CQ4    乳房部分切除術および腋窩郭清後の腋窩リンパ節転移1~3個の患者では,領域リンパ節(鎖骨上)を照射野に含めることが勧められるか?

推奨

●領域リンパ節(鎖骨上)に対する放射線療法を弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:98%(47/48)


推奨におけるポイント
■領域リンパ節照射の適応は転移リンパ節の個数のみでは決まらないため,一様には推奨しないが,その他のリスクを総合的に考慮して実施することを推奨する。

背 景・目 的

 乳房全切除術後では,転移陽性リンパ節が1~3個の症例においても,領域リンパ節(鎖骨上)を含む乳房全切除術後放射線療法(PMRT)が再発や乳癌による死亡を減少させるとのメタアナリシスがある(☞放射線CQ5参照)。一方,乳房部分切除術後では,術後全乳房照射に領域リンパ節(鎖骨上)照射を加えることの意義を検討したランダム化比較試験は少ない。本CQでは,乳房部分切除術に加えて腋窩郭清がなされた患者において,腋窩リンパ節転移1~3個であった場合に領域リンパ節(鎖骨上)照射が推奨されるかを検討した。なお,本CQは鎖骨上を含む領域リンパ節照射の意義を検討するものであり,内胸リンパ節を照射野に含めるかについては別CQで検討する(☞放射線CQ6参照)。

解 説

 本CQでは,益については領域リンパ節再発率の低下,遠隔再発率の低下,無病生存率の改善,乳癌死亡率の低下および全生存率の改善,害については晩期有害事象(リンパ浮腫および二次がん)をアウトカムとして設定し,系統的文献検索を行った。益と害のアウトカムについて2編の介入研究を評価した。

 益については,領域リンパ節(鎖骨上)照射を含む乳癌術後照射の有用性を検討したランダム化比較試験のうち,対象に乳房部分切除術後の症例を含む2編を採用した。

 1つはMA. 20試験で,乳房部分切除術後のリンパ節転移陽性あるいはリンパ節転移陰性高リスク(後述)症例が,領域リンパ節(鎖骨上および内胸)照射群と非照射群とにランダムに分けられた1)。対象となった1,832例のうち,転移陽性リンパ節数が1~3個の割合は85%であった。観察期間中央値9.5年において,領域リンパ節照射群では非照射群と比較して10年遠隔無再発生存率が86.3%および82.4%〔ハザード比(HR)0.76,95%CI 0.60-0.97,p=0.03〕,無病生存率が82.0%および77.0%(HR 0.76,95%CI 0.61-0.94,p=0.01)と,それぞれ有意に改善したが,10年乳癌死亡率および10年全生存率には有意な差は認められなかった。

 もう1つのEORTC 22922/10925試験では,リンパ節転移陽性,あるいは原発巣が内側・中心区域に位置するⅠ-Ⅲ期症例が,領域リンパ節(鎖骨上および内胸)照射群と非照射群とにランダムに分けられた2)。対象となった4,004人のうち76%に乳房部分切除術が行われ,転移陽性リンパ節数が1~3個の割合は43%であった。観察期間中央値15.7年において,領域リンパ節照射群では非照射群と比較して15年乳癌死亡率が有意に低下した(16.0% vs. 19.8%,HR 0.81,95%CI 0.70-0.94,p=0.0055)。一方,15年無病生存率,15年遠隔無再発生存率および15年全生存率には有意な差は認めなかった。なお,本試験の観察期間中央値10.9年の成績(2015年に公表)では,領域リンパ節照射群は非照射群に比して10年遠隔無再発生存率が有意に改善していたが(HR 0.86,95%CI 0.76-0.98,p=0.02)3),15年成績(2020年に公表)では,観察期間の延長により有意差が消失していた2)

 上記2研究を統合して,益のアウトカムとして,領域リンパ節再発率の低下,遠隔再発率の低下,無病生存率の改善,乳癌死亡率の低下および全生存率の改善についてメタアナリシスを行った13。その結果,領域リンパ節照射により乳癌死亡率は有意に低下させるが(HR 0.81,95%CI 0.71-0.92,p=0.001),領域リンパ節再発率の低下,遠隔再発率の低下,無病生存率および全生存率の改善は示されなかった。また,転移陽性リンパ節数1~3個のサブグループ解析結果が得られているアウトカムを統合したところ,無病生存率は有意に改善したが(HR 0.86,95%CI 0.74-0.98,p=0.03),全生存率の改善は有意ではなかった。

 害については,リンパ浮腫および二次がんについて,介入研究2編を評価した。リンパ浮腫の粗発生割合については,領域リンパ節(鎖骨上および内胸)照射群と非照射群とで比較すると,MA. 20試験では8.4%および4.5%と領域リンパ節照射群で有意に増加し(p=0.001),EORTC 22922/10925試験では12.0%と10.5%と報告されている1)3)。これらを統合解析したところ,リンパ浮腫の増加傾向はあるものの,統計学的な有意差は認められなかった〔リスク比(RR)1.42,95%CI 0.89-2.26,p=0.14〕。しかし,これらの試験ではリンパ浮腫について再現性のある客観的評価が行われていない。また,EORTC 22922/10925試験において,リンパ浮腫の頻度そのものが一般に考えられているより低い理由として,郭清した腋窩を意図的には照射範囲に含めない方針であったためではないかと考察されている3)

