日本乳癌学会では『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』を作成してきました。このたび、2016年版を改訂し、2019年版を刊行いたしました。
 乳がんの診療は、文字通り日進月歩を遂げております。経験豊かな臨床医にとっても、乳がんの診断、手術、薬物療法、そして放射線療法を理解して最適な診療を行うことが求められています。このガイドラインは、患者さんに乳がん診療への理解を深めていただくために作成されました。
 今回の改訂のポイントは、医師向けの『乳癌診療ガイドライン2018年版』と日本における診療の現状を反映したことです。例えば、「原因と予防について」の章では、乳がん発症リスクに関する項目を分かりやすくまとめています。また、遺伝性乳がん卵巣がん症候群に関連するBRCA遺伝学的検査の重要性について、国内の現状も踏まえて記載されています。
「治療を受けるにあたって」の章では、仕事との両立、経済的負担と支援制度、腋窩リンパ節郭清の必要性、乳房温存手術後の放射線療法など、心身のみならず、社会的にも経済的にも負担の大きい治療を少しでも軽減するためのヒントが解説されています。さらに、「薬物療法について」の章では、従来の抗がん薬やホルモン療法薬に加えて、ある特定の分子の機能を制御する分子標的治療薬について解説されています。分子標的治療薬の多くは高額医療となりますが、患者さんの病状や薬の効果に加えて、生活にも配慮した治療の選択が求められています。
 本書が患者さんにとって、担当医とともに最適な医療を選択していくうえで参考となることを願っております。最後に本書の改訂にあたり、佐治重衡委員長をはじめとする作成小委員会の方々と、向井博文委員長をはじめとする評価小委員会の方々 に深甚なる感謝を申し上げます。

2019年6月
日本乳癌学会理事長
井本 滋