BQ3   ホルモン受容体検査はどのような目的で,どのように行うか?

ステートメント

●内分泌療法の適応があるか否かを知るために,ホルモン受容体の発現状況を検索する。検査には免疫組織化学法(IHC法)を用いる。

背 景

 内分泌療法は乳癌薬物療法における主要な柱の一つであるが,内分泌療法の適応があるか否かは,癌組織におけるホルモン受容体の発現状況により決定される。ホルモン受容体の臨床的意義と,その検査法の実際,最近の動向について概説する。

解 説

1)ER,PgR検索の臨床的意義
 内分泌療法は,エストロゲン受容体(ER)陽性浸潤性乳癌症例に再発・死亡抑制効果があるが,ER陰性症例にはほぼ無効であることが,数多くのランダム化比較試験,および大規模なメタアナリシスで示されている1)~3)。ERの内分泌療法効果予測因子としての有用性は,患者背景,内分泌療法の種類・期間,化学療法の有無,癌の進行状況によらず確認されており,ER検索は一貫して乳癌診療上の必須項目とされている。

 プロゲステロン受容体(PgR)は,エストロゲンによりERを介し誘導されるERの標的物質の一つであり,PgR発現の有無はエストロゲンとERの機能が正常に働いているかの目安になるとされている。PgRの検索意義について疑問が呈された時期もあるが2)4),数多くの臨床的研究により,特にER陽性癌における予後予測因子としての有用性が報告され5)6),PgR検索は今日も乳癌診療上必須の項目となっている。

 非浸潤性乳管癌(DCIS)は,局所のみの治療(手術±放射線治療)で予後が極めて良好だが,内分泌療法が考慮されることもあり,この場合にはDCISのホルモン受容体発現検索が行われる(☞病理FRQ2参照)。

 転移・再発乳癌,手術を行っていない進行乳癌においても,乳癌組織におけるホルモン受容体の発現状況は,内分泌療法の効果予測,あるいは再発後の予後予測のうえで重要であることが,多くの研究で報告されており,乳癌組織(原発巣,転移巣いずれか少なくとも一方)におけるホルモン受容体検索が強く勧められる7)。また,再発・転移組織と原発巣組織で,ホルモン受容体の発現状況が一致しない症例が少なからず存在することが報告されており,再発・転移巣組織が入手可能な場合には,ホルモン受容体発現状況を再度,検索することが勧められる8)9)

 したがって,すべての原発乳癌において,内分泌療法の適応を決定するためにホルモン受容体の発現状況を検索することが強く勧められる。原発巣の評価に際しては,浸潤巣,非浸潤巣とも観察し,両者に明らかな差がある場合には,その旨を付記することが望ましい。

2)ホルモン受容体の検索方法とカットオフ値
 ホルモン受容体発現状況は,2000年頃までは乳癌凍結組織を用いた生化学的方法〔dextran coated charcoal法や酵素免疫測定法(EIA法)〕で調べられ,前述の臨床試験の多くも生化学的方法によるものだった。後に,免疫組織化学法(IHC法)による検索が可能となり,IHC法でも生化学的方法と同等以上に,優れた結果が得られることが示された10)。IHC法は生化学的方法に比し多くの利点があり(一般の病理検査室で実施可能,種々の材料で検索可能,陽性細胞がごく少数でも検出可能,永久標本についての後方視的な観察が可能等),現在,IHC法による検索が標準となっている。

 実臨床で通常用いられるホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体を用いた検索では,検体の取り扱い方法が結果を大きく作用するため,厳しい精度管理が求められる(☞病理:総説2参照)。

 染色にあたって,日本乳癌学会の「適切なホルモンレセプター検索に関する研究班」は,体外診断用医薬品として市販されている一次抗体を使用し,製造販売元のプロトコールに従うことを推奨している11)染色スライドには,乳癌とともに内因性コントロールである非癌の乳管・小葉上皮が含まれていることが望ましい。また,検査の際には,外因性コントロールスライドも同時に染色すべきである12)

