CQ4    Stage Ⅳ乳癌に対する原発巣切除は勧められるか?

CQ4a Stage Ⅳ乳癌に対して予後の改善を目的とした原発巣切除は勧められるか?

推奨

●Stage Ⅳ乳癌に対して予後の改善を目的とした原発巣切除は行わないことを強く推奨する。

推奨の強さ:4,エビデンスの強さ:強,合意率:89%(41/46)

CQ4b Stage Ⅳ乳癌に対して局所制御を目的とした原発巣切除は勧められるか?

推奨

●Stage Ⅳ乳癌に対して局所制御を目的とした原発巣切除は行うことを弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:100%(47/47)

背 景・目 的

 遠隔転移を有する乳癌は治癒が極めて困難であり,治療の目標は症状のコントロール,QOLの改善,生存の延長になる。治療は全身療法(薬物療法)を主に,局所療法(放射線療法・手術療法)を必要に応じて行う。初診時から遠隔転移を有するStage Ⅳ乳癌においては,原発巣の外科的切除により生存期間の延長が得られる可能性を示唆する報告がある。そこで本CQでは,Stage Ⅳ乳癌に対する原発巣切除が予後の改善に寄与するかどうかエビデンスをもとに検討した。

解 説

 Stage Ⅳ乳癌に対して原発巣切除を行うか否かの前向きランダム化比較試験は5試験行われ,うち3試験〔NTC 00193778試験1),NCT 00557986(MF07-01)試験2),NCT 01015625(ABCSG-28)試験3)〕が論文報告され,1つが学会報告のみ〔NCT 01242800(ECOG 2108)試験4)〕,残り1つが登録終了後追跡調査中〔UMIN 000005586(JCOG 1017)試験5)〕である。すでに結果が報告されている4つの試験についてのメタアナリシスが2つ(1編は前向きコホート試験2つを含む検討)論文化されている6)7)。残る1つの日本からのデータが報告されれば,すべてのデータが揃うことになる。

1)生存期間
 5つの前向きランダム化比較試験のうち,すでに報告されている4つの試験はいずれも,de-novo Stage Ⅳ乳癌において原発巣切除を行うことが予後を改善するかどうかを検討する試験である。主要評価項目はいずれも全生存期間であり,いずれの試験においても原発巣切除は全生存期間を有意に延長せず,メタアナリシスにおいても同様の結果であった(図1)。また,原発巣切除のタイミングに関しては,4つのうち2つは診断時すぐに手術を行うのに対して,2つは全身薬物療法を行って効果のあった患者に対して手術を行っていた。そしてメタアナリシスの結果,どちらのタイミングで行っても生存期間の延長は認めなかった(図1)。そのほか,乳癌サブタイプ・転移状況などのサプグループ解析においても同様に,手術群と非手術群の間で全生存期間の差は認められなかった。ただし,前向きコホート試験を含めたメタアナリシスでは,骨転移単独の場合などに限っては手術が予後を延長する可能性が示唆されており,現在,別途進行中であるオリゴ転移に対する局所療法(手術・放射線療法)の有用性を評価する試験においてはオリゴ転移を有するStage Ⅳ乳癌に対しては原発巣切除を行うこととされており,その意義が再度評価されている(NRG-BR 002試験,NCT 02364557試験)。

2)局所制御
 局所制御(乳房の病変の悪化)に関しては,いずれも副次評価項目ではあるものの3つの試験で検討され,いずれも原発巣切除群で有意に良好であった〔ハザード比(HR)0.36(0.14-0.95)〕(図2)。このことから,非切除と比較して原発巣切除により良好な局所制御が得られることは明確である。ただし,すべての患者に対して局所の増悪を認めるわけではない。ECOG 2101試験では局所の増悪を認めた症例は原発巣切除群で10.2%であったのに対して非切除群で25.6%であり,約4分の3の患者では局所の増悪は認めていない。今後,どのような患者で,局所制御のための手術が必要か検討を要する。

3)無増悪期間
 インドで行われたNTC 00193778試験では,原発巣に対する手術により遠隔転移が有意に増悪することが報告されたが,ECOG試験では無増悪期間に差はなかった。結果に差が出た原因として,インドでは標準的な薬物療法が行われていないことが推察される。このことから,必ずしも原発巣切除が無増悪期間を短縮するとはいえないが,手術を行った後も効果的な薬物療法を継続することは重要であると考えられる。

