CQ5   ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌に対する術後療法として,内分泌療法にS-1を併用することは勧められるか?

推 奨

●再発リスクが高い場合,内分泌療法にS-1を1年間併用することを強く推奨する。

推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:中,合意率:72%(31/43)


推奨におけるポイント
■再発リスクに基づく患者選択は,解説文中のPOTENT試験の適格規準および除外規準を参考に決定すること。
■薬物CQ6の投与患者対象と重複する場合,治療の選択に際しては,両治療法の益と害のバランス,患者の希望を考慮して決めること(治療編 総説:Ⅲ.4.b.7)(1)① の「POTENT試験(S-1)とmonarchE試験(アベマシクリブ)の組み入れ対象患者の違い」参照)。

背 景・目 的

 閉経前,閉経後ER陽性HER2陰性乳癌に対する術後療法として,内分泌療法にS-1を併用することの有用性を検証した臨床試験は,POTENT試験の1試験が存在する。この結果をもとに,ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌に対する術後療法として,内分泌療法にS-1を併用することが有用かどうか検討した。

解 説

 POTENT試験は,StageⅠ-ⅢBの再発リスクが中等度または高度のER陽性かつHER2陰性の乳癌患者を対象とし,術後内分泌療法5年間に対して,経口S-1内服投与追加の意義を検証した国内多施設共同非盲検ランダム化第Ⅲ相比較試験である1)。術後内分泌療法の内容は,閉経前患者ではタモキシフェンまたはトレミフェンと任意の2年以上の卵巣機能抑制,閉経後患者ではアナストロゾール,レトロゾールまたはエキセメスタンから選択された。S-1経口投与は80~120 mg/日を14日投与7日休薬のスケジュールで,1年間投与された。術前化学療法を行った症例は,術前に腋窩リンパ節転移が陽性であったか,術後に原発巣またはリンパ節に病理学的残存病変があった症例を適格とした。また,手術を先行した症例においては,術後化学療法の投与によらず,腋窩リンパ節転移陽性症例または腋窩リンパ節転移陰性でかつその他リスク因子を有する症例が適格とされた(表1)。なお,手術を先行した症例における術後化学療法の必要性は主治医が判断しており,術後化学療法が必要と判断された症例では,本試験への登録前に化学療法は終了していた。

 POTENT試験はわが国の先進医療Bの制度下で実施され,合計1,930人の患者がS-1併用群957人と内分泌単独群973人にランダム化された。POTENT試験に登録されたリンパ節転移陽性症例は64%であり,リンパ節転移1~3個は34%,4個以上は9.8%であった(ただし,リンパ節転移があるものの,詳細が不明な症例を19.8%含む)。また,周術期化学療法が施行された症例は55.8%であった。追跡期間中央値52.2カ月時点で,中間解析の結果,主要評価項目である浸潤癌の無病生存期間(IDFS)は,S-1と内分泌療法の併用群が内分泌療法単独に対してハザード比(HR)0.63(95%CI 0.49-0.81,p=0.0003)と,S-1の上乗せ効果を認めた。5年IDFS割合は,S-1と内分泌療法の併用群が87%,内分泌療法単独が82%であった。リンパ節転移なしの群でのIDFS改善はHR 0.47(95%CI 0.28-0.77),リンパ節転移ありの群ではHR 0.70(95%CI 0.52-0.93)であった。なお,リンパ節転移個数別のIDFSの検討はなされていない。S-1併用により,内分泌療法単独群と比較してより高い頻度で認められたGrade 3以上の有害事象としては,好中球数減少(8%),下痢(2%),白血球数減少(2%),ビリルビン値上昇(1%),倦怠感(<1%)などであったが,過去に報告されているS-1の一般的な有害事象と同程度であった。

 上記の結果より,術後内分泌療法に対して,S-1併用は統計学的に有意なIDFSの改善効果を示したことをもとに,独立データモニタリング委員会の勧告により有効中止している。ただし,現時点では中間解析の結果に基づいており,distant disease-free survivalや全生存期間に差を認めるかどうかは明確ではなく,長期フォローアップの結果の確認が必要である。

 術後S-1の有効性は1つの臨床試験のみの結果であるが,十分計画された質の高い研究結果のため,エビデンスの強さは「中」とした。

 有害事象の増加はあるものの,ITT集団において5年IDFS割合で5%の改善を認めており,益が害を上回る可能性が非常に高いと判断した。

 IDFSの改善はあるものの,有害事象や医療費自己負担の増加があるため,患者の希望はばらつく可能性があると判断した。

 推奨決定会議の投票では,POTENT試験の対象となるホルモン受容体陽性HER2陰性の患者に対して術後内分泌療法にS-1併用を「行うことを強く推奨する」が72%,「行うことを弱く推奨する」が28%であった。  以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望を考慮し,推奨は「再発リスクが高い場合,内分泌療法にS-1を1年間併用することを強く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

 S-1の術後療法に関連した論文に限定して,2021年6月9日までの検索を行った。PubMedで,“Breast Neoplasms”の同義語,“Hormone receptor”とその同義語,“endocrine therapy”とその同義語,S-1とその同義語に関して検索した。本CQに対して文献検索を行った結果,PubMed:49編,Cochrane:61編,医中誌:44編が抽出された。一次スクリーニングでランダム化比較試験1編の文献が抽出され,二次スクリーニングでランダム化比較試験1編の文献が抽出された。ランダム化比較試験1編のため,定性的システマティック・レビューを行った。

参考文献

1)Toi M, Imoto S, Ishida T, Ito Y, Iwata H, Masuda N, et al. Adjuvant S-1 plus endocrine therapy for oestrogen receptor-positive, HER2-negative, primary breast cancer:a multicentre, open-label, randomised, controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2021;22(1):74-84. [PMID:33387497]