CQ30   転移・再発トリプルネガティブ乳癌に対してプラチナ製剤は勧められるか？

背　景・目　的

　転移・再発トリプルネガティブ乳癌は予後不良の病態であるが，その一方で化学療法薬に対する感受性が高いとされている。DNA傷害性化学療法薬であるプラチナ製剤の効果について，乳癌診療ガイドラインでは2018年版（追補2019）で初めてCQとして取り上げ（CQ28），転移・再発トリプルネガティブ乳癌に対するプラチナ製剤を含んだ治療と含まない治療を比較した臨床試験を検索し，メタアナリシスを行った。その結果，全生存期間（OS）と全奏効割合（ORR）に関してはボーダーラインであるがプラチナ製剤の有効性が示され，無増悪生存期間（PFS）はプラチナ製剤で有意に改善し，プラチナ製剤の使用を弱い推奨とした。その後2020年に同様のCQのコクランレビューが発表されたため^1），今回，2022年版に使用できるかどうか検証するために新たに文献スクリーニングを行った。結果，2021年3月までで，最新のコクランレビューに含まれる文献に追加するものはなく，本CQの推奨作成にあたりコクランシステマティック・レビューを用いた。

解　説

　このコクランレビューには，プラチナ製剤を含む治療と含まない治療を比較した10個の臨床試験より，1,349人の転移・再発トリプルネガティブ乳癌症例が含まれていた。メタアナリシスの結果，プラチナ製剤を含むレジメンにおいて，OSが良好な傾向であった〔ハザード比（HR）0.85，95％CI　0.73-1.00〕（図1a）。また，PFS／無増悪期間（TTP）やORRに関してもプラチナ製剤を含むレジメンのほうが有効であった（PFS／TTP：HR　0.77，95％CI　0.68-0.88），〔ORR：リスク比（RR）1.40，95％CI　1.22-1.59〕（図1b，c）。ただし，PFS／TTPとORRに関しては，試験ごとで結果が異なっており，メタアナリシスの異質性が大きく，注意が必要である。

　有害事象に関しては，プラチナ製剤を含むレジメンでGrade 3と4の嘔気／嘔吐，貧血の発生率が有意に上昇していた（嘔気／嘔吐：RR　4.77，95％CI　1.93-11.81）（貧血：RR　3.80，95％CI　2.25-6.42）。また，HRQOLに関して報告した研究はなかった。

　以上，エビデンスの強さが弱く，有害事象発生率は上昇するが，プラチナ製剤を含むレジメンでOS延長の可能性があり，PFS／TTP／ORRの結果が良好であること，他サブタイプと比較して治療選択肢の少ないトリプルネガティブ乳癌に対する治療薬が多いことは，患者の希望に沿うと考えられることから，推奨決定会議での投票では，「行うことを強く推奨する」が2％，「行うことを弱く推奨する」が98％であり，推奨は，転移・再発トリプルネガティブ乳癌の治療選択肢として，「プラチナ製剤の投与を弱く推奨する」とした。

　ただし，わが国でシスプラチンは乳癌に対して保険適用となっておらず，2022年5月時点でカルボプラチンはHER2陽性乳癌とPD-L1陽性転移・再発トリプルネガティブ乳癌に対するペムブロリズマブとの併用レジメンにおいて保険診療として認められているのみである。

検索キーワード・参考にした二次資料

　“breast neoplasms”，“drug therapy”，“antineoplastic agents”，“neoplasm metastasis”，“metastasis”，“advanced”，“recurrent”，“neoplasm recurrence”，“local”，“carboplatin”，“platinum”，“triple negative”，“BRCA”のキーワードで検索した。検索期間は2021年3月までとし，2018年版（追補2019）で抽出された文献に1編追加された。追加された1編は本CQに利用したコクランレビューに含まれていた。

参考文献

1）Egger SJ, Chan MMK, Luo Q, Wilcken N. Platinum-containing regimens for triple-negative metastatic breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2020；10（10）：CD013750.　［PMID：33084020］