診療ガイドライン委員会 委員長 岩田広治

本書を初めて手に取られたあなた,“今日乳がんと告知を受けた方”,“すでに乳がんと診断され,治療の選択に悩んでいる方”,“奥様が乳がんと診断され,動揺しているご主人”,“乳がんの手術を終え,術後治療を決めかねている方”,“初期治療が終了し,通院中の方”,“再発後に継続して治療中の方”,本書はさまざまな方のお役に立てる本です。もちろん患者さん・ご家族だけではなく,さまざまな職種の医療関係者の方もぜひ一度ご覧ください。乳がん治療を受ける方が聞きたい情報が,わかりやすく解説されているはずです。

世の中はインターネット全盛の時代で,スマートフォンで“乳がん”と検索をすると情報があふれ出てきます。SNSへの投稿では同じ経験をされた方の意見を瞬時に聞くことができるでしょう。しかし,気をつけてほしいのは,情報がすべて正しいとは限らないということです。特に皆さんの耳に心地良い情報こそ,いったん疑ってかかる姿勢が大切です。医療は日進月歩で,10年前の常識が今は非常識というようなことも珍しくありません。我々は,あなたが正しい情報(知識)を基に自分の生活基盤の中で最善の選択をしてほしいと願っています。

本書は,日本乳癌学会が発刊している『乳癌診療ガイドライン』の中に記載されている内容から,患者さんにぜひ知ってほしい内容をわかりやすく解説するとともに,患者さんに日常生活で気をつけてほしい内容などを網羅しています。『乳癌診療ガイドライン』は2018年5月に3年ぶりの改訂版を発刊しました。今回改訂された同ガイドラインは,患者さんに行う医療行為(検査,手術,薬物療法,放射線療法など)には良い面(益)と悪い面(害)があることを前提に,患者さんと医療者が益と害のバランスを検討しながら医療行為を決めていくための重要な役割を担っています。ガイドラインの作成手順も大幅に変更し,各種医療行為の推奨の強さを決める投票会議には医師だけでなく,看護師,薬剤師のほかに,患者さんにも参加していただきました。『乳癌診療ガイドライン』は医師向けに作成されていますので,難解な言葉もありますが,興味のある方はぜひ,こちらも読み進めていただくと,よりご自身の治療についての理解が深まるかもしれません。

本書(患者さんのための乳がん診療ガイドライン)の執筆に際し我々は,乳がんの治療を実施する主体的な場所は病院ですが,生活の基盤は家や社会という点を共通認識としました。『乳癌診療ガイドライン』で取り上げていない,患者さんが社会生活の中で困る点や,患者さんに気をつけてほしい点,参考になる情報などを本書では多く取り上げています。今の自分にとって最も気になる箇所から読み進めていただければ,きっと大切な情報が手に入ると思います。