CQ25   HER2陰性転移・再発乳癌に対する一次・二次化学療法として,エリブリンは推奨されるか?

推奨

●周術期を含めてアンスラサイクリンおよびタキサン系薬剤既使用例に対して,エリブリンの投与を弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:92%(33/36)


推奨におけるポイント
■HER2陰性転移・再発乳癌に対する一次・二次化学療法としてのアンスラサイクリン・タキサン系薬剤については薬物BQ6,7を参照すること。

背 景・目 的

 転移・再発乳癌は,現行の薬物療法では治癒が困難であり,治療の目的は生存期間の延長とQOLの維持・改善である。本CQでは転移・再発乳癌の一次・二次化学療法としてエリブリンが推奨されるかを検証した。本ガイドラインにおける「一次・二次化学療法」の定義として,転移・再発後に「最初に行う化学療法」を「一次化学療法」とし,その次の化学療法を「二次化学療法」とする。

解 説

 推奨の作成は,アウトカムの重要度として全生存期間(OS)の延長を最重要,続いて無増悪生存期間(PFS),次に生活の質(QOL),毒性(toxicity)を同等の重要度とし,全奏効率(ORR)を一段階下げた重要度として評価した。毒性は有害事象による治療中止とGrade 3以上の有害事象について評価した。

 HER2陰性転移・再発乳癌に対するエリブリンの有効性を検証したランダム化第Ⅲ相比較試験は論文化されたもので3試験存在し,いずれもアンスラサイクリンおよびタキサン系薬剤既使用例を対象としたものである。301試験が一次~三次治療でカペシタビンと比較しており1),EMBRACE(305)試験は三次治療以降で医師選択治療(TPC)2)と,Yuanらの試験は三次治療以降でビノレルビンと比較した試験である3)。ここでは本CQで唯一対象となる301試験について評価を行った。

 301試験は1,102例を対象に行われ,主要評価項目はPFSとOSであり,副次評価項目はORR,QOL,毒性であった。本試験では一次治療が約2割,二次治療が約5割,三次治療が約3割であった。PFS中央値はエリブリン群で4.1カ月,カペシタビン群で4.2カ月であり差を認めず〔ハザード比(HR)1.08,95%CI 0.93-1.25,p=0.30〕,OS中央値はエリブリン群で15.9カ月,カペシタビン群で14.5カ月であり,有意差は認めないもののエリブリン群で延長する傾向にあった(HR 0.88,95%CI 0.77-1.00,p=0.056)。ORRは両群間に差は認められなかった(エリブリン群:11.0%,カペシタビン群:11.5%,p=0.85)。毒性に関して,有害事象による治療中止は両群間に差は認められなかったが(エリブリン群:8%,カペシタビン群:10%,HR 0.81,95%CI 0.62-1.06,p=0.12),Grade 3以上の血液学的毒性はエリブリン群で多く(65% vs 9%),非血液学的毒性はカペシタビン群で多い結果であった(41% vs 26%)。両薬剤の全般的QOLへ与える影響は同等であった1)

 エビデンスの強さは,一次・二次化学療法としてのエビデンスは1試験のみであり,「弱」とした。エリブリンの投与はカペシタビンと比較しOSを延長する傾向にあるが,PFS,ORR,QOLに差は認められなかった。毒性はプロファイルが大きく異なるが,有害事象による治療中止は同等であった。以上から,益と害のバランスとして,エリブリンはカペシタビンと同等と考えられる。エリブリンのエビデンスの対象症例は,すべてアンスラサイクリンおよびタキサン系薬剤既使用例であり,未使用例に対する一次・二次化学療法としてのエリブリン投与はエビデンスが乏しく,推奨の判断はできない。そのため,推奨決定会議では,推奨文を「周術期を含めてアンスラサイクリンおよびタキサン系薬剤既使用例に対して,エリブリンの投与を弱く推奨する」として投票を行った。その結果,「行うことを弱く推奨する」が92%(33/36),「行わないこと弱く推奨する」が8%(3/36)で,推奨は「周術期を含めてアンスラサイクリンおよびタキサン系薬剤既使用例に対して,エリブリンの投与を弱く推奨する」に決定した。

検索キーワード・参考にした二次資料

 “Breast neoplasms”, “neoplasm metastasis”, “metastatic breast cancer”, “advanced breast cancer”, “chemotherapy”, “eribulin”をキーワードに2021年3月31日までの文献検索を行い,PubMed:114編,Cochrane:248編,医中誌:68編の論文が抽出された。これらに対して一次スクリーニング,二次スクリーニングを行い,前述の301試験については評価対象としてレビューを行い,他2試験については解説文内で触れた。

参考文献

1)Kaufman PA, Awada A, Twelves C, Yelle L, Perez EA, Velikova G, et al. Phase Ⅲ open-label randomized study of eribulin mesylate versus capecitabine in patients with locally advanced or metastatic breast cancer previously treated with an anthracycline and a taxane. J Clin Oncol. 2015;33(6):594-601. [PMID:25605862]

2)Cortes J, O’Shaughnessy J, Loesch D, Blum JL, Vahdat LT, Petrakova K, et al;EMBRACE(Eisai Metastatic Breast Cancer Study Assessing Physician’s Choice Versus E7389)investigators. Eribulin monotherapy versus treatment of physician’s choice in patients with metastatic breast cancer(EMBRACE):a phase 3 open-label randomised study. Lancet. 2011;377(9769):914-23. [PMID:21376385]

3)Yuan P, Hu X, Sun T, Li W, Zhang Q, Cui S, et al. Eribulin mesilate versus vinorelbine in women with locally recurrent or metastatic breast cancer:A randomised clinical trial. Eur J Cancer. 2019;112:57-65. [PMID:30928806]