CQ3   閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後内分泌療法として何が推奨されるか?

推奨

●アロマターゼ阻害薬の投与を強く推奨する。

推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:強,合意率:100%(48/48)

●タモキシフェンの投与を弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:96%(44/46)


推奨におけるポイント
■アロマターゼ阻害薬が推奨されるが,アロマターゼ阻害薬が使用できない場合や有害事象が問題になる場合はタモキシフェンを推奨する。

背 景・目 的

 閉経後ホルモン受容体陽性乳癌の術後標準治療は,以前はタモキシフェンであったが,第三世代アロマターゼ阻害薬との複数の比較試験の結果から,アロマターゼ阻害薬の優位性が示された。

解 説

1)アロマターゼ阻害薬
 閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後内分泌療法として,アロマターゼ阻害薬の有用性について,2015年にEBCTCGによるメタアナリシス(n=31,920)が報告されている。アロマターゼ阻害薬はタモキシフェンに比較し,乳癌再発を20%減少させ〔リスク比(RR)0.80,95%CI 0.73-0.88,p<0.00001〕,乳癌死亡を15%減少させた(RR 0.85,95%CI 0.75-0.96,p=0.009)1)アロマターゼ阻害薬では骨折の頻度が増加し(RR 1.35,95%CI 1.21-1.49),タモキシフェンでは血栓塞栓症死亡(RR 0.38,95%CI 0.15-0.97),子宮内膜癌の頻度(RR 0.33,95%CI 0.21-0.51)が増加する。脳血管障害死亡(RR 0.94,95%CI 0.57-1.54)には差は認められない。益と害のバランスについては,再発抑制効果である益が害に勝ると考えられた。患者の希望に関しては,有害事象に違いがあることからばらつきがあると考えられた。

 推奨決定会議の投票の結果は,「行うことを強く推奨する」48/48(100%)であり,推奨は「アロマターゼ阻害薬の投与を強く推奨する」とした。

 アロマターゼ阻害薬の使用のタイミングに関しては,タモキシフェンからの切り替え,アロマターゼ阻害薬からタモキシフェンへの切り替えについても検討した。

 複数の第Ⅲ相試験(N-SAS BC03試験2),BIG 1-98試験3),IES試験4),ABCSG 9/ARNO/ITA試験5))の統合解析を行った。タモキシフェンを2~3年投与後にアロマターゼ阻害薬に変更し計5年投与することにより,タモキシフェンを5年投与する場合と比べ無病生存期間(DFS)〔ハザード比(HR)0.72,95%CI 0.62-0.83,p<0.00001〕および全生存期間(OS)(HR 0.78,95%CI 0.65-0.93,p=0.005)の延長を認める3)~6)。有害事象については,アロマターゼ阻害薬への切り替えで骨折の増加を認め,タモキシフェン群は子宮内膜癌の頻度(RR 0.35,95%CI 0.22-0.55)が多かった。脳血管障害,血栓塞栓症について,差は認めなかった。閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対しては,アロマターゼ阻害薬の使用を強く推奨するため,タモキシフェンから開始する対象は,何らかの理由により,最初にアロマターゼ阻害薬の投与ができなかった患者が想定される。

 BIG 1-98試験のサブグループ解析ではあるが,アロマターゼ阻害薬を2年内服後にタモキシフェンに切り替えて合計5年投与する群と,アロマターゼ阻害薬を5年投与する群の比較において,DFS(HR 0.96,95%CI 0.76-1.21),OS(HR 0.90,95%CI 0.65-1.24)とも差を認めなかった3)

2)タモキシフェン
 閉経後ホルモン受容体陽性乳癌の術後におけるタモキシフェン投与について,EBCTCGによるメタアナリシスが2011年に報告されている6)。タモキシフェンを投与しない場合と比べ,DFS(HR 0.64,95%CI 0.60-0.68,p<0.00001),OS(HR 0.89,95%CI 0.86-0.93,p<0.00001)はタモキシフェン投与により有意に改善した。エストロゲン受容体陽性乳癌10,645例に限った検討でも,タモキシフェン5年投与による再発率比は最初の5年間(0~4年)は0.53,その後の5年間(5~9年)は0.68と減少したが,10年以降(10~14年)では0.97であった。乳癌による死亡リスクも低下し(死亡率比0.71),リスクの低下は10年以降も持続して認められた。タモキシフェンの有効性は,年齢,閉経状況,リンパ節転移や化学療法併用の有無にかかわらず認められた。タモキシフェンによる特徴的な有害事象として,子宮内膜癌の罹患リスクの上昇がある(☞薬物BQ2参照)。EBCTCGのメタアナリシスでは,子宮内膜癌の罹患リスクは2.4倍に増加しており,55歳以上の女性では,15年間の罹患率が1.1%から3.8%に増加していたが,子宮内膜癌による死亡リスクに有意な上昇は認めなかった。そのほかの有害事象(脳卒中 RR 1.37,深部静脈血栓 RR 2.30,心血管イベント RR 0.89)については,コントロールと比較して有意なリスク上昇を認めなかった。

