FRQ1   術前化学療法が奏効した場合でも乳房全切除術後放射線療法(PMRT)は勧められるか?

ステートメント

●術前化学療法が奏効した場合の術後放射線療法の適応に関する十分なエビデンスはなく,原則として術前化学療法前の病期に従って行うことを検討する。

背 景

 局所進行乳癌における術前化学療法は,ダウンステージによる手術の適応拡大や,遠隔転移の抑制を目標に施行される。術前化学療法を行わない乳房全切除術後放射線療法(PMRT)の適応は,主に術後の病理学的所見により決定されてきたが,術前化学療法施行後の放射線療法については,その適応に関する十分なエビデンスはない。術前化学療法が奏効した場合のPMRTの必要性について検討した。

解 説

 術前化学療法が奏効した状態として,病理学的完全奏効pCR(原発巣と領域リンパ節の両方における浸潤癌の消失)のほか,領域リンパ節転移のみが消失したypN0などがあり,本項ではpCRおよびypN0について扱った。また,文献レビューにおいて乳管内成分の残存の有無については問わなかった。

 術前化学療法施行後のPMRTについては前向きランダム化比較試験の報告はないため十分なエビデンスはないが,いくつかの後ろ向き研究の結果が報告されている。M.D. アンダーソンがんセンターで施行した6つの前向き臨床試験のデータを後ろ向きに解析した研究では,542例の術後放射線療法群と134例の非照射群において10年局所・領域リンパ節再発率が,それぞれ11%と22%であり,非照射群の局所・領域リンパ節再発は有意に高率であった(p=0.0001)が,全生存率は両者で有意な差は認めなかった1)。また,同施設の後ろ向き研究で,術前化学療法で浸潤癌が消失しpCRを得た106例の乳房全切除術施行患者(72例でPMRT施行)のうち,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期の患者ではPMRTの有無にかかわらず,両群で10年までの局所・領域リンパ節再発は皆無であったが,Ⅲ期の患者においては非照射群で局所・領域リンパ節再発率が有意に高かった(7.3±3.5% vs 33.3%±15.7%,p=0.040)2)

 一方,臨床病期Ⅱ-Ⅲ期で術前化学療法がリンパ節転移に奏効したypN0症例を対象とした複数の後ろ向き研究では,いずれもPMRTの有無で局所・領域リンパ節無再発率に有意な差を認めず,このうち2編では全生存率も解析され有意な差は認めなかった3)~5)。また,cT0-4N1-2乳癌に対して術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検の偽陰性率を検証したACOSOG 1071試験の放射線療法に関する後解析では,乳房全切除術を行ったypN0症例157例のうち121例にPMRTが施行された。PMRTの有無で局所・領域リンパ節再発率や全生存率に有意な差は認めなかった6)。米国がん登録データを用いた観察研究では,cT1-3N1乳癌で術前化学療法後に乳房全切除術を施行しypN0となった4,577例を解析し,PMRTの有無で全生存率に有意差は認めなかった7)。米国がん登録データを用いた別の観察研究で,術前化学療法後に乳房全切除術を施行しypN0となった14,690例の解析では,cT1-3N1症例では同様にPMRT施行の有無で全生存率に有意な差を認めなかった。一方で,cT4もしくはcN2-3症例ではPMRT施行群で有意に全生存率が改善した8)

 このように,これまでに報告されている観察研究では,臨床病期Ⅲ期やN2-3では術前化学療法が奏効してもPMRTが有用であることを支持するデータが多い一方で,臨床病期Ⅰ,Ⅱ期やT1-3N1の中リスク群では術前化学療法が奏効した場合にPMRTがアウトカムを改善するというデータは少ない。

 これらの報告に有害事象の詳細な記載はなかったが,術前化学療法を施行しない場合のPMRT例に準じた有害事象とコストを想定して治療を行う必要があると考えられる(☞放射線CQ5参照)。

 患者の好みとしては,術前化学療法が奏効した場合に,有害事象,治療期間の延長や治療費の増加を懸念し,術後放射線療法を省略することを希望する場合があると考えられる。

 NCCNガイドラインでは,診断時と術前全身療法後の病理結果の最大の病期に基づいて放射線療法の適応を決めると記載され,リンパ節転移陽性で術前全身療法後にyN0となった症例でも,PMRTを強く検討するとされている。同様に2021年のザンクトガレンコンセンサスパネルでは,診断時にリンパ節転移陽性の症例では,術前化学療法によってpCRになったとしても領域リンパ節照射を行うことを強く支持している9)。一方,ASCO/ASTRO/SSOのPMRTに関するガイドラインでは,病期Ⅰ-Ⅱ期で術前化学療法後pCRの場合にPMRTの有用性に関するエビデンスは不十分で行うことも行わないことも推奨できないとしている10)

