FRQ18 局所・領域再発切除術後に薬物療法は勧められるか?
背 景
原発乳癌術後の局所再発症例は遠隔転移のない場合でも予後不良であり,約50%にさらに再発がみられ,30~60%は再発から5年以内に遠隔転移により死亡する1)。NSABPが施行した腋窩リンパ節転移陽性患者に対する乳房温存療法の5つの臨床試験(B-15,B-16,B-18,B-22,B-25,計n=2,669)の統合解析結果では,温存乳房内再発率は9.7%,他の局所再発(同側胸壁および領域リンパ節)率は6.2%であり,5年distant DFSは温存乳房内再発後51.4%,他の局所再発後18.8%,5年全生存率(OS)は温存乳房内再発後59.9%,他の局所再発後24.1%であった2)。さらに,NSABPが施行した腋窩リンパ節転移陰性患者に対する乳房温存療法の5つの臨床試験(B-13,B-14,B-19,B-20,B-23,n=3,799)の統合解析では,温存乳房内再発率9.0%,他の局所再発率2.0%であり,5年OSは温存乳房内再発後76.6%,他の局所再発後34.9%であった3)。
解 説
原発乳癌術後の化学療法や内分泌療法については,多くの臨床試験の結果から予後の改善が認められている。しかし,局所・領域再発切除術後の薬物療法についての報告は限られている。
1)内分泌療法
局所・領域再発切除術後のタモキシフェンの有効性に関する第Ⅲ相比較試験(SAKK 23/82試験)では,原発乳癌に対して乳房全切除術後の局所再発のうち,予後良好とされる患者(再発巣のER陽性ないしER不明例ではDFI(disease-free interval)>12カ月で,再発巣は最大3 cm以下の病変が3個以下)で,術後タモキシフェン未投与の167症例が登録された4)。局所再発切除術後に放射線療法を実施し,その後にタモキシフェン投与群と経過観察群にランダム化割り付けされた。観察期間の中央値11.6年の時点で局所再発切除術後の無病生存期間(DFS)の中央値はタモキシフェン投与群で6.5年,経過観察群で2.7年とタモキシフェン投与群で改善傾向がみられたが,OS中央値はタモキシフェン投与群で11.5年,経過観察群で11.2年であった。
局所・領域再発切除術後のタモキシフェンの至適投与期間は不明であり,タモキシフェン以外の薬剤を用いた内分泌療法の比較試験は報告されていない。現在,局所・領域再発で局所治療後のホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌を対象に,標準的な内分泌療法へのパルボシクリブの上乗せ効果を検討した第Ⅲ相試験(POLAR試験)が進行中である(NCT 03820830)。
2)化学療法
局所・領域再発切除術後の化学療法の有効性に関する第Ⅲ相比較試験(CALOR試験)では,症例の集積が遅かったため,当初予定の977症例から265例へのサンプルサイズ変更および試験早期終了となり,最終的に162例で患者登録が終了された5)。対象は乳房全切除術または乳房部分切除術後の局所再発(温存乳房,胸壁および領域リンパ節)切除例であり,術後化学療法(主治医選択)施行群と非施行群の2群で予後について比較検討された。化学療法は2剤以上の細胞障害性化学療法薬を用いて3~6カ月施行することが推奨されていた。再発巣ER陽性例では再発切除術後に内分泌療法が行われた。HER2検査は試験開始時には必須でなかったが,試験途中に計画書が改訂され,最終的に化学療法施行群の7%,非施行群の5%に抗HER2薬が投与された。病理学的断端陽性例では放射線照射が施行された。化学療法施行群と非施行群において,化学療法歴を有する患者は58%と68%,2年以内の再発症例は15%と16%であった。観察期間中央値4.9年時点で,局所再発切除術後の5年DFSは化学療法施行群69%,非施行群57%〔ハザード比(HR)0.59,95%CI 0.35-0.99〕,5年OSは化学療法施行群88%,非施行群76%(HR 0.41,95%CI 0.19-0.89)であった。また,ER陰性群における5年DFSは化学療法施行群67%,非施行群35%(HR 0.32,95%CI 0.14-0.73),ER陽性群における5年DFSは化学療法施行群70%,非施行群69%(HR 0.94,95%CI 0.47-1.89)であった5)。観察期間の中央値9年における最終解析においても,ER陰性群における10年DFSは化学療法施行群70% vs非施行群34%(HR 0.29,95%CI 0.13-0.67),ER陽性群における10年DFSは化学療法施行群50% vs非施行群59%(HR 1.07,95%CI 0.57-2.00)と,ER陰性群でDFSの改善がみられていた6)。ER陽性群における10年OSは化学療法施行群76%,非施行群66%(HR 0.70,95%CI 0.32-1.55),ER陰性群における10年OSは化学療法施行群73%,非施行群53%(HR 0.48,95%CI 0.19-1.20)であり,OSが改善する傾向が認められた6)。
以上のように,局所・領域再発切除術後の内分泌療法や化学療法は生存期間の延長をもたらす可能性があるが,CALOR試験は症例集積遅延による症例設定変更および早期試験終了があり,他の試験による検証が望まれる。現時点では,原発乳癌術後の薬物療法のエビデンスを参考に,初回手術後に用いた薬剤の種類,再発までの期間および患者の希望・合併症を踏まえて,局所・領域再発切除術後の内分泌療法や化学療法を考慮する。
