CQ1 全乳房照射において通常分割照射と同等の治療として寡分割照射は勧められるか?
背 景・目 的
乳房部分切除術後の全乳房照射は経験的に4.5~5.5週かけて行われてきたが,世界的には3週程度で完遂する寡分割照射が行われている。その安全性および効果について検討した。
解 説
わが国では全乳房照射の線量・分割については,総線量45~50.4 Gy/1回線量1.8~2.0 Gy/4.5~5.5週が経験的かつ標準的に行われてきた(☞放射線 総説1参照)。一方,欧米では1回線量を増やし,より短期間で照射を終了する寡分割照射が標準的に行われている。
カナダで実施されたランダム化比較試験(RCT)では42.5 Gy/16回/22日と50 Gy/25回/35日が比較され,両者の10年局所再発率,全生存率,整容性に差を認めなかった。また,年齢,腫瘍径,エストロゲン受容体発現の有無,化学療法の有無,組織学的グレード,サブタイプ別でも有意差を認めなかった1)2)。この試験の対象は,50歳以上,乳房部分切除術後のpT1-2N0,化学療法を行っていない症例が70~80%を占めている。
イギリスでも,至適な線量・分割方法を検証すべく,RCTが行われた。START-A試験では照射期間を5週として50 Gy/25回,41.6 Gy/13回,39 Gy/13回の3群を比較し,START-B試験では50 Gy/25回/5週とイギリスでよく用いられている40 Gy/15回/3週の2群を比較した。これらの試験の対象には,乳房全切除術例やpN1例を含み,化学療法施行例もカナダの試験より多く含む。START-A,B試験ともに9年以上の観察期間で通常分割と寡分割照射では局所再発や局所・領域リンパ節再発に差がみられず,START-B試験では遠隔再発,乳癌関連死,全死亡率が寡分割照射群で有意に少なかった。晩期有害事象をみると,START-A試験では50 Gyと41.6 Gyの間に有意差はなかったが,50 Gyと39 Gyでは寡分割照射群で腫瘍床の乳房硬結,毛細血管拡張および乳房浮腫の頻度は少なかった。START-B試験でも同様に40 Gy群で乳房萎縮,毛細血管拡張および乳房浮腫が少なかった3)。これらの結果から寡分割照射は現在,全世界で広く用いられるようになっている。
今回行ったシステマティック・レビューでは,寡分割照射を通常分割照射と比較したRCT12編を採用して温存乳房内再発,無再発生存,全生存率,Gr.2以上の急性期放射線皮膚炎,乳房萎縮,乳房硬結,晩期毛細管拡張,放射線肺臓炎,乳房浮腫,乳房痛,肋骨骨折,整容性,虚血性心疾患について検討した。温存乳房内再発〔リスク比(RR)0.94,95%CI 0.79-1.11,p=0.46〕,無再発生存(HR 0.99,95%CI 0.80-1.21,p=0.90),全生存率(HR 0.92,95%CI 0.82-1.04,p=0.19)でいずれも有意差を認めなかった。評価した有害事象のうち,Gr.2以上の急性期放射線皮膚炎(RR 0.55,95%CI 0.45-0.66,p=0.00001),乳房萎縮(RR 0.90,95%CI 0.83-0.98,p=0.02)については寡分割照射群で有意に少なかった。他の晩期有害事象である乳房硬結,晩期毛細血管拡張,放射線肺臓炎,乳房浮腫,乳房痛,肋骨骨折,整容性や虚血性心疾患には差がみられなかった。
システマティック・レビューやこれまでのRCTの結果から,治療効果は同等であり,有害事象も同等もしくは軽い傾向にある。しかし,虚血性心疾患の評価に10年以上の観察期間が必要と思われる。1980年以前の術後照射例について10~15年以上の長期間追跡した研究ではすべてにおいて心臓障害の増加が認められたとの報告もある4)。一方,寡分割照射による虚血性心疾患発症は低頻度であり,通常分割照射と比して10年みても増加していないとの報告がある3)。この結果は古い放射線治療計画の時代から現在までの報告で一貫した傾向である5)。晩期心臓障害予防のためには可及的に多分割コリメータの使用や深吸気息どめ照射などで心臓の被曝線量低減に努めることは,乳房照射の治療計画において重要である(☞放射線 総説1参照)。
2011年,米国放射線腫瘍学会(American Society for Radiation Oncology;ASTRO)によるガイドラインでは,50歳以上,乳房部分切除術後のpT1-N0,全身化学療法を行っていない,中心軸平面での線量均一性が±7%以内の患者については,寡分割照射も従来の照射と同等であり,それ以外の症例にも寡分割照射は禁忌ではないとした6)。その後,最近のエビデンスを加えた2018年の新しいガイドラインでは,年齢制限や全身化学療法の施行などの制限が外され,接線照射野外の領域リンパ節照射が必要ないすべての症例に,寡分割照射が推奨された7)。ただし,線量均一性は,三次元で105%以上領域の最小化が求められ,そのほか,Field-in-Field法や,セットアップ誤差が大きい例での画像誘導を用いた位置照合の実施などが求められた。10年以上の長期観察を行った良質なデータは新たな報告がなく,今回の適応拡大に対しては慎重な対応を求める報告もある8)(接線照射野外の領域リンパ節照射が必要な症例について☞放射線FRQ2参照)。腫瘍床への寡分割ブースト照射の1回線量についてはASTROガイドラインによれば3 Gy以下が推奨されている6)。
