CQ26   HER2陽性転移・再発乳癌に対する一次治療として,トラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン併用療法は推奨されるか?

推奨

●トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセルの併用療法を行うことを強く推奨する。

推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:強,合意率:100%(35/35)

●トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセルの併用療法を行うことを弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:97%(33/34).


推奨におけるポイント
■HER2陽性転移・再発乳癌に対する一次治療において,トラスツズマブ,ペルツズマブに併用する化学療法としてドセタキセルを強く,パクリタキセルを弱く推奨する。

背 景・目 的

 本CQではHER2陽性転移・再発乳癌に対する一次療法について検証した。

 本ガイドラインにおけるHER2陽性転移・再発乳癌に対する「一次治療」の定義は,その再発時期にかかわらず,転移・再発後に「最初に行う治療」とする。その次に施行する治療を「二次治療」とする〔☞治療編 総説.Ⅴ.4.a.a-1.1)参照〕。

 「一次治療(転移・再発後に最初に行う抗HER2療法)」で推奨されるレジメンを決めるための因子として,「周術期治療の内容」と「転移・再発までの期間(“treatment-free-interval”)」が挙げられる。

解 説

1)トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル併用療法
 HER2陽性転移・再発乳癌に対する一次療法としてのペルツズマブの有効性を検証した試験としてCLEOPATRA試験,PUFFIN試験が存在する。両試験ともにトラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル併用療法(ペルツズマブ群)とトラスツズマブ+ドセタキセル併用療法(対照群)を比較した第Ⅲ相ランダム化比較試験であり,主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)である。

 CLEOPATRA試験は前治療歴のないHER2陽性転移・再発乳癌患者808人を対象としており,PFS中央値はペルツズマブ群が18.7カ月に対して対照群が12.4カ月,ハザード比(HR)0.68(95%CI 0.58-0.81)と有意な延長が示された1)。全生存期間(OS)中央値も同様に,ペルツズマブ群が57.1カ月に対して対照群が40.8カ月,HR 0.69(95%CI 0.58-0.82)と有意な延長が示された(観察期間中央値:ペルツズマブ群99.9カ月,対照群98.7カ月,HR 0.68,95%CI 0.56-0.84)2)。ペルツズマブ群で対照群より2%以上多く認められたGrade 3以上の有害事象は,好中球減少(53% vs 51%),発熱性好中球減少症(13% vs 7%),下痢(68% vs 48%)であったが,ペルツズマブを追加することにより心毒性は増加しなかった1)

 PUFFIN試験はCLEOPATRA試験の結果を受けて中国で行われたbridging studyであり,試験デザイン,対象患者はCLEOPATRA試験と同様で243人を対象としている。PFS中央値はペルツズマブ群が14.5カ月に対して対照群が12.4カ月,HR 0.69(95%CI 0.49-0.99)と有意な延長が示された3)。OS中央値は両群とも未到達である。

 今回,これら2試験を対象にメタアナリシスを実施し,トラスツズマブ+ドセタキセル併用療法とトラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル併用療法の比較を行った。この結果,OSはハザード比0.60(95%CI 0.46-0.78)(図1a),PFSはハザード比0.69(95%CI 0.60-0.80)(図1b)であり,トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル併用療法群で良好な結果であった。

 Grade 3以上の有害事象に関してはトラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル併用療法群において,下痢〔リスク比(RR)2.03,95%CI 1.49-2.78),発熱性好中球減少症(RR 1.80,95%CI 1.20-2.69)の発現頻度の増加を認めたが,ペルツズマブを追加することにより心毒性は増加しなかった。

 生活の質(QOL)に関してはCLEOPATRA試験のみが報告されており,両群間で差は認めなかった1)

 ペルツズマブを併用した場合のペルツズマブの医療コストについて,日本の患者負担分を想定した費用対効果分析はなされていない。

 以上のエビデンスより,一次治療としてのトラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル併用療法の予後延長効果(益)は明らかであり,毒性(害)とのバランスは確実に上回ると考えられる。本レジメンに対する患者希望は一致していると考えられる。

 推奨決定会議での投票では,「行うことを強く推奨する」が合意率100%であり,推奨は「トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセルの併用療法を行うことを強く推奨する」とした。

 なお,CLEOPATRA試験の適格基準は,周術期化学療法(トラスツズマブ使用有無は問わない)終了から「12カ月」以上経過した症例〔つまり,転移・再発までの期間(“treatment-free interval”)が「12カ月」以上〕,もしくはStage Ⅳ乳癌を対象としている。

2)トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル併用療法
 トラスツズマブ・ペルツズマブに併用する化学療法としてドセタキセル,パクリタキセル,アルブミン懸濁型パクリタキセルの3剤を比較した第Ⅲb相試験としてPERUSE試験が存在する1)4)。主要評価項目は安全性であり,副次評価項目としてPFS,OSが含まれている。全体集団におけるOS中央値は65.3カ月(95%CI 60.9-70.9カ月),PFS中央値は20.7カ月(95%CI 18.9-23.1カ月)であり,CLEOPATRA試験とほぼ同様の結果であった。また,併用化学療法であるドセタキセル群,パクリタキセル群の比較では,OSはハザード比1.03(95%CI 0.91-1.15)(図2a),PFSはハザード比0.98(95%CI 0.90-1.07)(図2b)であり,有効性に関して両薬剤間に有意な差はなかった。

 有害事象に関して,パクリタキセル群では末梢神経障害の発現が多く(RR 2.6,95%CI 1.78-3.78),ドセタキセル群では好中球減少症(RR 0.72,95%CI 0.57-0.91),発熱性好中球減少症(RR 0.11,95%CI 0.05-0.91)が多い傾向であった。心毒性は両薬剤で差を認めなかった。

