CQ1    低用量経口避妊薬(OC)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)の使用は乳癌発症リスクを増加させるか?

ステートメント

●低用量経口避妊薬(OC)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)の使用は乳癌発症リスクを増加させる可能性がある。

エビデンスグレード:Limited-suggestive(可能性あり)

背 景・目 的

 日本における経口避妊薬(OC)は,エストロゲンと黄体ホルモンの合剤であり,避妊目的にて自費で処方される。一方,構成されるホルモンの種類や量はOCと同一であるが,月経困難症や子宮内膜症に伴う疼痛の改善に対して保険適用のある製剤が臨床に導入されており,低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)と称される。現在,OCやLEPは女性の生活の質(QOL)を向上させる薬剤として広く用いられているが,一方,エストロゲンと黄体ホルモンを含有するため,乳癌発症リスクの増加が危惧されてきた。

解 説

 OC・LEP使用の益のアウトカムとして避妊効果(重要度6点)と月経困難症改善効果(重要度6点),また,害のアウトカムとして深部静脈血栓症発症リスク(重要度7点)と乳癌発症リスク(重要度9点)を設定した。

 益としての避妊効果については,避妊法を用いなかった場合のパール指数(ある避妊法を一年間用いた場合に,避妊に失敗する確率)が約85といわれているのに対し,日本のデータでは0.07~0.291)2)であり,有効性は高い。また,機能性月経困難症については,7つのランダム化比較試験のメタアナリシスにおいて,オッズ比(OR)2.01(95%CI 1.32-3.08)と有意に改善することが報告されており3),日本における検討でもプラセボ対照ランダム化比較試験においてvisual analogue scale(VAS)が有意に低下することが示されている4)。器質性月経困難症についても,9つのランダム化比較試験と9つの観察研究のレビューから,月経痛や骨盤痛を軽減させると結論付けられている5)。避妊や月経困難症改善効果以外にも,OC・LEPには月経前症候群,尋常性痤瘡(ニキビ)や多毛の改善,卵巣癌,子宮内膜癌,大腸癌発症リスクの減少など多くの副効用を有することが知られており(二次資料①),OC・LEPは女性のQOL向上に貢献する。

 一方,害としての静脈血栓塞栓症(VTE)リスクは22の研究のメタアナリシスにおいて,非服用者と比較してどの種類のOCもリスクが有意に増加することが示されている6)。ただし,絶対リスクは,3~9例/1万婦人・年であり,これは妊娠中や産褥3カ月間におけるVTE発症の約2分の1から10分の1である7)

 OC使用と乳癌発症リスクに関しては,今回の検索期間内に2018年6月までの10研究を対象とした1つのメタアナリシスが検索され,相対リスク(RR)は1.24(95%CI 1.10-1.41)と,わずかながら有意なリスク増加を認めていた(図1)8)。その後に発表されたコホート研究のメタアナリシスでは,ハザード比(HR)1.10(95%CI 1.04-1.17)(図2)9)10),症例対照研究でもOR 2.25(95%CI 1.34-2.79)と有意に増加していた11)。また,デンマークにおける1995年からの登録データによる前向きコホート研究においても,RR 1.19(95%CI 1.13-1.26)と有意なリスク増加を認めていた12)。一方,英国のバイオバンクを用いたコホート研究では,OCの使用歴は乳癌発症リスクと有意な相関はなかった〔RR 1.02(95%CI 0.93-1.12)〕13)。また,日本における2つの検討からメタアナリシスを行った結果でもRR 0.48(95%CI 0.28-0.85)とリスクの増加は認めていなかった14)15)

 死亡率への影響については,スウェーデンのコホート研究では,乳癌罹患後の全死亡リスクについて,OC既使用者と非使用者の間で,HR 1.13(95%CI 0.66-1.94)と,差はみられなかった16)