検索キーワード・参考にした二次資料
PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“Chemotherapy, Adjuvant”のキーワードで検索した。検索期間は2021年6月までとし,42件がヒットした。ハンドサーチで1件を追加し,この中から主要な論文6編を選択した。
参考文献
1)Wapnir IL, Aebi S, Geyer CE, Zahrieh D, Gelber RD, Anderson SJ, et al;IBCSG;BIG;NSABP. A randomized clinical trial of adjuvant chemotherapy for radically resected locoregional relapse of breast cancer:IBCSG 27-02, BIG 1-02, and NSABP B-37. Clin Breast Cancer. 2008;8(3):287-92. [PMID:18650162]
2)Wapnir IL, Anderson SJ, Mamounas EP, Geyer CE Jr, Jeong JH, Tan-Chiu E, et al. Prognosis after ipsilateral breast tumor recurrence and locoregional recurrences in five National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project node-positive adjuvant breast cancer trials. J Clin Oncol. 2006;24(13):2028-37. [PMID:16648502]
3)Anderson SJ, Wapnir I, Dignam JJ, Fisher B, Mamounas EP, Jeong JH, et al. Prognosis after ipsilateral breast tumor recurrence and locoregional recurrences in patients treated by breast-conserving therapy in five National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project protocols of node-negative breast cancer. J Clin Oncol. 2009;27(15):2466-73. [PMID:19349544]
4)Waeber M, Castiglione-Gertsch M, Dietrich D, Thürlimann B, Goldhirsch A, Brunner KW, et al;Swiss Group for Clinical Cancer Research(SAKK). Adjuvant therapy after excision and radiation of isolated postmastectomy locoregional breast cancer recurrence:definitive results of a phase Ⅲ randomized trial(SAKK 23/82)comparing tamoxifen with observation. Ann Oncol. 2003;14(8):1215-21. [PMID:12881382]
5)Aebi S, Gelber S, Anderson SJ, Láng I, Robidoux A, Martín M, et al;CALOR investigators. Chemotherapy for isolated locoregional recurrence of breast cancer(CALOR):a randomised trial. Lancet Oncol. 2014;15(2):156-63. [PMID:24439313]
6)Wapnir IL, Price KN, Anderson SJ, Robidoux A, Martín M, Nortier JWR, et al;International Breast Cancer Study Group;NRG Oncology, GEICAM Spanish Breast Cancer Group, BOOG Dutch Breast Cancer Trialists’ Group;Breast International Group. Efficacy of chemotherapy for ER-negative and ER-positive isolated locoregional recurrence of breast cancer:Final Analysis of the CALOR Trial. J Clin Oncol. 2018;36(11):1073-9. [PMID:29443653]