FRQ8   鎖骨上リンパ節再発の外科的切除は勧められるか?

ステートメント

●鎖骨上リンパ節再発の外科的切除は基本的には勧められない。

背 景

 乳癌根治術後の同側鎖骨上リンパ節単独再発はときどき経験する。遠隔転移を伴わない鎖骨上リンパ節単独再発に対する外科的切除の意義についてエビデンスをもとに検討した。

解 説

 鎖骨上リンパ節再発に関して,そこに外科的切除を加える群と切除しない群でのランダム化比較試験は存在しない。よって,後ろ向きの報告から検討した。

 同側鎖骨上リンパ節単独再発は,腋窩再発に比べるとより進展した部位での再発である。少数の後ろ向きの症例集積研究しかないが,頻度は文献的に0.8~2.6%であり,多くの報告で,予後は遠隔転移を認めた患者と比較すると良好であった1)~5)。「益」である生存率の向上に関して,外科的切除を非手術と比較した論文はなかったが,鎖骨上リンパ節単独再発に対して,全身薬物療法に加え,放射線療法や何らかの外科的切除(切除生検や頸部リンパ節郭清)を加えることにより,局所制御を良好に保つことができた群や完全奏効(CR)が得られた群で予後良好であるとの報告が散見された。しかし,バイアスを含んでいる可能性には注意が必要である。「害」である術後合併症,入院手術コストに関しての論文はないが,手術を行うことで,非手術に比べて腋窩リンパ節郭清以上に術後合併症は多くなる可能性があり,入院手術コストが増えることも明らかである。

 以上より,鎖骨上リンパ節再発は腋窩リンパ節再発以上に進展した部位での再発であり,局所制御+全身薬物療法が基本である。外科的切除を加えることによる明らかな予後改善は確認できず,一方で,術後合併症や後遺症などの「害」は腋窩リンパ節郭清以上に軽視できない。現時点では局所制御は手術より侵襲の少ない放射線療法を基本とし,外科的切除は基本的には勧められない。

 一方で近年,大きさや数の限られたリンパ節転移,遠隔転移のみを認めるオリゴ転移に対する積極的な局所療法による予後改善の可能性が検討されはじめており,外科手術も含めた局所療法の意義に関する前向き臨床試験も行われている(NRG-BR002試験,NCT02364557試験)。鎖骨上リンパ節再発に対する外科的治療の考え方も以前より変化していく可能性があり,さらなる研究の蓄積が期待される。

 以上,本FRQは「乳癌診療ガイドライン2018年版」に引き続き当初CQとして取り上げ,定性的システマティック・レビューを行ったが,推奨決定会議において,少数の後ろ向きの症例集積研究しかなく,同側鎖骨上リンパ節の単独再発に関する直接性の高い前向きランダム化試験のエビデンスは存在せず,予後への影響が明らかでないためCQとして取り上げるには時期尚早との意見が出された。今後,オリゴ転移に対する外科手術も含めた積極的な局所療法の意義に関する前向き臨床研究の結果が待たれ,今回はFRQとして取り上げることとした。領域リンパ節の単独再発に対する放射線療法については放射線FRQ4を参照。

検索キーワード・参考にした二次資料

 「乳癌診療ガイドライン2018年版外科療法」の同クエスチョンの参考文献に加え,PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Breast cancer”,“Lymphatic Metastasis”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“supraclavicular”,“ipsilateral”のキーワードで検索した。検索期間は2021年6月までとし,268件がヒットした。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索し,ハンドサーチで数編の論文を加えた。この中から主要な論文を抽出した。

参考文献

1)Chen SC, Chang HK, Lin YC, Leung WM, Tsai CS, Cheung YC, et al. Prognosis of breast cancer after supraclavicular lymph node metastasis:not a distant metastasis. Ann Surg Oncol. 2006;13(11):1457-65. [PMID:16960682]

2)Reddy JP, Levy L, Oh JL, Strom EA, Perkins GH, Buchholz TA, et al. Long-term outcomes in patients with isolated supraclavicular nodal recurrence after mastectomy and doxorubicin-based chemotherapy for breast cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2011;80(5):1453-7. [PMID:21168284]

3)van der Sangen MJ, Coebergh JW, Roumen RM, Rutten HJ, Vreugdenhil G, Voogd AC. Detection, treatment, and outcome of isolated supraclavicular recurrence in 42 patients with invasive breast carcinoma. Cancer. 2003;98(1):11-7. [PMID:12833449]

4)Deo SV, Purkayastha J, Shukla NK, Raina V, Asthana S, Das DK, et al. Intent of therapy in metastatic breast cancer with isolated ipsilateral supraclavicular lymph node spread--a therapeutic dilemma. J Assoc Physicians India. 2003;51:272-5. [PMID:12839350]

5)Pergolizzi S, Settineri N, Santacaterina A, Spadaro P, Maisano R, Caristi N, et al. Ipsilateral supraclavicular lymph nodes metastases from breast cancer as only site of disseminated disease. Chemotherapy alone vs. induction chemotherapy to radical radiation therapy. Ann Oncol. 2001;12(8):1091-5. [PMID:11583190]