 OCは1960年に米国FDAに承認されたが,その後,避妊効果を維持しつつ,エストロゲンや黄体ホルモンによる有害事象を回避し,効果を高めるべく開発が進んできた。このため,製剤やレジメンによる差異についても考慮が必要である。エストロゲンに関しては,含有されるエストロゲンであるエチニルエストラジオール(EE)は低用量化が進み,黄体ホルモンは第四世代と呼ばれる新規黄体ホルモンも使用されている。これらの製剤やレジメンによる差異がリスクに影響している可能性があり,実際,従来使用されていた1錠あたりEE 30μg以上を含有する製剤では有意な乳癌リスクの増加が認められていたものの,最近用いられている1錠あたりEE 20μg含有の製剤ではOR 1.0(95%CI 0.6-1.7)と有意差を認めていない17)

 以上のことから,OC・LEPの服用はわずかながら乳癌発症リスクを増加させる可能性があるが,含有されるエストロゲンの量等製剤の種類等を考慮すればリスクが増加しない可能性もあると考えられる。

 乳癌の家族歴がある女性はない女性に比べ乳癌の発症リスクが高いが,OCの使用によってそのリスクがさらに増加することはないと報告されており18),世界保健機関(WHO)におけるOC使用に関する医学的適応基準であるWHO Medical Eligibility Criteria(MEC)においても乳癌の家族歴がある女性に対するOCの使用制限は不要であるというカテゴリー(WHOMEC1)とされている(二次資料②)。また,英国産婦人科学会のカテゴリー分類では,BRCA病的バリアントをもつ女性に対してはUnited Kingdom Medical Eligiblity Criteria(UKMEC)3,つまり,リスクはベネフィットを上回る可能性があるため,使用はできるが専門家に相談したほうがよいとなっている(二次資料③)。日本のOC・LEPガイドラインでは,日本においては乳癌家族歴があってもBRCA病的バリアントが不明であることも多いため,乳癌の家族歴がある女性へは慎重投与となっている(二次資料①)。最近の報告では,BRCA病的バリアント保持者における乳癌未発症女性へのOC投与による乳癌発症リスクについては,前向きコホート研究においてBRCA1病的バリアント保持者ではHR 1.08(95%CI 0.75-1.56)と有意な増加を認めていなかったが,BRCA2病的バリアント保持者ではHR 1.75(95%CI 1.03-2.97)と有意な増加を認めたとされている19)

 もちろん,現在乳癌である女性に対するOC投与は禁忌である(WHOMEC4)が,乳癌の既往歴があり最近5年間に再発所見のない女性に対するOC投与はWHOMEC4ではなく,WHOMEC 3(通常はリスクがベネフィットを上回る)と一段階下げられており,日本のガイドラインにおいても慎重に判断するとされている(二次資料①)。

検索キーワード

 PubMedで“Breast Neoplasms”,“Contraceptive, Oral”,“Risk”のキーワードで,また医中誌で乳房腫瘍,経口避妊薬あるいはLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬),リスクのキーワードで検索した。検索期間は2017年5月から2021年3月までとした。該当文献としてPubMed 184件,医中誌23件,Chochrane 130件の計337件およびその参考文献から論文をリストアップし,ハンドサーチによる文献を加えた。原文査読により一次資料として16件,二次資料として3件,合計19件の文献を選択し,引用した。

参考にした二次資料
  1.  日本産科婦人科学会,日本女性医学学会編.OC・LEPガイドライン.東京,日本産科婦人科学会,2021.
  2.  World Health Organization(WHO). Medical eligibility criteria for contraceptive use. 5th ed, 2015. http://www.who.int/reproductivehealth/publications/family_planning/MEC-5/en/(アクセス日:2021/10/5)
  3.  The Faculty of sexual & reproductive healthcare of the Royal College of Obstetricians & Gynecologists. UK medical eligibility criteria for contraceptive use(UKMEC 2016, amended September 2019). https://www.fsrh.org/standards-and-guidance/documents/ukmec-2016/(アクセス日:2021/10/5)
参考文献

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3)Wong CL, Farquhar C, Roberts H, Proctor M. Oral contraceptive pill for primary dysmenorrhoea. Cochrane Database Syst Rev. 2009;2009(4):CD002120. [PMID:19821293]

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