BQ18   妊娠期・授乳期の乳癌は予後が不良か?

BQ18a 妊娠期の場合

ステートメント

●妊娠期乳癌が予後不良とは結論付けられない。

エビデンスグレード:Limited-no conclusion(証拠不十分)

BQ18b 授乳期の場合

ステートメント

●授乳期の乳癌の予後が不良であることはほぼ確実である。

エビデンスグレード:Probable(ほぼ確実)

背 景

 妊娠期・授乳期乳癌は比較的稀であるが,出産年齢の高齢化により,その頻度は徐々に増加傾向にある。これら妊娠関連乳癌は進行した状態で診断されることが多いため,古くから予後不良であると考えられてきた。しかし,年齢,進行度を妊娠と関連のない乳癌と比較した場合,妊娠関連乳癌の予後は必ずしも不良とはいえないとする報告も散見される。本項では妊娠関連乳癌の予後について概説する。

解 説

 妊娠関連乳癌は,妊娠中あるいは出産後1年以内,または授乳中に診断された乳癌と定義されている。妊娠関連乳癌に共通してみられる特徴としては,腫瘍径が大きいこと,進行した病期であること,リンパ節転移が高度であること,ホルモン受容体陰性の割合が高いこと等が挙げられている(二次資料①②③)。そのためか,妊娠関連乳癌の予後は悪いといわれてきたが,症例数が少ないこともあり,大規模な研究やエビデンスレベルの高い研究を行うことが困難であった。

 しかし,この問題に関しては2012年に3,628例の妊娠関連乳癌と37,100例の妊娠と関連のない乳癌を含む30の研究のメタアナリシスが発表された1)。それによると妊娠関連乳癌は,関連のない乳癌に比較し有意に乳癌死亡のリスクが高く〔pooled hazard ratio(pHR)1.44(95%CI 1.27-1.63)〕,HRの多変量解析でも妊娠関連か否かは独立した乳癌死亡関連因子であった〔pHR 1.40(95%CI 1.17-1.67)〕。また,妊娠期と授乳期に分けて検討すると,妊娠期乳癌の死亡リスクのpHRは1.29(95%CI 0.74-2.24)で有意ではなく,授乳期乳癌の死亡リスクのpHRは1.84(95%CI 1.28-2.65)であり,有意に高かった。妊娠関連乳癌では同様に乳癌再発リスクも有意に高かった〔pHR 1.60(95%CI 1.19-2.16)〕。また,2020年にも76の研究のメタアナリシスが発表された2)。そこでも妊娠関連乳癌は関連のない乳癌に比較し有意に乳癌死亡のリスクが高く〔pHR 1.45(95%CI 1.30-1.63)〕,2012年のメタアナリシスと同等の結果であった。この論文では産後1年以内に乳癌と診断された症例と産後6年以内で乳癌と診断された予後が同様であるとも報告した2)。2010年10月~2021年6月の文献検索におけるその他の個々の症例対照研究はすべて妊娠関連か否かが年齢,ステージを合わせてもなお独立した乳癌死亡関連因子または乳癌再発関連因子と結論付けていた3)~6)

 一方で今回の文献検索における症例対照研究は3件あった。1件は妊娠期乳癌(授乳期乳癌は除く)では年齢,ステージ,組織学的グレード,ホルモン受容体発現状況,HER2発現状況,組織型,化学療法の種類,トラスツズマブ使用の有無,内分泌療法の有無,放射線療法の有無等の治療関連因子も含めて補正した場合,妊娠と関連のない乳癌と比較して5年無再発生存率(RFS),全生存率(OS)に有意差はないと報告した7)。1件は妊娠関連乳癌の死亡率は年齢,診断年,ステージで補正した場合に妊娠と関連のない乳癌のそれと比較して有意差はないと報告した8)。しかし,本報告では出産後1年以内に診断された授乳期乳癌の死亡率は際立って高かったことが追記されていた。さらに,もう1件は妊娠中に化学療法を受けた妊娠期乳癌の5年RFS〔72% vs 57%(p=0.0115)〕と5年OS〔77% vs 71%(p=0.0461)〕は年齢とステージで補正した場合,妊娠と関連のない乳癌のそれらと比較してむしろ有意に良好であったと報告した9)

 日本人の研究は過去に2件であった10)11)。1件は日本乳癌研究会(現日本乳癌学会)の研究として1988年に開始された192例の症例対照研究で,妊娠関連乳癌は,病悩期間が長いこと,腫瘍径が大きいこと,血管侵襲,リンパ節転移が高度であること,エストロゲン受容体(ER)/プロゲステロン受容体(PgR)陽性率が低いことが報告された10)。5年,10年OSは対照群よりも有意に低く(それぞれp<0.0001),その傾向はリンパ節転移陽性症例,Stage Ⅱ,ⅢA期で顕著であった。他の1件11)は単施設からの43例の症例対照研究で,腫瘍径で合わせた場合に妊娠関連乳癌はリンパ節転移が多く,さらにリンパ節転移陽性例では妊娠関連乳癌のほうがOSで劣っていた。また厚生労働省より発刊している「若年者乳がん患者のサバイバーシップ支援プログラム」の中で2004~2009年に登録された日本乳癌学会乳癌登録データで1,781例の妊娠期・授乳期乳癌患者を解析し,妊娠期乳癌よりも授乳期乳癌のほうが予後が悪いこと(p<0.01)や妊娠期・授乳期乳癌でも早期乳癌(Stage Ⅰ,Ⅱ)であれば予後は散発性乳癌に比べても予後は悪くないと報告している。

