2021年3月31日更新

CQ8.乳癌初期治療後の食事による脂肪摂取は乳癌患者の予後に影響を及ぼすか?

7.乳癌患者の生活習慣・環境因子と予後の関連

ステートメント
・乳癌初期治療後の総脂肪摂取の増加が乳癌再発リスクを増加させるかどうかは結論付けられない。
〔エビデンスグレード:Limited―no conclusion(証拠不十分)〕

背景・目的

総脂肪摂取の増加が乳癌のリスクを増加させるかどうかは結論付けられない。一方で,疫学・予防CQ7bでは乳癌初期治療後の肥満は乳癌再発リスクを増加させることはほぼ確実とされており,肥満を招く脂肪を多く食事摂取することが乳癌再発リスクを増加させるかもしれないという仮説が成り立つ。この仮説を検証することは初期治療後患者の日常生活を指導するうえで重要と考えられる。本項では乳癌初期治療後の総脂肪摂取と乳癌再発リスクの間に関連性があるか否かを検討した。

解 説

害のアウトカムとして乳癌再発リスク(重要度9点),乳癌死亡リスク(重要度8点),全死亡リスク(重要度5点)とした。

2017年12月の検索時点で総脂肪摂取と乳癌患者の乳癌再発リスク,乳癌死亡リスクに関する論文は極めて少なく,乳癌初期治療後の総脂肪摂取を経時的に調査して乳癌再発,死亡リスクとの関係を調査した論文は7件のみであった1)~7)。すべて2005年以降の論文で,5件1)3)~5)7)は数千人規模の大規模コホート研究であり,うち4件1)3)~5)では乳癌初期治療後の高脂肪食,総脂肪摂取と乳癌再発,死亡リスクの関連性を認めなかったが,1件7)は高脂肪食で乳癌死亡リスクの増加を認めた。残り2件は大規模なランダム化比較試験で,1件は乳癌初期治療後に脂肪からのカロリー摂取を15~20%にすることなどを目標とした個別指導による介入をした群(n=1,537)とパンフレット指導にとどめた群(n=1,551)を比較する試験(WHEL)2)であったが,10年無再発生存率,10年全生存率に差は認められなかった。もう一方の試験は脂肪からのカロリー摂取を15%以内にすることを目標とした個別指導による介入をした群(n=975)と一般的な食事指導にとどめた群(n=1,462)を比較する試験(WINS)6)で,5年無再発生存率に有意な差を認めた〔HR 0.76(95%CI 0.60-0.98,P=0.034)〕。しかし,この試験では介入群の体重が対照群に比較して減少しており,これが結果に影響を与えたのではないかと考察されている。したがって,脂肪摂取制限が直接結果に影響したかどうかについての解釈は難しい。

今回のわれわれのメタアナリシスの検討でも上述した2件のランダム化比較試験2)6)においても乳癌再発リスクでHR 0.90(95%CI 0.6-1.04)と有意差を認めなかった(図1)。また5件のコホート試験1)3)~5)7)においても乳癌再発リスク(図2),乳癌死亡リスク(図3)ともにそれぞれHR 0.99(95%CI 0.89-1.11),HR 1.04(95%CI 0.84-1.29)と有意差を認めなかった。

以上より,検索した論文は最近の信頼性の高いものばかりであったが,その多くが初期治療後の総脂肪摂取の増加と乳癌再発死亡リスクに関連はないとしている点,関連ありとしたコホート研究は1件である点,ランダム化比較試験の1件は結果の解釈が困難である点を鑑みて,両者の関連は結論付けられないと判断した(Limited―no conclusion)。疫学・予防CQ7の結論と合わせて考えるのであれば,日常診療においては患者に脂肪制限食を指導するのではなく,運動や総カロリー制限による肥満防止を指導することが望ましい。

検索キーワード

PubMedで“Dietary Fats”,“Neoplasm Recurrence,Local”,“Prognosis”,“Survival Analysis”,“Mortality”のキーワードと同義語で検索した。医中誌も同等のキーワードで検索した。検索期間は2015年1月~2017年7月とし,74件がヒットした。本CQに対して文献検索を行った結果,PubMed 7編,医中誌 43編が抽出され,一次スクリーニングで9編の論文が抽出され,二次スクリーニングにて内容が適切でないと判断した論文を除外し,最終的に7編の論文を対象に定性的および定量的システマティック・レビューを実施した。

参考文献

1)Kroenke CH, Fung TT, Hu FB, Holmes MD. Dietary patterns and survival after breast cancer diagnosis. J Clin Oncol. 2005;23(36):9295―303. [PMID:16361628]

2)Pierce JP, Natarajan L, Caan BJ, Parker BA, Greenberg ER, Flatt SW, et al. Influence of a diet very high in vegetables, fruit, and fiber and low in fat on prognosis following treatment for breast cancer:the Women’s Healthy Eating and Living(WHEL)randomized trial. JAMA. 2007;298(3):289―98. [PMID:17635889]

3)Holmes MD, Chen WY, Hankinson SE, Willett WC. Physical activity’s impact on the association of fat and fiber intake with survival after breast cancer. Am J Epidemiol. 2009;170(10):1250―6. [PMID:19850626]

4)Kim EH, Willett WC, Fung T, Rosner B, Holmes MD. Diet quality indices and postmenopausal breast cancer survival. Nutr Cancer. 2011;63(3):381―8. [PMID:21462090]

5)Beasley JM, Newcomb PA, Trentham―Dietz A, Hampton JM, Bersch AJ, Passarelli MN, et al. Post―diagnosis dietary factors and survival after invasive breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 2011;128(1):229―36. [PMID:21197569]

6)Chlebowski RT, Blackburn GL, Thomson CA, Nixon DW, Shapiro A, Hoy MK, et al. Dietary fat reduction and breast cancer outcome:interim efficacy results from the Women’s Intervention Nutrition Study. J Natl Cancer Inst. 2006;98(24):1767―76. [PMID:17179478]

7)Kroenke CH, Kwan ML, Sweeney C, Castillo A, Caan BJ. High― and low―fat dairy intake, recurrence, and mortality after breast cancer diagnosis. J Natl Cancer Inst. 2013;105(9):616―23. [PMID:23492346]

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