CQ24  HER2陰性転移・再発乳癌に対する一次・二次化学療法として,経口フッ化ピリミジンは推奨されるか?

CQ24a 一次治療の場合

推奨

●S-1の投与を弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:86%(38/44)

●カペシタビンの投与を弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:86%(38/44)


推奨におけるポイント
■HER2陰性転移・再発乳癌に対する一次化学療法としてのアンスラサイクリン・タキサン系薬剤については薬物BQ6,7を参照すること。

CQ24b 二次治療の場合

推奨

●S-1またはカペシタビンの投与を弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:100%(44/44)


推奨におけるポイント
■HER2陰性転移・再発乳癌に対する二次化学療法としてのアンスラサイクリン・タキサン系薬剤については薬物BQ6,7を参照すること。

背 景・目 的

 転移・再発乳癌は,現行の薬物療法では治癒が困難であり,治療の目的は生存期間の延長とQOLの維持・改善である。経口フッ化ピリミジンは脱毛がない点等がメリットであるが,一次・二次化学療法として経口フッ化ピリミジンが他剤と比べ,推奨されるかどうかを検証した。

 本ガイドラインにおける「一次・二次化学療法」の定義として,転移・再発後に「最初に行う化学療法」を,その再発時期にかかわらず,すべて「一次化学療法」とし,その次の化学療法を「二次化学療法」とする。

解 説

1)一次化学療法
(1)S-1
 S-1を一次治療とした試験は,SELECT BC試験とSELECT BC-CONFIRM試験があり,それぞれタキサン,アンスラサイクリンに対するS-1の非劣性をみた試験である1)2)。いずれの試験も約3割の患者に周術期でタキサンが使用されていた。全生存期間(OS)について,SELECT BC試験ではS-1のタキサンに対するハザード比(HR)が1.05(95%CI 0.86-1.27),SELECT BC-CONFIRM試験ではアンスラサイクリンに対するHRが1.09(95%CI 0.80-1.48)であった。また,事前に計画されていた両試験の統合解析では,S-1の標準治療群(タキサン+アンスラサイクリン)に対するHRは1.06(95%CI 0.90-1.25)であった。無増悪生存期間(PFS)は標準治療群で良好な傾向であった(HR 1.16,95%CI 1.00-1.35)。QOL評価ではS-1がタキサンに比べて優れていたが,S-1とアンスラサイクリンは同等であった。両薬剤で毒性のプロファイルは異なり,アンスラサイクリンおよびタキサンでは脱毛や末梢神経障害の発現頻度が高く,S-1で下痢が高いという結果であった。

(2)カペシタビン
 カペシタビン単剤を一次治療で比較した試験は4試験で,うち2試験はペグ化リポソーム塩酸ドキソルビシン,2試験はCMFと比較している3)~6)。周術期にアンスラサイクリンおよびタキサンが使用された患者が1~3割程度含まれていた。ペグ化リポソーム塩酸ドキソルビシンとの比較では,対象の多くが高齢者であった試験であり,OS,PFS,全奏効割合(ORR)に差は認められなかった。CMFと比較した2試験の統合解析では,PFS,ORRに差は認めなかったが,OS(HR 0.71,95%CI 0.56-0.91)でカペシタビンが優れていた。ただし,対照群がCMFであることに留意が必要である。一方,一次治療で他剤に対してカペシタビンの上乗せ効果を検討した比較試験は3試験あり,いずれにおいてもPFS,ORRは改善するものの,OSに差は認めなかった。また,有害事象は上乗せした群で多かった。

 一次治療でカペシタビンと他剤の併用療法をアンスラサイクリンおよびタキサンの併用療法と比較した8試験において,メタアナリシスが可能であった試験での結果では,OS,PFS,ORRに差は認められなかった。

