FRQ3   BRCA病的バリアントをもつ乳癌患者に対し予防的内分泌療法は勧められるか?             

ステートメント

BRCA病的バリアントを有する乳癌患者に対し,新規乳癌発症予防のために予防的内分泌療法を強く勧めるだけのデータは現時点ではない。

背 景

 BRCA病的バリアント保持者において,乳癌の生涯発症リスクは26~84%と高率であり,またBRCA病的バリアントを有する乳癌患者で対側乳癌を発症する10年累積発症率は18~40%である。したがって発症予防を行うことは大変重要である。基本は,対側乳癌発症リスクを低減させることが確実である対側リスク低減乳房切除術(CRRM)であるが,CRRMを希望しない患者に対して,予防的内分泌療法は一つの治療オプションになり得るのかが問題となる。BRCA病的バリアントを有する乳癌患者に対する乳癌の予防的内分泌療法の有用性を検討した。

解 説

 BRCA病的バリアントの乳癌患者の薬物療法としてタモキシフェンを使用したことにより,対側乳癌の発症をどれだけ抑制できるのかについて検討した。BRCA病的バリアントを有する209人の異時性両側乳癌患者を症例群,384人の片側乳癌の患者を対照群とした症例対照研究がある(平均観察期間9.7年)。他の治療要因を考量した多変量モデルで対側乳癌の予防効果を検討したところタモキシフェン服用歴のある女性の対側乳癌発症リスクのオッズ比(OR)は0.50(95%CI 0.28-0.89)であった。BRCA1BRCA2病的バリアント保持者の単変量解析によるORは0.38(95%CI 0.19-0.74),0.63(95%CI 0.20-1.50)であり,BRCA1病的バリアント保持者のみに有意なリスク減少が認められている1)

 今回の,我々が行った4件のコホート研究1)~6)のメタアナリシスの結果ではタモキシフェンのBRCA1〔HR 0.47(95%CI 0.37-0.60)〕ならびにBRCA2〔HR 0.39(95%CI 0.28-0.54)〕病的バリアントを有する乳癌患者の対側乳癌発症予防の効果が示された(図1)。しかし対象となった臨床試験がすべてコホート研究であり,また症例数にも限りがあるため,少なくともBRCA病的バリアント乳癌に対するタモキシフェンの対側乳癌の予防効果がある可能性は高いが,これをもってタモキシフェンのBRCA病的バリアントを有する乳癌患者への新規乳癌の予防効果を証明することはできない。またBRCA病的バリアント乳癌患者における対側乳癌の発症予防としてはCRRMが対側乳癌発症リスクを低減させることが証明されて確立された治療法であり,対側乳癌の発症予防としてタモキシフェンを内服することはCRRMを選択しないことが条件となる。

 BRCA1BRCA2病的バリアント保持者に対するラロキシフェン,アロマターゼ阻害薬の予防効果に関するデータはみられない。
 以上より現時点では,BRCA病的バリアントを有する乳癌患者に対し,新規乳癌発症予防のために予防的内分泌療法を強く勧めるだけのデータは現時点ではない。

検索キーワード

 PubMedで“Breast Neoplasms”,“breast cancer”,“BRCA1, 2 mutation”,“chemoprevention”,“tamoxifen”のキーワードで検索した。検索期間は2016年1月から2021年3月までとした。該当文献としてPubMed 23編,医中誌8編が抽出され,それ以外に1編の論文が追加された。一次スクリーニングで12編の論文が抽出され,二次スクリーニングにて内容が適切でないと判断した論文を除外し,最終的に6編の論文を対象に定性的および定量的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)Narod SA, Brunet JS, Ghadirian P, Robson M, Heimdal K, Neuhausen SL, et al;Hereditary Breast Cancer Clinical Study Group. Tamoxifen and risk of contralateral breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers:a case-control study. Hereditary Breast Cancer Clinical Study Group. Lancet. 2000;356(9245):1876-81. [PMID:11130383]

2)Gronwald J, Robidoux A, Kim-Sing C, Tung N, Lynch HT, Foulkes WD, et al;Hereditary Breast Cancer Clinical Study Group. Duration of tamoxifen use and the risk of contralateral breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers. Breast Cancer Res Treat. 2014;146(2):421-7. [PMID:24951267]

3)Metcalfe K, Lynch HT, Ghadirian P, Tung N, Olivotto I, Warner E, et al. Contralateral breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers. J Clin Oncol. 2004;22(12):2328-35. [PMID:15197194]

4)Phillips KA, Milne RL, Rookus MA, Daly MB, Antoniou AC, Peock S, et al. Tamoxifen and risk of contralateral breast cancer for BRCA1 and BRCA2 mutation carriers. J Clin Oncol. 2013;31(25):3091-9. [PMID:23918944]

5)Reding KW, Bernstein JL, Langholz BM, Bernstein L, Haile RW, Begg CB, et al;WECARE Collaborative Study Group. Adjuvant systemic therapy for breast cancer in BRCA1/BRCA2 mutation carriers in a population-based study of risk of contralateral breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 2010;123(2):491-8. [PMID:20135344]

6)Xu L, Zhao Y, Chen Z, Wang Y, Chen L, Wang S. Tamoxifen and risk of contralateral breast cancer among women with inherited mutations in BRCA1 and BRCA2:a meta-analysis. Breast Cancer. 2015;22(4):327-34. [PMID:26022977]