CQ8   化学療法を行うHER2陰性の早期乳癌に対して,TC療法は勧められるか?

推奨

●TC療法を行うことを弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスレベルの強さ:中,合意率:92%(45/49)


推奨におけるポイント
■TC療法4サイクルはAC/EC療法と比較し,リスク抑制効果は大きく,有害事象は同等と考えられる。
■TC療法6サイクルはアンスラサイクリン→タキサン順次投与と比較し,リスク抑制効果は明らかに劣るものではなく,有害事象は少ないと考えられ,より有害事象を避けたい場合に勧められる。
■薬物CQ7~9の対象は重複する部分があり,再発リスク抑制効果と有害事象を考慮してレジメンを決定することが勧められる(図1)。

背 景・目 的

 早期乳癌に対する化学療法は,再発リスクを有意に低減し,全生存期間を改善する1)。HER2陰性の早期乳癌に対する化学療法には,AC療法,TC療法,アンスラサイクリン→タキサン順次投与またはdose-dense化学療法などがある。本CQではTC療法の適応と有効性・安全性について検討した。

解 説

1)TC療法とAC療法との比較
 AC療法に対して,3週間毎に4回投与するTC療法の無病生存期間(DFS)の優越性を検証した試験は,US Oncology Research試験9735の1つの研究が報告されている2)。本試験には早期乳癌患者1,016例が2群にランダム化されているが,ホルモン受容体陽性が71%,リンパ節転移陽性が52%含まれていた。7年のDFS〔TC:81% vs AC:75%,ハザード比(HR)0.74,95%CI 0.56-0.98,p=0.033〕ならびに全生存期間(OS)(87% vs 82%,HR 0.69,95%CI 0.50-0.97,p=0.032)はAC療法よりもTC療法が有意に良好であった3)。有害事象は2群間で発熱性好中球減少症や好中球減少症では有意差を認めなかったが,Grade 1~2の浮腫,筋肉痛および関節痛はTC療法(p<0.01)に,Grade 1~4の嘔気・嘔吐はAC療法(p<0.01)に有意に多く認められた2)3)。また,頻度は少ないが,早期の治療関連死として,うっ血性心不全はAC療法のみに1例,心筋梗塞はAC療法で4例,TC療法で2例,晩期の治療関連死として急性白血病がAC療法に1例認められた2)3)

 以上より,TC療法4サイクルとAC療法を検証したRCTはこれまで1つのみであるが,7年と比較的長期のフォローデータもある質の高いRCTであることから,エビデンスの強さは「中」とした。その報告からは,AC療法に対するTC療法4サイクルの益と害のバランスについて予後は勝るが,有害事象に明らかな優劣はなかったことから,「益」が「害」を上回ると判断した。

2)TC療法6サイクルとアンスラサイクリン→タキサン順次投与との比較
 HER2陰性乳癌に対する化学療法としてTC療法4サイクルとアンスラサイクリン→タキサン順次投与を比較したRCTはこれまで報告はないが,TC療法6サイクルとアンスラサイクリン→タキサン順次投与を比較したRCTのシステマティック・レビューが1編報告されている4)。2つのRCTと2つのプール解析からの12,741例が対象であった。DFSは,TC療法6サイクルとアンスラサイクリン→タキサン順次投与では有意な差を認めなった(HR 1.08,95%CI 0.96-1.20,p=0.193)。さらに,DFSのサブグループ解析では,ホルモン受容体陽性群(計11,143例:HR 1.05,95%CI 0.86-1.27,p=0.653)および陰性群(計1,598例:HR 1.12,95%CI 0.93-1.34,p=0.237),リンパ節転移状況,N1(計2,242例:HR 1.06,95%CI 0.65-1.73,p=0.823)およびN2(計678例:HR 1.25,95%CI 0.82-1.90,p=0.300),さらに閉経前(計1,251例:HR 0.78,95%CI 0.56-1.09,p=0.140)および閉経後(計1,411例:HR 1.16,95%CI 0.83-1.61,p=0.395)のいずれの群でも2レジメン間で有意な差を認めなかった。またOSについても,2レジメン間で有意な差を認めなかった(HR 1.05,95%CI 0.90-1.22,p=0.555)。有害事象については,前述のシステマティック・レビューの検索期間以降に報告された1つの研究5)の結果を追加して検討を行った。アンスラサイクリン→タキサン順次投与とTC療法6サイクルのGrade 3~4の有害事象のうち,発熱性好中球減少症(RR 1.07,95%CI 0.72-1.61,p=0.73),心不全(RR 1.41,95%CI 0.55-3.63,p=0.47)については2レジメン間で有意差を認めなかったが,Grade 3~4のすべての有害事象(5.7% vs 4.7%,RR 1.21,1.14-1.29,p<0.001),嘔吐(2.8% vs 0.8%,RR 3.89,95%CI 1.48-10.20,p=0.006)と末梢神経障害(4.3% vs 2.6%,RR 1.69,95%CI 1.27-2.25,p<0.001)についてはTC療法6サイクルで有意に少なかった。