(3)その他の経口フッ化ピリミジン
 その他の経口フッ化ピリミジンを一次治療でアンスラサイクリンおよびタキサンと比較した試験は認めなかった。

 以上の各薬剤のエビデンスの強さに関しては,各試験のバイアスリスクを考慮して決定した。その中で,カペシタビン単剤を介入群とした試験に関しては対照群が現段階で使用されることが少ないレジメンであり,エビデンスの強さは「弱」とした。「益と害のバランス」については,S-1はアンスラサイクリンおよびタキサンのレジメンに対してOSが大きくは劣らないことが示されており,脱毛がなく,タキサンに対してはQOLの優越性が示されているため,一次化学療法として「益」が「害」に勝ると考えた。カペシタビン単剤は,一次治療でアンスラサイクリンおよびタキサンと比較したデータが乏しいが,CMFに対する優越性が示されており,S-1と同様に脱毛はなく,一次化学療法として「益」が「害」に勝ると考えた。経口フッ化ピリミジンと他剤の併用療法に関しては,カペシタビンの上乗せによりPFS,ORRは改善するが,OSに差はなく,有害事象も増加した。転移・再発乳癌の治療では同時併用投与によるメリットと順次投与によるメリットを考慮する必要があり,治療編 総説も参照されたい。患者の希望については,S-1は脱毛がなくQOLで優れていることから,患者希望のばらつきは少ないと考えられた。カペシタビンも脱毛がないため,患者希望のばらつきは少ないと考えられた。

 推奨決定会議では,一次化学療法におけるS-1の推奨を決めるための投票で「行うことを強く推奨する」が11%,「行うことを弱く推奨する」が86%,「行わないことを弱く推奨する」が2%で,推奨は「S-1の投与を弱く推奨する」に決定した。

 カペシタビンの推奨を決めるための投票では「行うことを弱く推奨する」が86%,「行わないことを弱く推奨する」が14%で,推奨は「カペシタビンの投与を弱く推奨する」に決定した。

2)二次化学療法
(1)S-1
 S-1を二次治療以降として比較した試験は唯一,カペシタビンとの比較試験が挙げられる7)。OS,PFSは同等であったが,一次~三次治療まで含まれており,HER2陽性・不明が3割前後含まれていたことには留意が必要である。毒性プロファイルは異なる(血小板減少,嘔気がS-1に多く,手足症候群がカペシタビンに多い)が,Grade 3以上の有害事象に大きな差は認められなかった。

(2)カペシタビン
 カペシタビン単剤を二次治療以降で検討された試験は3試験であった。すべてアンスラサイクリンおよびタキサン使用例であった。2試験は三次治療まで含めた結果であり,統計処理されている1試験(対照はゲムシタビン+ビノレルビン)では,OS,PFS,ORRで差は認めなかった。二次治療のみ評価した試験は,カペシタビン単剤とエリブリンを比較した301試験で,二次治療群のみを後ろ向きに解析したもののみであった8)。PFS,ORRに差は認めなかったが,OSはエリブリンで良好な可能性が示唆されている(HR 0.77,95%CI 0.62-0.97,p=0.026)。毒性については,エリブリンでGrade 3以上の有害事象が多かった(エリブリンでは好中球減少が多く,カペシタビンでは手足症候群が多い)。副作用プロファイルの違いはあるが,301試験では全般的QOLに差はなかったと報告されている。

 二次治療が含まれた,他剤に対してカペシタビンを上乗せする併用療法を比較した試験は2つあり,いずれもドセタキセルにカペシタビンを上乗せした試験であった9)10)。一次~三次治療までが含まれるが,1試験ではOS,PFS,ORRでカペシタビンの上乗せが優れていたが,対照群の37%が試験終了後に化学療法が施行されていなかった。もう1試験ではOS,PFS,ORRに差は認めなかった。

(3)その他の経口フッ化ピリミジン
 その他の経口フッ化ピリミジンを二次治療で比較した試験は認められなかった。

 以上の各薬剤のエビデンスの強さに関しては,各試験のバイアスリスクを考慮して,二次治療で比較した試験が少なく,エビデンスの強さは「弱」とした。「益と害のバランス」について,S-1に関しては,二次治療のエビデンスは少ないものの,その有用性は一次治療で示されており,未使用の場合は「益」が上回る場合があると考えられた。カペシタビンはS-1との同等性が証明されており,同様に「益」が上回ると場合があると考えられた。患者の希望は,脱毛への考え方など個々の価値観によって,また一次治療で経験した有害事象によって多様性があると考えられる。

