FRQ15   転移・再発乳癌に対して,化学療法奏効後に内分泌療法による維持療法は勧められるか?

ステートメント

●化学療法奏効後の内分泌療法による維持療法で,化学療法継続よりもQOLの改善が期待されるが,治療効果を維持できるかどうかは不明である。

背 景

 先行する化学療法に奏効した,または,病勢安定となった後,病勢増悪を確認する前に開始する治療を「維持療法」という。蓄積毒性が問題となる化学療法を継続するよりも,毒性の軽い維持療法に移行するほうが,QOLが改善する可能性がある。化学療法奏効後の維持療法として,内分泌療法を用いることの有効性について検討した。

解 説

 転移・再発乳癌に対する薬物療法は,毒性が問題とならない限り,病勢増悪をきたすまで継続するのが一般的であるが,アンスラサイクリン系薬剤の心毒性や,タキサン系薬剤の末梢神経障害など,蓄積毒性が問題となる薬剤では早めの中止が妥当な場合もある。病勢増悪をきたす前に化学療法を中止した場合,積極的治療は行わずに経過観察し,病勢増悪をきたした時点で次のラインの薬物療法を検討することが多いが,薬物療法を中止した直後に,病勢増悪を確認することなく,「維持療法」を開始するという考え方もある。直前の薬物療法が2剤以上の併用療法だった場合に,毒性が問題となる薬剤を中止したうえで,残りの薬剤のみを継続する形の維持療法を「Continuous Maintenance」,直前の薬物療法とは異なる,より毒性の少ない薬剤を用いる維持療法を「Switch Maintenance」と呼ぶ。

 Continuous Maintenance型の維持療法としては,パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法後の維持療法として,ベバシズマブのみを継続するもの,トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル併用療法後の維持療法として,トラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法を継続するもの,免疫チェックポイント阻害薬+化学療法併用療法後の維持療法として,免疫チェックポイント阻害薬のみを継続するものがあるが,化学療法薬をどの程度継続するのがよいのか,維持療法として分子標的治療薬のみを継続することに意味があるのかなどの臨床的疑問には答えが出されていない。

 ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する化学療法後の内分泌療法による維持療法は,Switch Maintenance型の維持療法として考えられる。European School of Oncology(ESO)とEuropean Society for Medical Oncology(ESMO)によって作成された「第5回進行乳癌に対する国際コンセンサスガイドライン(ABC 5)」1では,「化学療法後の内分泌療法による維持療法は,ランダム化試験での評価はなされていないが,妥当な選択肢である」と記載されている。さらに内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用による維持療法については支持するデータがなく,内分泌療法単独で行うべきとしている。一次化学療法で奏効または病勢安定がみられたホルモン受容体陽性の転移乳癌560例を対象とした後ろ向き解析では,内分泌療法による維持療法が施行されなかった252例と比べて,内分泌療法による維持療法が施行された308例で無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)が優れていたという報告がある2

 ホルモン受容体陽性かつHER2陽性の転移・再発乳癌に対して,一次治療として抗HER2薬と化学療法の併用療法が行われた後の維持療法として,抗HER2薬と内分泌療法の併用療法が行われることがあり,ABC5では,この維持療法についても,「ランダム化比較試験での評価はなされていないが,妥当な選択肢である」と記載されている。

 また,タキサン+ベバシズマブ併用療法後のベバシズマブ維持療法に内分泌療法を併用する方法も検討されている。前向きコホート試験ではベバシズマブ単剤による維持療法と比較してベバシズマブと内分泌療法の併用による維持療法のほうがPFSを延長することが示された3。GINECO試験は,タキサン+ベバシズマブを継続する群と内分泌療法(エキセメスタン)+ベバシズマブによる維持療法を行う群にランダム化し,PFSを比較した4。本試験は中間解析にて内分泌療法+ベバシズマブ群の優越性を示すことができないことが判明したために早期中止となったが,PFSについてタキサン+ベバシズマブと内分泌療法+ベバシズマブの間に有意な差は認めなかった。国内では,パクリタキセル+ベバシズマブを継続する群と,内分泌療法+ベバシズマブ維持療法に移行後,増悪をきたした際にパクリタキセル+ベバシズマブを再導入する群とのランダム化比較試験が行われた。ランダム化からパクリタキセル+ベバシズマブ増悪までの期間(再導入含む)について,内分泌療法+ベバシズマブ維持療法に移行した群が有意に延長すること,およびOSは両群で有意差を認めないことが報告された5

検索キーワード・参考にした二次資料

“Breast Neoplasms”,“Neoplasm Metastasis”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“Antineoplastic Agents,Hormonal”,“Aromatase Inhibitors”,“Tamoxifen”,“Fulvestrant”,“Bevacizumab”,“Maintenance”のキーワードで検索し,システマティック・レビューを行った。

参考文献

1)Cardoso F, Paluch-Shimon S, Senkus E, Curigliano G, Aapro MS, André F, et al. 5th ESO-ESMO international consensus guidelines for advanced breast cancer(ABC 5). Ann Oncol. 2020;31(12):1623-49. [PMID:32979513]

2)Dufresne A, Pivot X, Tournigand C, Facchini T, Alweeg T, Chaigneau L, et al. Maintenance hormonal treatment improves progression free survival after a first line chemotherapy in patients with metastatic breast cancer. Int J Med Sci. 2008;5(2):100-5. [PMID:18461187]

3)Fabi A, Russillo M, Ferretti G, Metro G, Nisticò C, Papaldo P, et al. Maintenance bevacizumab beyond first-line paclitaxel plus bevacizumab in patients with Her2-negative hormone receptor-positive metastatic breast cancer:efficacy in combination with hormonal therapy. BMC Cancer. 2012;12:482. [PMID:23083011]

4)Trédan O, Follana P, Moullet I, Cropet C, Trager-Maury S, Dauba J, et al. A phase Ⅲ trial of exemestane plus bevacizumab maintenance therapy in patients with metastatic breast cancer after first-line taxane and bevacizumab:a GINECO group study. Ann Oncol. 2016;27(6):1020-9. [PMID:26916095]

5) Saji S, Taira N, Kitada M, Takano T, Takada M, Ohtake T, Toyama T, Kikawa Y, Hasegawa Y, Fujisawa T, Kashiwaba M, Ishida T, Nakamura R, Yamamoto Y, Toh U, Iwata H, Masuda N, Morita S, Ohno S, Toi M. Switch maintenance endocrine therapy plus bevacizumab after bevacizumab plus paclitaxel in advanced or metastatic oestrogen receptor-positive, HER2-negative breast cancer (BOOSTER): a randomised, open-label, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2022 May;23(5):636-649. [PMID: 35405087]