4)QOL
 QOLに関しては,ABCSG-28試験およびMF07-01試験では両群にQOLの評価で差は認めなかったが8)9),ECOG 2108試験で行われたFACT-B TOIでの評価では手術後18カ月時点で手術群のほうが有意に劣っていた。それぞれの試験で,評価方法や評価時期は異なっており,エビデンスの強さは弱いが,手術によるQOLの低下が起こる可能性は念頭に置く必要がある。

5)まとめ
 4つの試験はいずれも本CQを検討する前向きランダム化試験であるが,各試験の間に大きな不均一性が認められることは考慮しなければならない。インドで行われた試験(NTC 00193778試験)は単施設での検討で,先進国で使用されている最新の薬剤はほとんど使用されておらず全体の生存期間中央値はECOG 2108試験の半分以下であった。MF07-01試験ではER,HER2,転移部位などが層別因子に採用されておらず,両群にサブタイプの偏りが認められた(非手術群でトリプルネガティブが多いなど)10)。ABCSG-28試験は516例の登録予定で最終的には90例しか登録されていなかった。ECOG 2108試験では非手術群の20%が,またその他の試験でも10%弱の患者が手術を受けていた。

 以上より,今あるエビデンスでは,Stage Ⅳ乳癌では原発巣切除により生存期間を延長するのは困難である。ただし,局所制御が必要な症例に対しては原発巣切除が効果的である。今後,残り1つの日本からの試験の結果を合わせた最終的な評価を待つとともに,オリゴ転移に対する治療戦略に関しては別途原発巣切除の意義の検討が必要であると考える。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,Primary tumor resection;Prognosis;Prospective;Stage Ⅳ breast Cancer,Surgery,local therapyのキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2021年3月31日までとし,328件がヒットした。スクリーニングで前向きランダム化比較試験の結果が7編あり,うち2編がメタアナリシス論文であった。これらの定性的システマティック・レビューを行った。

参考文献

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2)Soran A, Ozbas S, Kelsey SF, Gulluoglu BM. Randomized trial comparing locoregional resection of primary tumor with no surgery in stage Ⅳ breast cancer at the presentation(Protocol MF07-01):a study of Turkish Federation of the National Societies for Breast Diseases. Breast J. 2009;15(4):399-403. [PMID:19496782]

3)Fitzal F, Bjelic-Radisic V, Knauer M, Steger G, Hubalek M, Balic M, et al;ABCSG. Impact of breast surgery in primary metastasized breast cancer:outcomes of the prospective randomized phase Ⅲ ABCSG-28 POSYTIVE trial. Ann Surg. 2019;269(6):1163-9. [PMID:31082916]

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5)Shien T, Nakamura K, Shibata T, Kinoshita T, Aogi K, Fujisawa T, et al. A randomized controlled trial comparing primary tumour resection plus systemic therapy with systemic therapy alone in metastatic breast cancer(PRIM-BC):Japan Clinical Oncology Group Study JCOG1017. Jpn J Clin Oncol. 2012;42(10):970-3. [PMID:22833684]

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8)Bjelic-Radisic V, Fitzal F, Knauer M, Steger G, Egle D, Greil R, et al;ABCSG. Primary surgery versus no surgery in synchronous metastatic breast cancer:patient-reported quality-of-life outcomes of the prospective randomized multicenter ABCSG-28 Posytive Trial. BMC Cancer. 2020;20(1):392. [PMID:32375735]

9)Soran A, Soyder A, Ozbas S, Ozmen V, Karanlik H, Igci A, et al;Breast Health Working Group International(supported by the Turkish Federation of Breast Disease Societies). The role of loco-regional treatment in long-term quality of life in de novo stage Ⅳ breast cancer patients:protocol MF07-01Q. Support Care Cancer. 2021;29(7):3823-30. [PMID:33242163]

10)Soran A, Ozmen V, Ozbas S, Karanlik H, Muslumanoglu M, Igci A, et al;MF07-01 Study Group. Primary surgery with systemic therapy in patients with de novo stage Ⅳ breast cancer:10-year Follow-up;protocol MF07-01 randomized clinical trial. J Am Coll Surg. 2021;233(6):742-51.e5. [PMID:34530124]