Mirza N, et al. Presentation, management and outcome of axillary recurrence from breast cancer. Am J Surg. 2000;180(4):252-6. [PMID:11113430]
5)Giuliano AE, McCall L, Beitsch P, Whitworth PW, Blumencranz P, Leitch AM, et al. Locoregional recurrence after sentinel lymph node dissection with or without axillary dissection in patients with sentinel lymph node metastases:the American College of Surgeons Oncology Group Z0011 randomized trial. Ann Surg. 2010;252(3):426-32. [PMID:20739842]