 推奨決定会議では,二次化学療法におけるS-1またはカペシタビンの推奨を決めるための投票で「行うことを弱く推奨する」が合意率100%であり,「S-1またはカペシタビンの投与を弱く推奨する」に決定した。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast neoplasms”,“Neoplasm metastasis”,“Metastatic breast cancer”,“Advanced breast cancer”,“Chemotherapy”,“First-line chemotherapy”,“Oral 5-fluorouracil”,“S-1”,“Capecitabine”のキーワードとその同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。2021年3月までの検索期間で612編がヒットした。そこからハンドサーチ1編の文献を加えた24編を採用し,これらをもとに,定性的・定量的システマティック・レビューを行った。

参考文献

1)Takashima T, Mukai H, Hara F, Matsubara N, Saito T, Takano T, et al;SELECT BC Study Group. Taxanes versus S-1 as the first-line chemotherapy for metastatic breast cancer(SELECT BC):an open-label, non-inferiority, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2016;17(1):90-8. [PMID:26617202]

2)Mukai H, Uemura Y, Akabane H, Watanabe T, Park Y, Takahashi M, et al. Anthracycline-containing regimens or taxane versus S-1 as first-line chemotherapy for metastatic breast cancer. Br J Cancer. 2021;125(9):1217-25. [PMID:34480096]

3)Smorenburg CH, de Groot SM, van Leeuwen-Stok AE, Hamaker ME, Wymenga AN, de Graaf H, et al. A randomized phase Ⅲ study comparing pegylated liposomal doxorubicin with capecitabine as first-line chemotherapy in elderly patients with metastatic breast cancer:results of the OMEGA study of the Dutch Breast Cancer Research Group BOOG. Ann Oncol. 2014;25(3):599-605. [PMID:24504445]

4)Harbeck N, Saupe S, Jäger E, Schmidt M, Kreienberg R, Müller L, et al;PELICAN Investigators. A randomized phase Ⅲ study evaluating pegylated liposomal doxorubicin versus capecitabine as first-line therapy for metastatic breast cancer:results of the PELICAN study. Breast Cancer Res Treat. 2017;161(1):63-72. [PMID:27798749]

5)Oshaughnessy JA, Blum J, Moiseyenko V, Jones SE, Miles D, Bell D, et al. Randomized, open-label, phase Ⅱ trial of oral capecitabine(Xeloda)vs. a reference arm of intravenous CMF(cyclophosphamide, methotrexate and 5-fluorouracil)as first-line therapy for advanced/metastatic breast cancer. Ann Oncol. 2001;12(9):1247-54. [PMID:11697835]

6)Stockler MR, Harvey VJ, Francis PA, Byrne MJ, Ackland SP, Fitzharris B, et al. Capecitabine versus classical cyclophosphamide, methotrexate, and fluorouracil as first-line chemotherapy for advanced breast cancer. J Clin Oncol. 2011;29(34):4498-504. [PMID:22025143]

7)Yamamoto D, Iwase S, Tsubota Y, Ariyoshi K, Kawaguchi T, Miyaji T, et al. Randomized study of orally administered fluorinated pyrimidines(capecitabine versus S-1)in women with metastatic or recurrent breast cancer:Japan Breast Cancer Research Network 05 Trial. Cancer Chemother Pharmacol. 2015;75(6):1183-9. [PMID:25862350]

8)Pivot X, Im SA, Guo M, Marmé F. Subgroup analysis of patients with HER2-negative metastatic breast cancer in the second-line setting from a phase 3, open-label, randomized study of eribulin mesilate versus capecitabine. Breast Cancer. 2018;25(3):370-4. [PMID:29302858]

9)O’Shaughnessy J, Miles D, Vukelja S, Moiseyenko V, Ayoub JP, Cervantes G, et al. Superior survival with capecitabine plus docetaxel combination therapy in anthracycline-pretreated patients with advanced breast cancer:phase Ⅲ trial results. J Clin Oncol. 2002;20(12):2812-23. [PMID:12065558]

10)Yamamoto D, Sato N, Rai Y, Yamamoto Y, Saito M, Iwata H, et al. Efficacy and safety of low-dose capecitabine plus docetaxel versus single-agent docetaxel in patients with anthracycline-pretreated HER2-negative metastatic breast cancer:results from the randomized phase Ⅲ JO21095 trial. Breast Cancer Res Treat. 2017;161(3):473-82. [PMID:28005247]