 20件の試験を対象としたメタアナリシスであり,またバイアスリスクも低く,エビデンスの強さは「強」とした。益と害のバランスについては,有害事象の発症という「害」に比べて,乳癌再発および乳癌死の減少という「益」が上回ると考えられた。また,患者の希望に関してもばらつきは少ないと考えられた。閉経後患者については,1)で示した通りアロマターゼ阻害薬がタモキシフェンと比べ,乳癌再発,乳癌死亡を減少させることが示されており,タモキシフェンは,何らかの理由によりアロマターゼ阻害薬の投与ができない患者に勧められる。

 推奨決定会議の投票の結果は,「行うことを強く推奨する」2/46(4%),「行うことを弱く推奨する」44/46(96%)であり,推奨は「タモキシフェンの投与を弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Postmenopause”,“Chemotherapy, Adjuvant”,“Antineoplastic Agents, Hormonal”,“Aromatase Inhibitors”,“Receptors, Estrogen”,“Tamoxifen”,“Letrozole”,“Anastrozole”,“Exemestane”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,1,551件がヒットした。PubMedから551編,Cochrane Libraryから442編,医中誌から10編が抽出され,それ以外にハンドサーチで4編の論文が追加された。一次スクリーニングで90編の論文が抽出され,二次スクリーニングで34編の論文が抽出された。

 ガイドライン改訂に際して,検索期間を2021年3月までとして検索を追加し,PubMedから23編,Cochrane Libraryから368編,医中誌から9編が追加で抽出され,それ以外にハンドサーチで6編の論文が追加された。一次スクリーニングで33編の論文が追加され,二次スクリーニングで21編の論文が抽出された。

 全生存期間,無再発生存期間,治療関連有害事象に関してシステマティック・レビューを行った。

参考文献

1)Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG). Aromatase inhibitors versus tamoxifen in early breast cancer:patient-level meta-analysis of the randomised trials. Lancet. 2015;386(10001):1341-52. [PMID:26211827]

2)Aihara T, Takatsuka Y, Ohsumi S, Aogi K, Hozumi Y, Imoto S, et al. Phase Ⅲ randomized adjuvant study of tamoxifen alone versus sequential tamoxifen and anastrozole in Japanese postmenopausal women with hormone-responsive breast cancer:N-SAS BC03 study. Breast Cancer Res Treat. 2010;121(2):379-87. [PMID:20390343]

3)BIG 1-98 Collaborative Group, Mouridsen H, Giobbie-Hurder A, Goldhirsch A, Thürlimann B, Paridaens R, et al. Letrozole therapy alone or in sequence with tamoxifen in women with breast cancer. N Engl J Med. 2009;361(8):766-76. [PMID:19692688]

4)Bliss JM, Kilburn LS, Coleman RE, Forbes JF, Coates AS, Jones SE, et al. Disease-related outcomes with long-term follow-up:an updated analysis of the intergroup exemestane study. J Clin Oncol. 2012;30(7):709-17. [PMID:22042946]

5)Jonat W, Gnant M, Boccardo F, Kaufmann M, Rubagotti A, Zuna I, et al. Effectiveness of switching from adjuvant tamoxifen to anastrozole in postmenopausal women with hormone-sensitive early-stage breast cancer:a meta-analysis. Lancet Oncol. 2006;7(12):991-6. [PMID:17138220]

6)Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG), Davies C, Godwin J, Gray R, Clarke M, Cutter D, et al. Relevance of breast cancer hormone receptors and other factors to the efficacy of adjuvant tamoxifen:patient-level meta-analysis of randomised trials. Lancet. 2011;378(9793):771-84. [PMID:21802721]