一方,人種間の体格の差により寡分割照射が及ぼす有害事象の程度が日本人では異なる可能性もあり,300人を超える単一アームでJCOG0906試験が実施された。観察期間中央値70.5カ月で,急性期有害事象と3年以内の晩期有害事象について解析がなされ,日本人でも寡分割照射が安全に行えることが報告された9)。同じ東洋人を対象とした,中国からの寡分割照射と通常分割照射の比較試験においても,観察期間中央値73.5カ月で寡分割照射は急性期有害事象が軽度で晩期有害事象は同等であると報告された10)。
2020年に報告された中国多施設共同試験10)やDBCG HYPO試験11)では,50歳以下の症例や化学療法・分子標的薬施行例が含まれているが,これまでの報告と同様,一貫して局所制御率や晩期有害事象は同等であると報告された。また,カナダからのコホート研究で,分子サブタイプ別の10年局所再発率も有意差を認めず,すべてのサブタイプにおいて,寡分割照射の使用を支持している12)。しかし,10年以上経過観察したデータは新たに出ていないので,エビデンスレベルは「中」とした。
本ガイドライン委員会では,全乳房の寡分割照射の適応条件について検討した。2018年のASTROガイドライン7),NCCNガイドライン13)では,すべての症例で寡分割照射を標準としており,本ガイドライン委員会として,推奨度,適応条件を乳癌診療ガイドライン2018年版から拡大し,全乳房照射において寡分割照射は通常分割照射と同等の治療として推奨することとした。
また,今回,非浸潤性乳管癌への寡分割照射の適応条件についても検討した。観察研究では通常分割照射と遜色ない局所制御率が示されている14)。デンマークからのDBCG HYPO試験では,寡分割照射群,通常分割照射群各々に非浸潤性乳管癌が13%(123例)含まれており,局所再発率に差はないと報告された11)。また、非浸潤性乳管癌に対するBoost照射の意義と合わせて寡分割照射と通常分割照射の比較を行ったRCT(BIG3-7/TROG07.01試験)において、中央観察期間6.6年時点では寡分割照射と通常分割照射で局所を含めた再発に差が無いと報告された15)。晩期有害事象については,RCTの長期成績からみて寡分割照射と通常分割照射は同等であり,非浸潤性乳管癌についても2018年ASTROガイドライン7),NCCNガイドライン13)に示されるように寡分割照射は通常分割照射と同等の治療として推奨することとした。
益として,寡分割照射は通常分割照射と効果は同等であり,有害事象も同等かもしくは軽度である。さらに寡分割照射では通院に要する時間および医療費が節約される。害として,晩期有害事象,特に虚血性心疾患について10年以上の成績が不足し,安全性の懸念が残ることが挙げられる。しかし,現在の放射線治療計画では心臓平均線量は低く,虚血性心疾患への懸念は少ないと考える。益と害を考慮して線量の均一性,心臓などの正常組織への線量に注意したうえで,寡分割照射は推奨される方法である。効果が同等で安全性に差がなければ,より短期間で治療を完遂できる利便性は高いので,好みや価値観のばらつきは少ない。
また,さらなる照射回数の低減が検討され,FAST試験で28.5 Gy/5回/5週は50 Gy/25回/5週と比較して局所制御率では非劣性であり,10年後までの正常組織への影響についても同様であると報告された16)。FAST-Forward試験で,26 Gy/5回/1週は40 Gy/15回/3週と比較して局所制御率では非劣性であり,5年後までの正常組織への影響についても同様であると報告された16)。FASTで回数が少なくなり,FAST-Forwardでさらに治療期間も短くなったが,まだ観察期間は十分ではなく,長期経過観察と再検証試験の結果を待ちたい。
検索キーワード・参考にした二次資料
PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Radiotherapy”,“Dose Fractionation”,“Radiation”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年1月~2021年3月とし,424件がヒットした。それ以外にハンドサーチで4編の論文が追加された。一次スクリーニングで37編,二次スクリーニングで28編の論文が抽出され,定性的および定量的システマティック・レビューを行った。
参考文献
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