『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』は,2006年の初版発行をスタートに,2009年,2012年,2014年,2016年と改訂を重ねてきました。今回,約3年の改訂期間をいただき,2019年版をみなさまにお届けできることとなりました。改訂に3年を要したのは,医師向けの『乳癌診療ガイドライン』の作成方法が大きく変化し,その改訂作業に時間を要したたため,その内容を反映し発刊される『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』の作成にも時間をいただいたためです。
本ガイドライン2019年版は,
1.最新かつ正確な情報を盛り込み,わかりやすい表現にすること
2.患者さんが知りたい情報に早く確実に到達できること
といった,これまでの基本方針を守りつつ,
3.診断されてから治療を受けていくにあたり必要な社会的情報を充実させること
を新たに方針に加えて執筆,編集されています。このため,仕事をどうするか,経済的な支援にはどのようなものがあるかなどを,「乳がんと診断されたら」という章に入れるなど,構成を変更しました。また,患者さんの視点からみた治療の流れがわかりやすいよう「一般的な乳がん治療の流れの例」を追加しました。これらの変更や追加は,今回の患者向けガイドライン小委員会の中で,患者さん代表委員でもある桜井なおみさん,中川圭さんの意見を中心に,看護師の阿部恭子さん,薬剤師の宮本康敬先生の考えを加え,副委員長の徳永えり子先生がまとめてくださったものです。
執筆は,医師向けの『乳癌診療ガイドライン2018年版』を作成した各分野の専門家から,髙橋將人先生(薬物),九冨五郎先生(外科),吉村通央先生(放射線),大谷彰一郎先生(疫学),中島一毅先生(検診),本間尚子先生(病理)らが新しい知見を入れて協力してくださいました。特に,遺伝診療やゲノム医療といわれるものが日本でも本格的に導入されはじめたことから,この面での内容が増えています。
「質問集」は,実際に患者さんから寄せられた質問をもとに作成されたものです。診察室で,何を主治医に聞けばより理解が深まるかという点で,この中の質問を主治医に確認してみるのも良い手かもしれません。
スマートフォンやSNSが一般的になり,誰でも広くさまざまなところから情報を入手できるようになりました。しかし残念ながら,これらから得られる医療関係の情報には間違ったものも多く含まれています。ご自身が得た情報が,正しいものかどうかを確認する目的で本ガイドラインを使用していただくこともできますし,医師・医療スタッフから得た情報の不足分を本ガイドラインで補うこともできればと思います。できるだけ多くの乳がん患者さんに本ガイドラインをお読みいただき,そして活用していただくことで,より納得のいく乳がん診療を受けられる方が一人でも増えることを期待しております。
最後に,本ガイドライン作成に多大なご助力をいただきました金原出版の佐々木瞳氏と,医師向け・患者さん向け乳がん診療ガイドライン作成の総責任者である岩田広治先生に,心より感謝申し上げます。
2019年6月
診療ガイドライン委員会 患者向けガイドライン小委員会 委員長
佐治 重衡