 2012年のメタアナリシスでは,妊娠期乳癌の予後は妊娠と関連のない乳癌と同等で,授乳期乳癌は予後不良と結論1)付けられるが,同時期に行われた近年の個々の症例対象研究も同様な結果を導き出したものが多い。一方で妊娠期,授乳期にかかわらず妊娠関連乳癌であること自体が予後不良因子であるとする報告も散見される。以上より授乳期乳癌の予後が悪いことはほぼ確実と考えられたが,妊娠期乳癌については積極的治療介入によって妊娠と関連のない乳癌と同等もしくはそれ以上の治療成績が修められており,予後不良とはいえないと判断した。これらの理由は依然として諸説紛々としており,今後の研究成果が待たれる。

 妊娠関連乳癌の診断は極端に遅れることが多々あり,これが予後不良の一因になっている感は否めない。妊娠,授乳中の女性に対しては産婦人科医や助産師との連携を深めて,乳房の変化を観察することの重要性を教育,啓発し,できるだけ早い段階で乳癌を診断できるように努めることが重要である。

検索キーワード

 PubMedで“Breast Neoplasms”,“Pregnancy”,“Lactation”,“Breast Feeding”,“Prognosis”のキーワードで,2018年1月以降の文献を2021年6月に検索した。

参考にした二次資料
  1. Han SN, Van Calsteren K, Heyns L, Mhallem Gziri M, Amant F. Breast cancer during pregnancy:a literature review. Minerva Ginecol. 2010;62(6):585-97. [PMID:21079579]
  2. Loibl S, von Minckwitz G, Gwyn K, Ellis P, Blohmer JU, Schlegelberger B, et al. Breast carcinoma during pregnancy. International recommendations from an expert meeting. Cancer. 2006;106(2):237-46. [PMID:16342247]
  3. Molckovsky A, Madarnas Y. Breast cancer in pregnancy:a literature review. Breast Cancer Res Treat. 2008;108(3):333-8. [PMID:17530426]
参考文献

1)Azim HA Jr, Santoro L, Russell-Edu W, Pentheroudakis G, Pavlidis N, Peccatori FA. Prognosis of pregnancy-associated breast cancer:a meta-analysis of 30 studies. Cancer Treat Rev. 2012;38(7):834-42. [PMID:22785217]

2)Shao C, Yu Z, Xiao J, Liu L, Hong F, Zhang Y, et al. Prognosis of pregnancy-associated breast cancer:a meta-analysis. BMC Cancer. 2020;20(1):746-61. [PMID:32778072]

3)Ali SA, Gupta S, Sehgal R, Vogel V. Survival outcomes in pregnancy associated breast cancer:a retrospective case control study. Breast J. 2012;18(2):139-44. [PMID:22356297]

4)Moreira WB, Brandão EC, Soares AN, Lucena CE, Antunes CM. Prognosis for patients diagnosed with pregnancy-associated breast cancer:a paired case-control study. Sao Paulo Med J. 2010;128(3):119-24. [PMID:20963362]

5)Johansson AL, Andersson TM, Hsieh CC, Cnattingius S, Lambe M. Increased mortality in women with breast cancer detected during pregnancy and different periods postpartum. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2011;20(9):1865-72. [PMID:21750168]

6)Azim HA Jr, Botteri E, Renne G, Dell’orto P, Rotmensz N, Gentilini O, et al. The biological features and prognosis of breast cancer diagnosed during pregnancy:a case-control study. Acta Oncol. 2012;51(5):653-61. [PMID:22171586]

7)Amant F, von Minckwitz G, Han SN, Bontenbal M, Ring AE, Giermek J, et al. Prognosis of women with primary breast cancer diagnosed during pregnancy:results from an international collaborative study. J Clin Oncol. 2013;31(20):2532-9. [PMID:23610117]

8)Johansson AL, Andersson TM, Hsieh CC, Jirström K, Dickman P, Cnattingius S, et al. Stage at diagnosis and mortality in women with pregnancy-associated breast cancer(PABC). Breast Cancer Res Treat. 2013;139(1):183-92. [PMID:23576078]

9)Litton JK, Warneke CL, Hahn KM, Palla SL, Kuerer HM, Perkins GH, et al. Case control study of women treated with chemotherapy for breast cancer during pregnancy as compared with nonpregnant patients with breast cancer. Oncologist. 2013;18(4):369-76. [PMID:23576478]

10)Ishida T, Yokoe T, Kasumi F, Sakamoto G, Makita M, Tominaga T, et al. Clinicopathologic characteristics and prognosis of breast cancer patients associated with pregnancy and lactation:analysis of case-control study in Japan. Jpn J Cancer Res. 1992;83(11):1143-9. [PMID:1483929]

11)Makita M, Sakamoto G, Namba K, Akiyama F, Iwase T, Sugano H, et al. Study of breast cancers during pregnancy and lactation. Gan No Rinsho. 1990;36(1):39-44. Japanese. [PMID:2299790]