BQ3   胸壁照射歴のある患者に対する乳房再建は勧められるか?

ステートメント

●胸壁照射歴のある患者に対するインプラントを用いた乳房再建は,合併症発生率が増加することから慎重に行うべきである。
●胸壁照射歴のある患者に対する自家組織を用いた乳房再建は行ってもよい。

背 景

 乳房再建は乳癌術後患者の整容性向上を目指した手技として広く行われている。再建術の有用性は整容的満足度に依存するため,術後合併症は極力避けて皮膚・皮下組織等の組織障害のリスクは最低限に抑える必要がある。しかし昨今,乳房温存療法(乳房部分切除術+放射線療法)後の乳房内再発や,乳房全切除術後放射線療法などの照射歴を有する患者の再建希望が増加している。今回,これらの胸壁照射歴を有する患者に対する乳房再建の妥当性について概説する(☞放射線BQ8参照)。

解 説

 照射後の乳房再建に関しては,インプラントあるいは自家組織を用いた再建における合併症の頻度について検討している論文が多い。Momohらは26編の文献についてレビューを行い,照射後のインプラントを用いた再建における合併症に言及している1)。その結果,軽度被膜拘縮は30%,重度被膜拘縮は25%に認め,漿液腫,軽度感染・創傷治癒遅延・乳房皮膚部分壊死などの軽度合併症は18%,インプラント露出,創離開,重度感染などの重度合併症は49%に認められたと報告した。Berbersらは37編の文献についてレビューを行い,照射後と照射前に再建を行った症例を比較検討した2)。その結果,インプラントを用いた再建では照射後再建群のほうが合併症は多く,修正手術が42.4%に必要であったが,再建後照射群は8.5%であった。しかし,逆に自家組織を用いた再建では再建後照射群のほうが合併症は多く,修正手術も照射後再建群の11.5%に対して,再建後照射群は23.6%であったと報告した。また,自家組織再建に関しては,最近のHershenhouseらによる44編の文献についてのメタアナリシス(n=3,473)では,再建後照射群と照射後再建群の間で合併症率に大きな差はなかったと報告している3)

 Leeらは20編の文献についてメタアナリシス(n=8,251)およびレビューを行い,照射後再建群と非照射再建群を比較検討した4)。その結果,インプラントを用いた照射後再建群は,感染,乳房皮膚壊死,漿液腫などの合併症やそれに伴う修正手術が非照射再建群に比較して約2倍多く認められ,被膜拘縮に関しては3倍以上認められた。また,被覆材であるヒト無細胞化真皮基質(acellular dermal matrix;ADM)を使用した症例や一次再建のほうが合併症は多かった。一方,自家組織を用いた照射後再建群の合併症は非常に少なかったと報告している。腹直筋皮弁による再建を検討した論文では,照射群と非照射群では皮弁の血行に差異はなかったが,乳房全切除術時の乳房皮弁の創傷治癒に関しては照射群が高率に問題を生じていた5)。また,Fischerらは,胸壁照射後に自家組織(広背筋皮弁)+インプラントで再建した31編の報告についてメタアナリシス(n=1,275)を行い,平均42.8カ月の時点で,合併症によるインプラント喪失率は,インプラント単独群に比べ広背筋皮弁併用群で有意に低かったと報告している(5.0% vs 15.0%,p<0.001)6)以上の報告により,照射を受けた胸壁組織がインプラントを被覆する再建材料として使用される再建は合併症が多く,血行の良好な組織を移植して行う自家組織による再建は胸壁照射後の再建であっても合併症が少ないことがわかった。

 インプラントによる再建は非照射の場合であっても,多くの症例でエキスパンダーによる皮膚伸展の負担が存在する。胸壁照射後の場合は,照射野の皮膚が障害され変性しているため,伸展に対する弊害はさらに大きくなる可能性が高い。また,照射の範囲や程度が,再建術の成否に重要な因子となるため6),肉眼的に皮膚に問題がない場合でも,照射の範囲などによりインプラント再建の適応を決めるべきであるとの報告もある7)8)。照射後のインプラントによる再建は,合併症発生率が増加することから慎重に行うべきであるとの報告が散見される1)9)。したがって,照射後にインプラントによる再建を強く希望する患者に対しては,術後合併症について十分説明したうえで慎重に行わなければならない。一方,自家組織による再建は照射後の再建であっても皮弁血行には問題なく,照射皮膚をエキスパンダーにより伸展しないのであれば再建にはあまり影響を与えない。しかし,非照射患者に比べれば照射皮膚に関連する合併症の頻度が増加することは避けられないため,胸壁照射後の自家組織を用いた乳房再建においても適応には注意が必要である。

検索キーワード・参考にした二次資料

 「乳癌診療ガイドライン①治療編2018年版」の同クエスチョンの参考文献に加え,2021年6月7日の時点で,PubMedで,#breast reconstruction,#radiotherapy,#mammaplasty,#breast implant,#autologous reconstructionのキーワードを用いて検索した。

参考文献

1)Momoh AO, Ahmed R, Kelley BP, Aliu O, Kidwell KM, Kozlow JH, et al. A systematic review of complications of implant-based breast reconstruction with prereconstruction and postreconstruction radiotherapy. Ann Surg Oncol. 2014;21(1):118-24. [PMID:24081801]

2)Berbers J, van Baardwijk A, Houben R, Heuts E, Smidt M, Keymeulen K, et al.‘Reconstruction:before or after postmastectomy radiotherapy?’A systematic review of the literature. Eur J Cancer. 2014;50(16):2752-62. [PMID:25168640]

3)Hershenhouse KS, Bick K, Shauly O, Kondra K, Ye J, Gould DJ, et al.“Systematic review and meta-analysis of immediate versus delayed autologous breast reconstruction in the setting of post-mastectomy adjuvant radiation therapy”. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2021;74(5):931-44. [PMID:33423976]

4)Lee KT, Mun GH. Prosthetic breast reconstruction in previously irradiated breasts:a meta-analysis. J Surg Oncol. 2015;112(5):468-75. [PMID:26374273]

5)Bristol SG, Lennox PA, Clugston PA. A comparison of ipsilateral pedicled TRAM flap with and without previous irradiation. Ann Plast Surg. 2006;56(6):589-92. [PMID:16721067]

6)Fischer JP, Basta MN, Shubinets V, Serletti JM, Fosnot J. A systematic meta-analysis of prosthetic-based breast reconstruction in irradiated fields with or without autologous muscle flap coverage. Ann Plast Surg. 2016;77(1):129-34. [PMID:25536206]

7)Grolleau JL, Lanfrey E, Zeybeck C, Chavoin JP, Costagliola M. Effect of irradiation fields on the results of breast reconstruction with skin expansion after radiotherapy. Ann Chir Plast Esthet. 1997;42(6):609-14. [PMID:9768103]

8)Evans GR, David CL, Loyer EM, Strom E, Waldron C, Ortega R, et al. The long-term effects of internal mammary chain irradiation and its role in the vascular supply of the pedicled transverse rectus abdominis musculocutaneous flap breast reconstruction. Ann Plast Surg. 1995;35(4):342-8. [PMID:8585674]

9)Eriksson M, Anveden L, Celebioglu F, Dahlberg K, Meldahl I, Lagergren J, et al. Radiotherapy in implant-based immediate breast reconstruction:risk factors, surgical outcomes, and patient-reported outcome measures in a large Swedish multicenter cohort. Breast Cancer Res Treat. 2013;142(3):591-601. [PMID:24258257]