 以上より,益と害のバランスについてTC療法6サイクルでは,Grade 3~4のすべての有害事象,嘔吐と末梢神経障害については発症頻度が有意に少ないが,予後に関しては明らかに劣るものではなく,TC療法6サイクルは「益がやや勝る」と考えられた。エビデンスの強さについては,複数のRCTが報告されているが,わが国では4サイクルのTC療法が広く行われており,今回の検討は6サイクルであることや,予後に関しての統計学的な優越性や非劣性が示されていないことなどから「中」とした。

 以上から,TC療法4サイクルは,AC療法と比較して益が害を上回る治療と考えられ,推奨される治療である。TC療法6サイクルは,アンスラサイクリン→タキサン順次投与と比較して害は少なく,益は明らかに劣るものではないと判断されるため,アンスラサイクリン→タキサン順次投与の有害事象に懸念がある場合に推奨できる治療と考えられる。

 推奨決定会議の投票の結果は,「行うことを強く推奨する 4/49」,「行うことを弱く推奨する 45/49,合意率 92%」であり,推奨は,化学療法を行うHER2陰性の早期乳癌に対して,「TC療法を行うことを弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMed・医中誌・Cochrane Libraryでそれぞれ,“(breast neoplasms)or(breast cancer)”,“((adjuvant or postoperative or preoperative or neoadjuvant)and(chemotherapy or(drug therapy)))”,“docetaxel and cyclophosphamide”のキーワードで検索した。検索期間は2021年6月4日までとし,936件がヒットした。一次スクリーニングにて16編,二次スクリーニングにて9編に絞り込んだ。このうちAC療法に関しては2編(1試験)を採用した。TC6サイクルとアンスラサイクリン→タキサン順次投与に関してはシステマティック・レビュー1編とRCT 1編を採用し,定性的・定量的システマティック・レビューを行った。

参考文献

1)Anampa J, Makower D, Sparano JA. Progress in adjuvant chemotherapy for breast cancer:an overview. BMC Med. 2015;13:195. [PMID:26278220]

2)Jones SE, Savin MA, Holmes FA, O’Shaughnessy JA, Blum JL, Vukelja S, et al. Phase Ⅲ trial comparing doxorubicin plus cyclophosphamide with docetaxel plus cyclophosphamide as adjuvant therapy for operable breast cancer. J Clin Oncol. 2006;24(34):5381-7. [PMID:17135639]

3)Jones S, Holmes FA, O’Shaughnessy J, Blum JL, Vukelja SJ, McIntyre KJ, et al. Docetaxel with cyclophosphamide is associated with an overall survival benefit compared with doxorubicin and cyclophosphamide:7-year follow-up of us oncology research trial 9735. J Clin Oncol. 2009;27(8):1177-83. [PMID:19204201]

4)Caparica R, Bruzzone M, Poggio F, Ceppi M, de Azambuja E, Lambertini M. Anthracycline and taxane-based chemotherapy versus docetaxel and cyclophosphamide in the adjuvant treatment of HER2-negative breast cancer patients:a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Breast Cancer Res Treat. 2019;174(1):27-37. [PMID:30465156]

5)Ishiguro H, Masuda N, Sato N, Higaki K, Morimoto T, Yanagita Y, et al. A randomized study comparing docetaxel/cyclophosphamide(TC), 5-fluorouracil/epirubicin/cyclophosphamide(FEC)followed by TC, and TC followed by FEC for patients with hormone receptor-positive HER2-negative primary breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 2020;180(3):715-24. [PMID:32170634]