BQ7 葉状腫瘍と診断された場合に外科的切除が勧められるか?
背 景
葉状腫瘍は,比較的稀な結合織性および上皮性混合腫瘍の一つであり,組織学的には良性,境界病変,悪性に亜分類され,多様な生物学的特徴を呈する。形態は境界明瞭,多結節性,無痛性の腫瘤で,線維腺腫との鑑別が問題となるが,急速に増大する場合は葉状腫瘍を疑う。葉状腫瘍の外科的治療について概説する。
解 説
葉状腫瘍は乳腺腫瘍の1%未満と頻度の少ない腫瘍であるため,エビデンスは主に症例集積や症例報告に基づいている。病理学的形態としては良性の線維腺腫に類似したものから高異型度の肉腫に近いものまで幅広いため,針生検であっても線維腺腫や肉腫との鑑別が難しいこともある。
75例以上の報告をまとめた2013年の葉状腫瘍5,530例のレビューでは,良性,境界病変,悪性の比率は52%,13%,35%で,平均観察期間5年における局所再発率はそれぞれ15%,17%,28%(平均19.1%)であった1)。2015年以降に報告された285例(良性191例,境界病変61例,悪性33例,5年局所再発率はそれぞれ5.0%,13.1%,18.0%)2)と480例(良性354例,境界病変89例,不明もしくは葉状腫瘍疑い37例,平均観察期間98カ月で全体の再発率6.3%)3)の後ろ向き検討では局所再発率は約10%低下している。
葉状腫瘍の治療は外科手術での完全切除である。比較的大規模な近年の報告において,断端陽性1)4),腫瘤径1)2),亜分類1)~3),年齢1),壊死の存在1)が再発のリスク因子であると報告している。172例の後ろ向きの検討では,多変量解析にて切除断端陽性は約4倍の再発リスク因子であった1)。針生検で葉状腫瘍と線維腺腫とを鑑別するのは困難で,切除マージンをとらない腫瘍摘出術が行われると局所再発率は高くなることが報告されており5),多施設による前向きコホート研究の報告では,腫瘍辺縁から少なくとも1 cmの正常組織まで含めた乳房部分切除を勧めている6)。Luらによる54の観察研究のメタアナリシスでは,9,234例の葉状腫瘍について検討が行われ,良性と比較して境界病変のほうが局所再発率が高く〔オッズ比(OR)2.00,95%CI 1.68-2.38〕,境界病変と比較して悪性のほうが局所再発率が高い(OR 1.28,95%CI 1.05-1.55)ものの,核分裂像,腫瘍の境界(浸潤性か圧排性か),間質の細胞密度や核異型度,壊死などが再発のリスク因子であった7)。この研究では,悪性葉状腫瘍では断端陽性が局所再発リスクを上昇させる一方,良性,境界病変では関連がないと解析されている。また,48人の高異型度の悪性葉状腫瘍における後ろ向きの検討によると,10人は切除マージン1 cm以下の局所切除,14人は切除マージンが1 cm以上の部分切除,24人の乳房全切除が行われていた5)。全体の局所再発率は44%,そのうち切除マージンが1 cm以下の局所切除後の再発率は60%であったが,1 cm以上の部分切除後の再発率は28%であった。局所再発と全生存率には腫瘍径と切除マージンが関連していた。初回手術後に切除マージンが近い場合は悪性度等も考慮したうえで追加切除も検討すべきである8)9)。Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)に登録された悪性葉状腫瘍821例を解析したところ,乳房全切除術と乳房部分切除術は52%と48%に行われていた10)。腫瘍径にかかわらず,乳房部分切除術が行われた症例は,乳房全切除術が行われた症例と比べて全生存率は同等かそれより良好であった。よって適応を選び,切除マージンが確保されている限り,乳房部分切除術は適正な術式である。
葉状腫瘍の腋窩リンパ節転移は非常に稀であるため,悪性葉状腫瘍であっても通常,腋窩リンパ節郭清は行われない。SEERによると葉状腫瘍の腋窩リンパ節転移はわずか1.6%(8/498例)であった10)。
悪性葉状腫瘍に対する術後の放射線療法について,明確なエビデンスが得られる前向きのランダム化比較試験は存在しない。8つの後ろ向き検討をまとめたシステマティック・レビューでは,術後放射線療法を行うことで局所再発のリスクを減らすことが示されている(ハザード比 0.43,95%CI 0.23-0.64)11)。しかしながら,これらは選択バイアスのある後ろ向き研究のメタアナリシスであること,生存率の改善は本研究でも示されていないことから,十分なエビデンスがあるとはいえず,葉状腫瘍に対する放射線治療に関しては評価が定まっていないと考えられる。病理組織学的検査で腫瘤の遺残が疑われる場合には,基本的には再度の切除を行うことが望ましい。しかし,腫瘍の位置や大きさなどにより再度の切除が不可能な場合には,乳房全切除後であっても術後の放射線療法を追加することが推奨されている。
葉状腫瘍は,その画像所見や多様な病理学的形態のため術前の診断が難しい。細胞診の偽陰性率は高いため12),主に針生検が診断に用いられる。しかし,針生検でも25~30%の偽陰性率があるといわれている13)。よって,針生検で線維腺腫と診断されても,臨床的に急速に増大するような症例では,葉状腫瘍の可能性を考え,外科的完全切除を行うべきである。また,針生検で葉状腫瘍と線維腺腫との鑑別困難と診断された場合も,診断確定のために外科的完全切除を検討することが望ましい。
検索キーワード・参考にした二次資料
「乳癌診療ガイドライン①治療編2018年版」の同クエスチョンの参考文献に加え,PubMedで,“Breast Neoplasms/surgery”,“Phyllodes Tumor”のキーワードで検索した。検索期間は2016年1月1日~2021年3月31日とし,128件がヒットした。また,UpToDateを参考にし,これらの文献の中から必要なものを抽出した。
参考文献
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