CQ32 生殖細胞系列BRCA病的バリアントを有する進行・再発乳癌患者の薬物療法として,PARP阻害薬は推奨されるか?
背 景・目 的
乳癌のうち5%程度の症例はBRCA1あるいはBRCA2遺伝子の生殖細胞系列病原性変異(以下,gBRCA病的バリアント)を有する。gBRCA病的バリアントを有する乳癌は,PARP〔poly(ADP-ribose)polymerase〕阻害薬やプラチナ製剤に対する感受性が高いことが報告されている。gBRCA病的バリアントを有するHER2陰性進行・再発乳癌患者におけるPARP阻害薬の単剤または化学療法併用の意義について検討した。
解 説
PARP阻害薬の有用性については4つのランダム化比較試験があり,本CQでは,PARP阻害薬の単剤およびPARP阻害薬併用化学療法について標準的な化学療法と比較検討した。(なお,PARP阻害薬の単剤とPARP阻害薬併用化学療法を比較した臨床研究はない。)
1)PARP阻害薬の単剤
gBRCA病的バリアントを有するHER2陰性進行・再発乳癌患者を対象として,医師が選択した標準化学療法と比較してPARP阻害薬を検討したランダム化第Ⅲ相試験は,オラパリブを検討したOlympiAD試験1),talazoparib(未承認)を検討したEMBRACA試験2)の2編があり,これらからシステマティック・レビューを行った。
OlympiAD試験ではアンスラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤,EMBRACA試験ではそのいずれかの治療歴を有する症例が対象とされた。
PARP阻害薬は,主治医が選択した標準化学療法と比べ,無増悪生存期間(PFS)を有意に延長〔ハザード比(HR)0.56,95%CI 0.45-0.68〕し,全生存期間(OS)も延長する傾向がみられたが(HR 0.87,95%CI 0.72-1.05),統計学的には有意でなかった。
有害事象としては,Grade 3以上の貧血の割合は標準化学療法の4.6%と比べPARP阻害薬で29.5%(491人中145人)と多く〔リスク比(RR)5.84,95%CI 2.67-12.78〕,Grade 3以上の好中球数減少はそれぞれ31.3%と16.1%であり,PARP阻害薬で少なかった(RR 0.48,95%CI 0.29-0.81)。
質の高いランダム化第Ⅲ相試験の統合解析であり,エビデンスの強さは「強」とした。益と害のバランスについては,PFSの延長という「益」が有害事象による「害」を上回ると考えられた。なお,医療費を比較検討した論文はなかった。患者の希望に関しては,有害事象のプロファイルによって多少のばらつきが想定されるものと考えられた。
推奨決定会議での投票では,「行うことを強く推奨する」が88%,「行うことを弱く推奨する」が12%であり,推奨は「アンスラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤既治療の場合,PARP阻害薬の単剤投与を強く推奨する」とした。なお,talazoparibについては未承認である(2022年5月現在)。
2)PARP阻害薬併用化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル)(未承認)
化学療法(パクリタキセルとカルボプラチン)とveliparib(未承認)の併用を検証したBROCADE試験(第Ⅱ相)3)およびBROCADE3試験(第Ⅲ相)4)の2試験が報告されている。これらの試験は転移・再発治療で化学療法歴1レジメン以内の症例が対象とされた。
システマティック・レビューの結果,PARP阻害薬と化学療法の併用は化学療法と比べPFSを有意に延長(HR 0.73,95%CI 0.60-0.88)し,OSは統計学的有意差を認めなかった(HR 0.89,95%CI 0.71-1.10)。有害事象としては,PARP阻害薬と化学療法の併用ではGrade 3以上の貧血(RR 1.05,95%CI 0.85-1.30),および好中球数減少(RR 0.97,95%CI 0.90-1.05)の頻度に有意差は認めない。Veliparibは未承認であり,パクリタキセル+カルボプラチン併用化学療法は保険適用外のため推奨から除外した(2022年5月現在)。
検索キーワード・参考にした二次資料
本CQに対して“BRCA1 mutation”,“BRCA2 mutation”,“PARP inhibitor”,“chemotherapy”,“platinum”のキーワードで文献検索を行った結果,検索期間2018年12月まででPubMedから99編,Cochrane Libraryから252編,医中誌から77編,ハンドサーチで1編の論文を抽出した。2022年ガイドライン改訂に際して,検索期間を2021年3月までとして検索を追加し,PubMedから34編,Cochrane Libraryから118編,医中誌から1編が追加で抽出された。一次スクリーニングで14編の論文が抽出され,二次スクリーニングで7編の論文が抽出された。PARP阻害薬の無再発生存期間,全生存期間,有害事象について,2編のRCTのメタアナリシスを行った。
参考文献
1)Robson M, Im SA, Senkus E, Xu B, Domchek SM, Masuda N, et al. Olaparib for metastatic breast cancer in patients with a germline BRCA mutation. N Engl J Med. 2017;377(6):523-33. [PMID:28578601]
2)Litton JK, Rugo HS, Ettl J, Hurvitz SA, Gonçalves A, Lee KH, et al. Talazoparib in patients with advanced breast cancer and a germline BRCA mutation. N Engl J Med. 2018;379(8):753-63. [PMID:30110579]
3)Han HS, Diéras V, Robson M, Palácová M, Marcom PK, Jager A, et al. Veliparib with temozolomide or carboplatin/paclitaxel versus placebo with carboplatin/paclitaxel in patients with BRCA1/2 locally recurrent/metastatic breast cancer:randomized phase Ⅱ study. Ann Oncol. 2018;29(1):154-61. [PMID:29045554]
4)Diéras V, Han HS, Kaufman B, Wildiers H, Friedlander M, Ayoub JP, et al. Veliparib with carboplatin and paclitaxel in BRCA-mutated advanced breast cancer(BROCADE3):a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2020;21(10):1269-82. [PMID:32861273]