CQ1 ホルモン受容体陽性非浸潤性乳管癌に対して乳房部分切除術後の内分泌療法は推奨されるか?

推奨

●閉経状況にかかわらずタモキシフェンの投与を弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:90%(43/48)

●閉経後の場合,アロマターゼ阻害薬の投与を弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:83%(40/48)


推奨におけるポイント
■閉経前であれば,タモキシフェンの投与が弱く推奨される。
■閉経後であれば,アロマターゼ阻害薬の投与が弱く推奨され,アロマターゼ阻害薬が使用できない場合や骨関連有害事象の懸念がある場合は,タモキシフェンの投与が弱く推奨される。

背 景・目 的

非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)に対する術後内分泌療法の意義について検討した。

解 説

 非浸潤性乳管癌(DCIS)に対する乳房部分切除術後のタモキシフェン投与に関して,2つのプラセボ対照のランダム化比較試験(UK/ANZ DCIS試験1),NSABP B-24試験2))を統合解析した。術後タモキシフェン5年投与により,無病生存期間(DFS)が改善する〔ハザード比(HR)0.76,95%CI 0.62-0.94,p=0.01〕。温存乳房内の浸潤癌発症も減少傾向が認められる〔リスク比(RR)0.75,95%CI 0.56-1.02〕。全生存期間(OS)の改善は認めない(RR 1.13,95%CI 0.84-1.52)。有害事象についてはNSABP B-24試験3)で報告されており,Grade 3以上の有害事象には有意な差は認めなかった(RR 0.91,95%CI 0.64-1.27,p=0.57)。

 非浸潤性乳管癌に対する乳房部分切除術後のアロマターゼ阻害薬投与については,閉経後女性を対象に,アロマターゼ阻害薬とタモキシフェンの5年内服を比較した2試験(IBIS-Ⅱ DCIS試験4),NSABP B-35試験5))が報告されている。アロマターゼ阻害薬はタモキシフェンと比較してDFS(HR 0.79,95%CI 0.64-0.97,p=0.02)を改善するが,温存乳房内の浸潤癌再発(HR 0.85,95%CI 0.55-1.31,p=0.46),OS(HR 1.06,95%CI 0.84-1.35,p=0.61)には有意な改善は認めない。治療関連有害事象は全Gradeでの評価では有意な差は認めないものの,骨折はアロマターゼ阻害薬で多く(RR 1.34,95%CI 1.09-1.65),血栓塞栓症はタモキシフェンで多い(RR 0.31,95%CI 0.19-0.53)。

 DCISに対する乳房部分切除術後の内分泌療法により,DFSの改善,乳房内再発抑制が期待されるが,OSの改善はなく,有害事象は増加し,タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬でその割合は異なっている。QOLは評価されていない。患者の希望のばらつきも大きいと考えられる。複数のランダム化比較試験の統合解析の結果であり,エビデンスの強さは「強」とした。

 推奨決定会議での投票では,タモキシフェン投与については,「行うことを弱く推奨する」が43/48(90%),「行わないことを弱く推奨する」が4/48(8%),「行わないことを強く推奨する」が1/48(2%)であり,推奨は,「閉経状況にかかわらずタモキシフェンの投与を弱く推奨する」とした。また,閉経後患者に対するアロマターゼ阻害薬については,「行うことを弱く推奨する」が40/48(83%),「行わないことを弱く推奨する」が8/48(17%)であり,「閉経後の場合アロマターゼ阻害薬の投与を弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Carcinoma, Intraductal, Noninfiltrating”,“Carcinoma, Ductal, Breast”,“Carcinoma in Situ”,“Carcinoma, Lobular”,“Chemotherapy, Adjuvant”,“Antineoplastic Agents, Hormonal”,“Tamoxifen”,“Aromatase Inhibitors”,“Letrozole”,“Anastrozole”,“Exemestane”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。PubMedから74編,Cochraneから34編,医中誌から1編,ハンドサーチにて1編を抽出した。一次スクリーニングにて110編を抽出し,二次スクリーニングとして23編を抽出した。

 無浸潤疾患生存期間/温存乳房内の浸潤癌再発,無再発生存期間,全生存期間,治療関連有害事象に関してシステマティック・レビューを行った。

参考文献

1)Cuzick J, Sestak I, Pinder SE, Ellis IO, Forsyth S, Bundred NJ, et al. Effect of tamoxifen and radiotherapy in women with locally excised ductal carcinoma in situ:long-term results from the UK/ANZ DCIS trial. Lancet Oncol. 2011;12(1):21-9. [PMID:21145284]

2)Allred DC, Anderson SJ, Paik S, Wickerham DL, Nagtegaal ID, Swain SM, et al. Adjuvant tamoxifen reduces subsequent breast cancer in women with estrogen receptor-positive ductal carcinoma in situ:a study based on NSABP protocol B-24. J Clin Oncol. 2012;30(12):1268-73. [PMID:22393101]

3)Fisher B, Dignam J, Wolmark N, Wickerham DL, Fisher ER, Mamounas E, et al. Tamoxifen in treatment of intraductal breast cancer:National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B-24 randomised controlled trial. Lancet. 1999;353(9169):1993-2000. [PMID:10376613]

4)Forbes JF, Sestak I, Howell A, Bonanni B, Bundred N, Levy C, et al;IBIS-Ⅱ investigators. Anastrozole versus tamoxifen for the prevention of locoregional and contralateral breast cancer in postmenopausal women with locally excised ductal carcinoma in situ(IBIS-Ⅱ DCIS):a double-blind, randomised controlled trial. Lancet. 2016;387(10021):866-73. [PMID:26686313]

5)Margolese RG, Cecchini RS, Julian TB, Ganz PA, Costantino JP, Vallow LA, et al. Anastrozole versus tamoxifen in postmenopausal women with ductal carcinoma in situ undergoing lumpectomy plus radiotherapy(NSABP B-35):a randomised, double-blind, phase 3 clinical trial. Lancet. 2016;387(10021):849-56. [PMID:26686957]