 二次がんについては,上記2研究を統合的に解析した結果,有意な二次がんの増加は示されなかった(RR 0.98,95%CI 0.86-1.12,p=0.82)。しかし,二次がんについては,観察期間10~15年では真の影響が検出されていない可能性がある。

 なお,評価した研究が開始された時期は,抗HER2療法,タキサンやアロマターゼ阻害薬などの薬剤が普及する前であり,現在の薬物療法の各再発率への寄与が高まっていることが想定される中で,放射線療法の相対的な意義が低下している可能性にも留意する必要がある。

 ランダム化比較を行った2研究は,転移陽性リンパ節数が1~3個でない患者を含み,薬物療法の種類などに偏りがあり,EORTC 22922/10925試験では乳房全切除術例も含まれることから,エビデンスの強さを「弱」とした。

 以上をまとめると,乳房部分切除術に加えて腋窩郭清がなされた患者において,腋窩リンパ節転移1~3個の場合は,領域リンパ節照射をすることにより乳癌死亡率が有意に低下し,無病生存率も改善する可能性があるが,全生存率の改善は有意ではない。リンパ浮腫の発生リスクについてはエビデンスに限界があり一貫性はないが,領域リンパ節照射がリンパ浮腫に影響しているというメタアナリシスもあり(☞放射線 総説1参照),領域リンパ節照射によるリンパ浮腫増加の可能性は留意すべきである。その他の有害事象も含めてより長期の観察データが必要である。より新しい薬物療法の効果が高まり,放射線療法の相対的な意義が低下する可能性があること,EORTC 22922/10925 試験の長期観察では遠隔無再発生存率の差が消失していること,10~15年の観察による結果であることから,一様に実施することは過剰である可能性がある。乳房全切除術後の場合と異なり,乳房部分切除術例においてはもともと術後全乳房照射の適応があるため,領域リンパ節への照射を加えるかどうかで治療にかかるコストや通院回数は若干増えるのみである。このため,益と害のバランスに基づいて,患者と医療者が十分に議論して方針決定することが望ましい。領域リンパ節への照射適応はリンパ節転移個数だけで決まるわけではないため,その他の再発リスクを総合的に考慮したうえで実施すべきと考えられる。

高リスク・その他の再発リスク

 今回検討したMA. 20試験では,腋窩リンパ節陰性の場合でも,腫瘍径5 cm以上,腫瘍径2 cm以上でリンパ節郭清個数が10個より少ない,または以下のうち少なくとも1つが該当する症例(組織学的グレード3,エストロゲン受容体陰性,または脈管侵襲陽性)が含まれていた。また,EORTC 22922/10925試験では,リンパ節転移の有無にかかわらず,原発巣が内側・中心区域に位置する症例が含まれていた。

 推奨決定会議では,同じく転移陽性リンパ節数が1~3個で乳房全切除術後を対象としたPMRTの適否についてのCQと合わせて議論がなされ(☞放射線CQ5参照),両者の病状は類似するが術式およびもととなるエビデンスが異なること,術式の違いで放射線療法の介入に差が生じること(対照群は放射線治療がまったくない群か,全乳房照射群)が議論された。対象の大部分に推奨されるわけではないこと,対象条件を推奨文で明確に定義することが難しいことから,投票の結果,98%(47/48)の合意率で2018年版と同様に「弱く推奨」となった。

 また,今回評価を行った研究は腋窩郭清例を対象としており,今後増加すると思われる腋窩郭清が省略された(または限定的である)場合の領域リンパ節照射の意義は異なる可能性がある(☞放射線FRQ3参照)。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Radiotherapy”,“Mastectomy, Segmental”,“Axilla”,“Lymph nodes”,“Lymphatic metastasis”のキーワードおよび同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年3月~2021年3月とし,それぞれ442,28,37件がヒットした。一次スクリーニングで32編,二次スクリーニングで16編の論文が抽出され,2018年版採用の2編と合わせ,最終的に3編(2つのRCTのうち1編のアップデート論文を含む)を採用した。

参考文献

1)Whelan TJ, Olivotto IA, Parulekar WR, Ackerman I, Chua BH, Nabid A, et al;MA. 20 Study Investigators. Regional nodal irradiation in early-stage breast cancer. N Engl J Med. 2015;373(4):307-16. [PMID:26200977]

2)Poortmans PM, Weltens C, Fortpied C, Kirkove C, Peignaux-Casasnovas K, Budach V, et al;European Organisation for Research and Treatment of Cancer Radiation Oncology and Breast Cancer Groups. Internal mammary and medial supraclavicular lymph node chain irradiation in stage Ⅰ-Ⅲ breast cancer(EORTC 22922/10925):15-year results of a randomised, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2020;21(12):1602-10. [PMID:33152277]

3)Poortmans PM, Collette S, Kirkove C, Van Limbergen E, Budach V, Struikmans H, et al;EORTC Radiation Oncology and Breast Cancer Groups. Internal mammary and medial supraclavicular irradiation in breast cancer. N Engl J Med. 2015;373(4):317-27. [PMID:26200978]