FRQ13 生殖細胞系列BRCA病的バリアントを有する進行・再発乳癌患者に対してプラチナ製剤は推奨されるか?
背 景
乳癌のうち5%程度の症例はBRCA1あるいはBRCA2遺伝子の生殖細胞系列病原性変異(以下,gBRCA病的バリアント)を有する。gBRCA病的バリアントを有する乳癌は,PARP〔poly(ADP-ribose)polymerase〕阻害薬(☞薬物CQ32参照)やプラチナ製剤に対する感受性が高いことが報告されている1)。
解 説
gBRCA病的バリアントを有する進行・再発乳癌において,プラチナ製剤の有効性について報告されている。シスプラチンを検討した第Ⅱ相試験では,20人のgBRCA1病的バリアントを有する乳癌患者を対象にシスプラチン75 mg/m2を3週毎に6サイクルまで投与し,CR 45%,PR 35%,無増悪生存期間(PFS)中央値は12カ月であった2)。トリプルネガティブ乳癌(TNBC)を対象とした単群第Ⅱ相試験であるTBCRC 009試験では,86例(69例がファーストライン,17例がセカンドライン)が,シスプラチン(43例)あるいはカルボプラチン(43例)の投与を受けた3)。86例中77例でBRCA病的バリアントが検討され,9例でgBRCA1病的バリアントが,2例でgBRCA2病的バリアントが認められた。11例の全奏効割合(ORR)は54.5%であったが,PFS中央値は3.3カ月であった。BROCADE3試験は,gBRCA病的バリアントに対してカルボプラチン,パクリタキセルにPARP阻害薬であるveliparib(未承認)の上乗せ効果を検討したランダム化第Ⅲ相試験であった4)。両群にカルボプラチンを含む化学療法が行われており,PFS中央値はveliparib群で14.5カ月,対照群12.6カ月であった。
gBRCA病的バリアントを有する進行・再発乳癌患者のみを対象にしてプラチナ製剤の有効性を検討したランダム化比較試験はないが,gBRCA病的バリアントを有する進行・再発乳癌患者を含め検証が行われたランダム化第Ⅲ相試験としてTNT試験(カルボプラチン単剤vsドセタキセル単剤)5),CBCSG 006試験(シスプラチン+ゲムシタビンvsパクリタキセル+ゲムシタビン)6)がある。TNT試験は転移・再発乳癌に対する治療としてアンスラサイクリン系薬剤の治療歴のみ許容され,CBCSG 006試験は転移・再発乳癌に対する初回治療例を対象に行われた。TNT試験全体ではPFS中央値はカルボプラチン群3.1カ月(95%CI 2.4-4.2カ月),ドセタキセル群4.4カ月(95%CI 4.1-5.1カ月)であったが,層別化因子ではないものの事前に規定されたBRCA病的バリアントを有する患者におけるサブグループ解析では,PFSはカルボプラチン群で良好な傾向がみられた(PFS中央値6.8カ月vs 4.4カ月,p=0.002)。BRCA病的バリアントを有する患者におけるORRはカルボプラチン群66.7%,ドセタキセル群35.7%であった。また,CBCSG 006試験全体ではPFSはシスプラチン群で優れており〔ハザード比(HR)0.692,95%CI 0.523-0.915〕,gBRCA病的バリアントにおけるサブグループ解析でもPFSはシスプラチン群で優れる傾向がみられた(PFS中央値8.90カ月vs 3.20カ月,p=0.459)。ORRはシスプラチン群83.3%,対照群35.7%であった。しかし,これらの試験はgBRCA病的バリアントを有する進行・再発乳癌患者のみを対象としていないこと,gBRCA病的バリアントの有無は層別化因子でなかったこと,gBRCA病的バリアントを有する例は両試験合わせても57例であることから統合解析は実施しなかった。
BRCA病的バリアントを有する例におけるOSについては,TNT試験のサブグループ解析が報告されているが,カルボプラチンによる有意な延長はみられなかった(gBRCA病的バリアントp=0.97,腫瘍BRCA病的バリアントp=0.43)。
わが国ではHER2陰性乳癌に対しては,カルボプラチンがゲムシタビンおよびペムブロリズマブとの併用でPD-L1陽性TNBCに対して承認されているが,BRCA病的バリアントの有無による効果の差異は不明である。
以上より,gBRCA病的バリアントを有する進行・再発乳癌患者に対して,プラチナ製剤の有効性は期待されるが,推奨度を決定できるような試験結果はない。gBRCA病的バリアントを有する進行・再発乳癌患者を対象としたランダム化比較試験はなく,今後の課題である。
検索キーワード・参考にした二次資料
本FRQに対して,“BRCA1 mutation”,“BRCA2 mutation”,“PARP inhibitor”,“chemotherapy”,“platinum”のキーワードで文献検索を行った。検索期間は2019年2月までとし,PubMedから172編,Cochrane Libraryから252編,医中誌から77編が抽出された。検索期間を2021年3月までとして,“Breast Neoplasms/drug therapy”,“Platinum Compounds”,“Carboplatin”,“Oxaliplatin”,“Organoplatinum Compounds”のキーワードで検索し99件がヒットした。
参考文献
1)Byrski T, Huzarski T, Dent R, Gronwald J, Zuziak D, Cybulski C, et al. Response to neoadjuvant therapy with cisplatin in BRCA1-positive breast cancer patients. Breast Cancer Res Treat. 2009;115(2):359-63. [PMID:18649131]
2)Byrski T, Dent R, Blecharz P, Foszczynska-Kloda M, Gronwald J, Huzarski T, et al. Results of a phase Ⅱ open-label, non-randomized trial of cisplatin chemotherapy in patients with BRCA1-positive metastatic breast cancer. Breast Cancer Res. 2012;14(4):R110. [PMID:22817698]
3)Isakoff SJ, Mayer EL, He L, Traina TA, Carey LA, Krag KJ, et al. TBCRC009:a multicenter phase ⅱ clinical trial of platinum monotherapy with biomarker assessment in metastatic triple-negative breast cancer. J Clin Oncol. 2015;33(17):1902-9. [PMID:25847936]
4)Diéras V, Han HS, Kaufman B, Wildiers H, Friedlander M, Ayoub JP, et al. Veliparib with carboplatin and paclitaxel in BRCA-mutated advanced breast cancer(BROCADE3):a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2020;21(10):1269-82. [PMID:32861273]
5)Tutt A, Tovey H, Cheang MCU, Kernaghan S, Kilburn L, Gazinska P, et al. Carboplatin in BRCA1/2-mutated and triple-negative breast cancer BRCAness subgroups:the TNT trial. Nat Med. 2018;24(5):628-37. [PMID:29713086]
6)Zhang J, Lin Y, Sun XJ, Wang BY, Wang ZH, Luo JF, et al. Biomarker assessment of the CBCSG006 trial:a randomized phase Ⅲ trial of cisplatin plus gemcitabine compared with paclitaxel plus gemcitabine as first-line therapy for patients with metastatic triple-negative breast cancer. Ann Oncol. 2018;29(8):1741-7. [PMID:29905759]