 以上より,ペルツズマブ+トラスツズマブ+パクリタキセルの良好な効果と高い忍容性が示されており,HER2陽性転移・再発乳癌に対する一次治療のオプションとして使用可能なレジメンと考える。

 推奨決定会議での投票では,「行うことを強く推奨する」が3%,「行うことを弱く推奨する」が97%で,推奨は「トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセルの併用療法を行うことを弱く推奨する」に決定した。

3)トラスツズマブ+ペルツズマブ+ビノレルビン併用療法
 ペルツズマブ+トラスツズマブ+ビノレルビンの第Ⅱ相試験(n=107)では,主要評価項目であるobjective response rateは74.2%(95%CI 63.8-82.9)であった5)。また,PFSは14.3カ月(95%CI 11.2-17.5カ月)であった。主な有害事象(全Grade)は,下痢:57.5%,好中球減少症:50.9%であった。

 後ろ向き研究ではあるが,ペルツズマブ,トラスツズマブに併用する化学療法としてタキサンとビノレルビンを比較検討したものが存在する6)7)。PFS中央値はタキサン群:32.9カ月,ビノレルビン群:14.2カ月(HR 0.56,95%CI 0.36-0.88,p=0.01),OS中央値はタキサン群:56カ月,ビノレルビン群:41カ月(HR 0.69,95%CI 0.39-1.23,p=0.2)であり,タキサン群が良好な傾向であった。以上の結果から,タキサン系薬剤が何らかの理由により使用できない患者を除き,一次治療のオプションとはなり得ない。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms”, “drug therapy”, “Neoplasm Metastasis”, “Neoplasm Recurrence”, “Local”, “metastatic”, “advanced”, “ErbB-2”, “Epidermal Growth Factor”, “Phosphoproteins”, “Proto-Oncogene Proteins”, “her2”, “Antibodies”, “Monoclonal”, “Humanized/therapeutic use”, “Antibodies”, “Monoclonal”, “Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols/therapeutic use”, “Antineoplastic Agents/therapeutic use”, “Antineoplastic Agents”, Cochraneで,“Breast Neoplasms”, “Drug therapy”, “metastatic or advanced or reccurren”, “erbB-2 or her2 or her-2”,医中誌で,“乳房腫瘍”,“薬物療法”,“転移性腫瘍”,“転移”,“腫瘍”,“再発”,“再発転移”,“erbB-2”,“Receptor”,“her2”,“her-2”,“メタアナリシス”,“ランダム化比較試験”,“準ランダム化比較試験”,“比較研究”,“診療ガイドライン”のキーワードで検索した。さらにハンドサーチにより文献検索を行った。

 本CQに対して2021年3月までの期間で文献検索を行った結果,PubMed:294編,Cochrane:148編,医中誌:47編が抽出された。一次スクリーニングで20編の文献が抽出され,二次スクリーニングで5編の文献が抽出された。これにハンドサーチでヒットした2編を追加した。うちCQの主旨に関するランダム化試験として,ランダム化比較試験2編のメタアナリシスおよび定性的システマティック・レビューを行った。

参考文献

1)Swain SM, Baselga J, Kim SB, Ro J, Semiglazov V, Campone M, et al;CLEOPATRA Study Group. Pertuzumab, trastuzumab, and docetaxel in HER2-positive metastatic breast cancer. N Engl J Med. 2015;372(8):724-34. [PMID:25693012]

2)Swain SM, Miles D, Kim SB, Im YH, Im SA, Semiglazov V, et al;CLEOPATRA study group. Pertuzumab, trastuzumab, and docetaxel for HER2-positive metastatic breast cancer(CLEOPATRA):end-of-study results from a double-blind, randomised, placebo-controlled, phase 3 study. Lancet Oncol. 2020;21(4):519-30. [PMID:32171426]

3)Xu B, Li W, Zhang Q, Shao Z, Li Q, Wang X, et al. Pertuzumab, trastuzumab, and docetaxel for Chinese patients with previously untreated HER2-positive locally recurrent or metastatic breast cancer(PUFFIN):a phase Ⅲ, randomized, double-blind, placebo-controlled study. Breast Cancer Res Treat. 2020;182(3):689-97. [PMID:32564260]

4)Bachelot T, Ciruelos E, Schneeweiss A, Puglisi F, Peretz-Yablonski T, Bondarenko I, et al;PERUSE investigators. Preliminary safety and efficacy of first-line pertuzumab combined with trastuzumab and taxane therapy for HER2-positive locally recurrent or metastatic breast cancer(PERUSE). Ann Oncol. 2019;30(5):766-73. [PMID:30796821]

5)Miles D, Ciruelos E, Schneeweiss A, Puglisi F, Peretz-Yablonski T, Campone M, et al;PERUSE investigators. Final results from the PERUSE study of first-line pertuzumab plus trastuzumab plus a taxane for HER2-positive locally recurrent or metastatic breast cancer, with a multivariable approach to guide prognostication. Ann Oncol. 2021;32(10):1245-55. [PMID:34224826]

6)Perez EA, López-Vega JM, Petit T, Zamagni C, Easton V, Kamber J, et al. Safety and efficacy of vinorelbine in combination with pertuzumab and trastuzumab for first-line treatment of patients with HER2-positive locally advanced or metastatic breast cancer:VELVET Cohort 1 final results. Breast Cancer Res. 2016;18(1):126. [PMID:27955684]

7)Reinhorn D, Kuchuk I, Shochat T, Nisenbaum B, Sulkes A, Hendler D, et al. Taxane versus vinorelbine in combination with trastuzumab and pertuzumab for first-line treatment of metastatic HER2-positive breast cancer:a retrospective two-center study. Breast Cancer Res Treat. 2021;188(2):379-87. [PMID:33772709]