 観察研究でPMRTの有用性が示されていない中リスク群については,現在,cT1-3,N1乳癌に対する術前化学療法後のypN0症例を対象として,PMRTもしくは領域リンパ節照射の意義を検討する第Ⅲ相ランダム化比較試験(NRG Oncology/NSABP B-51/RTOG 1304)が進行中であり,この結果が待たれる。

 現時点では,術前化学療法後にpCRもしくはypN0となった場合にPMRTを省略することが妥当という十分なエビデンスがなく,原則,術前化学療法前の病期に従ってPMRTを行うことを検討すべきである。

検索キーワード・参考にした二次資料

 「乳癌診療ガイドライン①治療編2018年版」の参考文献に加え,PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Radiotherapy”,“Mastectomy”,“Neoadjuvant Therapy”のキーワードと,“pathologic complete response”の同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2021年3月までとし,116件がヒットした。一部をハンドサーチで追加した。また,他のガイドラインや二次資料などから重要と思われる文献を採用した。

参考文献

1)Huang EH, Tucker SL, Strom EA, McNeese MD, Kuerer HM, Buzdar AU, et al. Postmastectomy radiation improves local-regional control and survival for selected patients with locally advanced breast cancer treated with neoadjuvant chemotherapy and mastectomy. J Clin Oncol. 2004;22(23):4691-9. [PMID:15570071]

2)McGuire SE, Gonzalez-Angulo AM, Huang EH, Tucker SL, Kau SW, Yu TK, et al. Postmastectomy radiation improves the outcome of patients with locally advanced breast cancer who achieve a pathologic complete response to neoadjuvant chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2007;68(4):1004-9. [PMID:17418973]

3)Shim SJ, Park W, Huh SJ, Choi DH, Shin KH, Lee NK, et al. The role of postmastectomy radiation therapy after neoadjuvant chemotherapy in clinical stage Ⅱ-Ⅲ breast cancer patients with pN0:a multicenter, retrospective study(KROG 12-05). Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014;88(1):65-72. [PMID:24161425]

4)Cho WK, Park W, Choi DH, Kim YB, Kim JH, Kim SS, et al. The benefit of post-mastectomy radiotherapy in ypN0 patients after neoadjuvant chemotherapy according to molecular subtypes. J Breast Cancer. 2019;22(2):285-96. [PMID:31281730]

5)Zhang Y, Zhang Y, Liu Z, Qin Z, Li Y, Zhao J, et al. Impact of postmastectomy radiotherapy on locoregional control and disease-free survival in patients with breast cancer treated with neoadjuvant chemotherapy. J Oncol. 2021;2021:6632635. [PMID:33564308]

6)Haffty BG, McCall LM, Ballman KV, Buchholz TA, Hunt KK, Boughey JC. Impact of radiation on locoregional control in women with node-positive breast cancer treated with neoadjuvant chemotherapy and axillary lymph node dissection:results from ACOSOG Z1071 clinical trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2019;105(1):174-82. [PMID:31085287]

7)Fayanju OM, Ren Y, Suneja G, Thomas SM, Greenup RA, Plichta JK, et al. Nodal response to neoadjuvant chemotherapy predicts receipt of radiation therapy after breast cancer diagnosis. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2020;106(2):377-89. [PMID:31678225]

8)Haque W, Singh A, Verma V, Schwartz MR, Chevli N, Hatch S, et al. Postmastectomy radiation therapy following pathologic complete nodal response to neoadjuvant chemotherapy:a prelude to NSABP B-51? Radiother Oncol. 2021;162:52-9. [PMID:34214615]

9)Burstein HJ, Curigliano G, Thürlimann B, Weber WP, Poortmans P, Regan MM, et al;Panelists of the St Gallen Consensus Conference. Customizing local and systemic therapies for women with early breast cancer:the St. Gallen International Consensus Guidelines for treatment of early breast cancer 2021. Ann Oncol. 2021;32(10):1216-35. [PMID:34242744]

10)Recht A, Comen EA, Fine RE, Fleming GF, Hardenbergh PH, Ho AY, et al. Postmastectomy radiotherapy:an American Society of Clinical Oncology, American Society for Radiation Oncology, and Society of Surgical Oncology focused guideline update. Pract Radiat Oncol. 2016;6(6):e219-34. [PMID:27659727]