 判定の際には,まず,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色標本,外因性コントロール,内因性コントロールを検鏡し,技術的な問題の有無を確認する。技術的な問題が疑われる場合には,当該標本で判定せず,再染色を行う11)12)。判定方法は,陽性細胞の占有率で判定する方法と,占有率と染色強度を組み合わせる方法に分類されるが,内分泌療法の効果予測性という点において,判定方法による明らかな差は報告されていない13)14)。一方,陽性細胞の占有率で判定する方法が,占有率と染色強度を組み合わせる方法よりも,染色方法間や観察者間の診断一致率が高かったとの報告もある15)。このため日本乳癌学会研究班では,実際的で再現性のある判定方法として,陽性細胞の占有率で判定するJ-Scoreを推奨したが,染色強度を加味した判定方法との併用を妨げるものではないとしている11)。ASCO/CAPガイドライン2019年版でも,陽性細胞の占有率とともに染色強度も考慮しての判定法が推奨されている12)。陽性細胞の占有率と染色強度を組み合わせる代表的評価法であるAllred scoreも,実用性の高さから,多くの施設や研究で用いられている10)

 陽性細胞の占有率で判定する方法における陽性/陰性のカットオフには,any positive cell(陽性細胞が1個でもある),1%,10%等がある。10%は,すでに臨床的意義が確かめられていた生化学的方法による陰陽判定との一致性を根拠としており11),2000年代初頭まで,カットオフ値として最も一般的に用いられていた。1%は,IHC法データに基づく臨床研究からAllredらが提唱したAllred score>2にほぼ相当するが,any positive cellとの混同も稀でない7)10)16)。内分泌療法は予後改善に有用で重篤な副作用も稀なため,内分泌療法の適応範囲を広くする意味合いもあり,カットオフ値1%が現在広く用いられている。しかし,陽性細胞占有率10%以上の症例と1~9%の症例では,内分泌療法奏効性が異なるとの多くの報告がある14)17)。ER/PgR発現の多寡は,近年,いわゆる“Luminal A-like”と“Luminal B-like”鑑別の一つの指標としても注目されている(☞病理:総説1参照)。

ASCO/CAPガイドライン2019年版では,ERについての推奨評価法を以下のようにしている12)

・10%を超える陽性率かつ中等度以上の染色強度の場合,陽性
・10%以下または染色強度弱の場合,コントロールの再確認,評価の再検討,再染色等を行ったうえ,1%未満または0%を陰性,1%以上を陽性
・1~10%は低発現,10%超(弱染色強度)は陽性とし,占有率・染色強度等,詳細な情報を追加記載
・組織型から予期される結果と乖離がある場合等は再検査

 PgRについては,1%以上を陽性,1%未満または0%を陰性とし,占有率・染色強度を記載する12)

 一方,2021年のザンクトガレンコンセンサス会議では,カットオフ値1%を「歴史的」とし,また,陽性率1~9%の症例に対する内分泌療法の効果についてはさまざまな意見があることを挙げ,内分泌療法施行のためのカットオフ値についての明言を避けている18)

 これらを総合的に考えると,ER,PgRとも1%未満ならホルモン受容体陰性(内分泌療法の適応なし),ER,PgR少なくともどちらか一方に陽性細胞が1%以上認められる場合には内分泌療法を考慮することは可能だが,占有率の低い症例(例えば10%未満)にはリスクとベネフィットのバランスに基づき内分泌療法適応の可否を決定する12)というのが現実的と考えられる。

 個別化治療が進む中,症例個々に応じた柔軟な対応が求められる時代となっている。また薬物療法の開発は日進月歩である。将来に向けたさらなる治療の適正化という観点からも,詳細な情報を残しておくことが望ましい。病理としては,一定のカットオフ値を設け陰陽判定するよりも,陽性細胞占有率(あるいは染色強度も加味したAllred score)を情報として臨床に提供し,臨床はその他の臨床病理学的情報を総合的に勘案のうえ,対応を決定するのが当面望ましいと考えられる。

検索キーワード

 PubMedで“breast cancer”,“estrogen receptor”,“progesterone receptor”,“immunohistochemistry”,“endocrine therapy”のキーワードで検索した。検索期間は2016年1月から2021年4月までとし,315件がヒットした。ハンドサーチによる検索も追加した。

参考文献

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2)Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG), Davies C, Godwin J, Gray R, Clarke M, Cutter D, et al. Relevance of breast cancer hormone receptors and other factors to the efficacy of adjuvant tamoxifen:patient-level meta-analysis of randomised trials. Lancet. 2011;378(9793):771-84. [PMID:21802721]

3)Fisher B, Anderson S, Tan-Chiu E, Wolmark N, Wickerham DL, Fisher ER, et al. Tamoxifen and chemotherapy for axillary node-negative, estrogen receptor-negative breast cancer:findings from National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B-23. J Clin Oncol. 2001;19(4):931-42. [PMID:11181655]

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