FRQ14   転移・再発乳癌に対して治癒を目指した治療を行うことは勧められるか?

ステートメント

●転移・再発乳癌に対する薬物療法が完全奏効し,あるいは,局所治療(手術や放射線治療など)の追加で腫瘍の残存が画像上検出できない状態となり,その後,再燃のないまま長期生存する症例が報告されている。
●現時点では,「治癒」という言葉の定義やエンドポイントは確立したものではなく,治癒を目標とする治療方針の妥当性は評価できない。今後,さらなる研究の蓄積が期待される。

背 景

 転移・再発乳癌では根治(治癒)は期待できず,「全生存期間(OS)」の延長と,「生活の質(QOL)」の向上を目的に薬物療法が行われてきた1)。しかし,近年の薬物療法の進歩に伴い,薬物療法によって完全奏効が得られ,あるいは,局所治療の追加で腫瘍の残存が画像上検出できない状態となり,その後,再燃のないまま長期経過する症例も経験する2)。これらの症例は,「治癒」が得られたと考えられるが,転移・再発乳癌でも「治癒」を目指した治療を行うことが妥当かどうかについて検討した。

解 説

 「治癒」が得られたとする報告の多くは,後ろ向きの症例報告やケースシリーズであり,どのような症例に対してどのような治療(薬物・局所療法)を行うことで「治癒」に近づくかは明らかではない。現時点で,転移・再発乳癌に対して前向きの臨床試験で「治癒」を評価した研究はなく,さらに,「治癒」というエンドポイントの定義として,「完全奏効が得られ,あるいは,局所治療追加で残存病変のない状態となり,他の原因で死亡するまでの間再燃しないこと」は一つと考えられるが,「完全奏効」や「残存病変の有無」を画像評価のみで決められるのか(病理学的な証明が必要か,また微小遺残病変の評価をどう行うか),「再燃」をどのように評価するのかというような点でも議論は定まったものではない。

 転移・再発乳癌を対象とした臨床試験で用いられる真のエンドポイントは,OSとQOLであり,主要評価項目として多く用いられるのは,OS,または,その代替エンドポイントとしての無増悪生存期間(PFS)であるが,「治癒率」(完全奏効をきたし,あるいは,局所治療追加で残存病変のない状態となり,観察期間内に再燃せずに生存している症例の割合)というエンドポイントが,これらと比較して有用であるとは言い難い。もし「治癒率」が高くなっても,最終的に再燃しOSの延長に結び付かないのであれば,定義上「治癒」が得られたとしても,その後の長期生存や無再発が保証されるわけではないことからも,「治癒率」をOSに代わるエンドポイントと位置付けるのは困難である。治癒率とPFS率は,「完全奏効をきたし,あるいは,局所治療追加で残存病変のない状態となっている」か否かに違いがあるだけで,「その後再燃せずに生存しているか」をみる点においては同様のエンドポイントである。治癒とPFSのどちらがより適したOSの代替エンドポイントとなり得るか,治癒とPFSの予後に対する本質的な違いがあるのか,という検討も必要であろう。近年,「完全奏効」や「残存病変の有無」,「再燃」を評価するためにリキッドバイオプシーがさまざまな臨床試験で測定されており,今後の研究成果に期待したい。また,oligometastases(オリゴ転移)という概念も提唱されるが3),それについても定義は定まっておらず,腫瘍量が少ないことは治癒を得るための因子なのかについても検証されることが期待される(☞放射線FRQ6参照)。

 現時点では,治療の有効性を判断する指標としては,治癒率よりもOSが重視される。すなわち,治癒を目指してより強力な薬物療法を行う方法や,局所治療を加える方法については,ランダム化比較試験でOSの改善が示されていなければ,積極的に推奨する根拠とはならない。ただし,本FRQは,治癒を目指した治療戦略の妥当性をエビデンスに基づいて評価するものであり,個別の症例において,「治癒を目指す」ことを一概に否定するものではない。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで“breast neoplasms/drug therapy”,“advanced”,“metastatic”,“recurren*”“Neoplasm”,“Metastasis”,“neoplasm recurrence, local”,“disease free survival”,“tapering”,“reduction*”,“cure”のキーワードとその同義語で検索した。

参考文献

1)Cardoso F, Paluch-Shimon S, Senkus E, Curigliano G, Aapro MS, André F, et al. 5th ESO-ESMO international consensus guidelines for advanced breast cancer(ABC 5). Ann Oncol. 2020;31(12):1623-49. [PMID:32979513]

2)Niikura N, Shimomura A, Fukatsu Y, Sawaki M, Ogiya R, Yasojima H, et al. Durable complete response in HER2-positive breast cancer:a multicenter retrospective analysis. Breast Cancer Res Treat. 2018;167(1):81-7. [PMID:28895005]

3)Hellman S, Weichselbaum RR. Oligometastases. J Clin Oncol. 1995;13(1):8-10. [PMID:7799047]