CQ33 生殖細胞系列BRCA病的バリアントを有する早期乳癌患者の術後療法として,PARP阻害薬は勧められるか?
背 景・目 的
乳癌における生殖細胞系列BRCA (gBRCA) 病的バリアントを有する症例は5%程度である。gBRCA病的バリアントを有する進行・再発乳癌に対して,PARP(poly(ADPーribose)polymerase)阻害薬は従来の化学療法と比較しPFSの延長を示している(☞CQ32参照)。gBRCA病的バリアントを有する早期乳癌患者の術後療法としてPARP阻害薬の意義を検討した。
解 説
gBRCA病的バリアントを有するHER2陰性早期乳癌患者を対象としてPARP阻害薬の意義を検討したランダム化第Ⅲ相試験であるOlympiA試験 2,3)から中間解析の結果を報告した2編の論文があり,これらのシステマティック・レビューを行った。
OlympiA試験は,周術期化学療法後のgBRCA病的バリアントを有するHER2陰性再発高リスク患者を対象として,PARP阻害薬であるオラパリブ1年間投与とプラセボ1年間投与を比較した第Ⅲ相試験である2,3)。HR陽性の場合には標準的な内分泌療法も併用された。OlympiA試験における再発高リスク患者の判断基準は表1に示すとおりである。1836人がランダム化され, そのうちTNBC は1509人(82.2%),HR陽性は325人(17.7%)であった。920人(50.1%)が術前化学療法,916人(49.9%)が術後化学療法を受けており,1720人(93.7%)がアンスラサイクリン系薬剤及びタキサン系薬剤の両方の投与歴を有していた。追跡期間中央値3.5年時の4年OSはオラパリブ群89.8%、プラセボ群86.4%、OSハザード比は0.68 (98.5% CI 0.47 - 0.97,P=0.009)3)、4年IDFSはオラパリブ群82.7%、プラセボ群75.4%、IDFSハザード比は0.63 (95% CI 0.50 - 0.78)であり、オラパリブ群でOS及びIDFSの有意な改善を認めた。OSリスク差は3年3.8%(95% CI 0.9 – 6.6),4年3.4%(95% CI -0.1 – 6.8),IDFSリスク差は3年8.8%(95% CI 5.0 – 12.6),4年7.3%(95% CI 3.0 – 11.5)と維持されていた3)。貧血はオラパリブ群23.6%,プラセボ群3.9%(リスク比 6.10, 95% CI 4.32 - 8.61),グレード3以上の有害事象はオラパリブ群24.5%,プラセボ群11.3%(リスク比 2.17, 95% CI 1.75 - 2.69)とオラパリブ群で増加した。中央値3.5年の観察期間でMDS/AMLの発症頻度はオラパリブ群0.2%,プラセボ群0.3%と差は認めなかった(リスク比 0.66, 95% CI 0.11 – 3.95)。
gBRCA病的バリアントを有する再発高リスクHER2陰性早期乳癌に対する周術期化学療法後のオラパリブの1年間投与の益と害については,PARP阻害薬により貧血とグレード3以上の有害事象が増加するものの,OS及びIDFSが有意に改善することから,益が害を上回ると判断した。本CQで対象となったRCTは 1試験のみであるが,gBRCA病的バリアントを有する症例のみを集めた質の高い試験であり,エビデンスの強さは「中」とした。オラパリブ投与により有害事象の増加や薬剤費が高額になることから患者希望にばらつきが出る可能性はあるが,MDS/AMLの発生頻度の増加は無く,HR陽性群における長期フォローの結果が注視されるが、全体の予後改善の益が大きいことから,多くの患者が周術期化学療法後のオラパリブの1年間投与を選択すると考えられる。
HER2陽性早期乳癌患者を対象としてPARP阻害薬の意義を検討した研究報告はなかった。
推奨決定会議の投票の結果は,「行うことを強く推奨する 66/73,合意率 90%」であり,推奨は,「HER2陰性早期乳癌に対して,再発リスクが高い場合,周術期化学療法後にオラパリブを1年間投与することを強く推奨する。」とした。
検索キーワード・参考にした二次資料
検索期間を2021年3月までとして,PubMedで"Breast Neoplasms/drug therapy","Chemotherapy, Adjuvant", "Neoadjuvant Therapy","BRCA1 Protein","Genes, BRCA1","Genes, BRCA2","BRCA2 Protein","BRCA2 protein, human"のキーワードで検索し140件がヒットした。Web改訂のため追加で2022年10月までの期間を検索し14件がヒットした。一次スクリーニング及び二次スクリーニングの後に,1つのRCTに関する2編の論文が抽出された。
参考文献
1)Templeton AJ, Gonzalez LD, Vera-Badillo FE, Tibau A, Goldstein R, Šeruga B, et al. Interaction between hormonal receptor status, age and survival in patients with BRCA1/2 germline mutations: a systematic review and meta-regression. PLoS One. 2016;11(5):e0154789. [PMID: 27149669]
2)Tutt ANJ, Garber JE, Kaufman B, Viale G, Fumagalli D, Rastogi P, et al.; OlympiA Clinical Trial Steering Committee and Investigators. Adjuvant Olaparib for Patients with BRCA1- or BRCA2-Mutated Breast Cancer. N Engl J Med. 2021;384(25):2394-2405. [PMID: 34081848]
3)Geyer CE, Jr., Garber JE, Gelber RD, Yothers G, Taboada M, et al. Overall survival in the OlympiA phase III trial of adjuvant olaparib in patients with germline pathogenic variants in BRCA1/2 and high-risk, early breast cancer. Ann Oncol 2022;33(12):1250-68. [PMID: 36228963]
4)Jeruss JS, Mittendorf EA, Tucker SL, Gonzalez-Angulo AM, Buchholz TA, et al. Combined Use of Clinical and Pathologic Staging Variables to Define Outcomes for Breast Cancer Patients Treated With Neoadjuvant Therapy. Journal of Clinical Oncology 2008;26:246-52. [PMID: 18056680]
5)Mittendorf EA, Jeruss JS, Tucker SL, Kolli A, Newman LA, et al. Validation of a Novel Staging System for Disease-Specific Survival in Patients With Breast Cancer Treated With Neoadjuvant Chemotherapy. Journal of Clinical Oncology 2011;29:1956-62. [PMID: 21482989]