FRQ14   潜在性乳癌に対して,乳房非切除は勧められるか?

ステートメント

●MRIでも病変が指摘できない潜在性乳癌は,乳房非切除であっても全乳房照射をすることで局所の制御は得られる可能性が高い。

背 景

 腋窩リンパ節に乳癌の転移を認めるが,乳房内には原発巣が同定できないものを潜在性乳癌と呼ぶ。局所療法として腋窩リンパ節郭清が必要であるが,この際に同側乳房には,乳房全切除,乳房非切除で全乳房照射,乳房非切除かつ非照射(経過観察)の3つの治療方針が挙げられる。乳房非切除の妥当性について前向きの比較試験は存在しないため,過去の文献をもとに検討した。

解 説

 潜在性乳癌の基本的な治療方針は,腋窩リンパ節転移を伴う乳癌に準じる。すなわち全身療法に加えて,乳房全切除術と腋窩リンパ節郭清を行うことである。乳房全切除検体の詳細な病理検索により,大半の症例で原発巣が認められることがその根拠とされてきた1)。しかしこれらは2000年以前の症例からの報告で,乳房の診断方法が視触診とマンモグラフィに限られている時代の検討である。乳房造影MRI検査が施行されている潜在性乳癌症例の8報告をまとめた2010年のレビューでは,マンモグラフィで病変が検出されない220症例の約80%にMRIで乳房内の微小病変が発見され,超音波を用いて局在を同定し得ている2)。その中で手術を行った22人のうち21人(95%)において病理学的に癌病巣が発見された。腋窩リンパ節に乳癌細胞(腺癌細胞)が認められる症例に対する乳房造影MRI検査は,乳房内の微小癌巣検出に有用であり,治療開始前に行うことが望ましい。

 マンモグラフィ,超音波,さらにMRIを駆使して患側乳房の検査を行ったにもかかわらず,乳房内に病変が認められない症例が狭義の潜在性乳癌であり,近年の高精細MRIの普及に伴い潜在性乳癌症例は減少している。これらの狭義の潜在性乳癌に対して,乳房を温存できる可能性についてはまだ多くのデータがない。潜在性乳癌に対して乳房非切除+全乳房照射を行った比較的新しい報告では,その局所制御率は75~100%であった3)~5)。特に,MRIにより微小な原発巣の存在が除外された潜在性乳癌においては4),症例数は少ないが乳房非切除+放射線療法のみで100%の局所制御率が得られていた。

 Hesslerらのアメリカの70%の悪性腫瘍を網羅するがん登録データベース,NCDを用いた研究では,2004~2013年の1,853例の潜在性乳癌(cT0 N1/2 M0)に対して腋窩リンパ節郭清のみ(n=106),腋窩リンパ節郭清+放射線療法(n=342),腋窩リンパ節郭清+乳房全切除±放射線療法(n=592)の予後を検討している6)。8年生存率はそれぞれ65%,85%,73%であり,多変量解析では腋窩リンパ節郭清+放射線療法で治療することが,予後改善における独立した因子であるとしている(ハザード比 0.509,95%CI 0.321-0.808,p=0.004)。診断にMRIがどの程度使用されているのかは明らかではないデータであるが,少なくとも乳房非切除が,乳房全切除に比べて予後を悪くすることはないと考えられる。

 局所療法を何も加えずに経過観察をした報告も少数認められる。10例以上の潜在性乳癌症例を検討している4論文では,62人中24人〔38.7%(21~53%)〕に原発巣の顕在化が生じている7)~10)。乳房造影MRIが使用される以前の報告や,MRIで病変が検出されている症例も含めて検討されているため,今後の症例蓄積が必要であるが,高い局所再発率からは現時点では推奨できない。

 潜在性乳癌に対する乳房局所療法の目的は,乳房内に隠れている癌病巣を取り除くことである。MRIでも病変が指摘できない潜在性乳癌は,乳房非切除であっても全乳房照射をすることで局所の制御は得られる可能性が高い。

検索キーワード・参考にした二次資料

 「乳癌診療ガイドライン①治療編2018年版」の同クエスチョンの参考文献に加え,PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Mastectomy”,“occult”のキーワードで検索した。検索期間は2016年12月~2021年11月とし,90件がヒットした。この中から主要な論文を選択した。また,UpToDate 2021の“Axillary node metastases with occult primary breast cancer”の項目を活用した。

参考文献

1)Kaklamani V, Gradishar WJ. Axillary node metastases with occult primary breast cancer. UpToDate 2017.

https://www.uptodate.com/contents/axillary-node-metastases-with-occult-primary-breast-cancer

2)de Bresser J, de Vos B, van der Ent F, Hulsewé K. Breast MRI in clinically and mammographically occult breast cancer presenting with an axillary metastasis:a systematic review. Eur J Surg Oncol. 2010;36(2):114-9. [PMID:19822403]

3)Foroudi F, Tiver KW. Occult breast carcinoma presenting as axillary metastases. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;47(1):143-7. [PMID:10758316]

4)Varadarajan R, Edge SB, Yu J, Watroba N, Janarthanan BR. Prognosis of occult breast carcinoma presenting as isolated axillary nodal metastasis. Oncology. 2006;71(5-6):456-9. [PMID:17690561]

5)Medina-Franco H, Urist MM. Occult breast carcinoma presenting with axillary lymph node metastases. Rev Invest Clin. 2002;54(3):204-8. [PMID:12183889]

6)Hessler LK, Molitoris JK, Rosenblatt PY, Bellavance EC, Nichols EM, Tkaczuk KHR, et al. Factors influencing management and outcome in patients with occult breast cancer with axillary lymph node involvement:analysis of the National Cancer Database. Ann Surg Oncol. 2017;24(10):2907-14. [PMID:28766198]

7)Ellerbroek N, Holmes F, Singletary E, Evans H, Oswald M, McNeese M. Treatment of patients with isolated axillary nodal metastases from an occult primary carcinoma consistent with breast origin. Cancer. 1990;66(7):1461-7. [PMID:2207996]

8)Merson M, Andreola S, Galimberti V, Bufalino R, Marchini S, Veronesi U. Breast carcinoma presenting as axillary metastases without evidence of a primary tumor. Cancer. 1992;70(2):504-8. [PMID:1617600]

9)van Ooijen B, Bontenbal M, Henzen-Logmans SC, Koper PC. Axillary nodal metastases from an occult primary consistent with breast carcinoma. Br J Surg. 1993;80(10):1299-300. [PMID:8242304]

10)He M, Tang LC, Yu KD, Cao AY, Shen ZZ, Shao ZM, et al. Treatment outcomes and unfavorable prognostic factors in patients with occult breast cancer. Eur J Surg Oncol. 2012;38(11):1022-8. [PMID:22959166]