CQ16   周術期トリプルネガティブ乳癌に対して,免疫チェックポイント阻害薬は勧められるか?

推奨

●ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)の投与を弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:80%(32/40)


推奨におけるポイント
■対象患者の選定,併用薬剤,用法・用量は,解説文にある当該臨床試験(KEYNOTE-522試験)の適格基準や投与レジメンを参考に決定すること。

背 景・目 的

 手術可能なトリプルネガティブ乳癌に対して,潜在的な微小転移を制御するため周術期の化学療法が勧められている。トリプルネガティブ乳癌の周術期化学療法に免疫チェックポイント阻害薬の併用が推奨されるかを検証した。

解 説

 推奨の作成は,全生存期間(OS)の延長を最重要,続いて無イベント生存率(EFS)の延長と病理学的完全奏効(pCR)率の向上を同等の重要性,次にQOL,毒性を同等の重要性,最後にコストを重要なアウトカムと設定して評価した。

 術前治療の対象となるトリプルネガティブ乳癌の周術期乳癌に対して免疫チェックポイント阻害薬の有用性を検討した2つのランダム化比較第Ⅲ相試験がある1)~3)適格基準は腫瘍径がT2以上,または腫瘍径がT1cかつリンパ節転移陽性であり,いずれの試験も術前治療と術後に免疫チェックポイント阻害薬が投与されている。

 EFSについては,ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)の投与を行うKEYNOTE-522試験で,3年のEFSでペムブロリズマブ併用群が84.5%,プラセボ群が76.8%〔ハザード比(HR)0.63,95%CI 0.48-0.82,p<0.001〕と統計学的に有意な改善が示された2)。アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)の投与を行うIMpassion031試験ではHR 0.76(95%CI 0.4-1.44)と報告されているが1),報告時の評価はまだimmatureな状況である。いずれの試験においても,OSについての評価は,報告時ではまだimmatureな状況である1)2)。pCR率については,IMpassion031試験ではアテゾリズマブ併用群で58%,プラセボ群で41%〔p=0.0044(significance boundary;0.0184)〕1),KEYNOTE-522試験ではペムブロリズマブ併用群で64.8%,プラセボ群で51.2%(p<0.001)3)と,いずれもPD-L1の発現によらず免疫チェックポイント阻害薬の投与で向上した。毒性については,KEYNOTE-522試験ではGrade 3以上の有害事象がペムブロリズマブ併用群で76.8%,プラセボ群で72.2%であった3)。IMpassion031試験ではGrade 3以上の有害事象がアテゾリズマブ併用群で57%,プラセボ群で53%であり,免疫チェックポイント阻害薬を併用した群でGrade 3以上の有害事象が多く,免疫関連有害事象の増加が認められた1)免疫関連有害事象に関し,KEYNOTE-522試験ではペムブロリズマブ併用群で甲状腺機能低下症が15.1%(プラセボ群5.7%),副腎機能障害が2.6%(プラセボ群0%)と報告されており2),不可逆的な有害事象となる可能性もあるため,特に周術期の治療として益と害のバランスには留意が必要と考えた。治療コストのデータは不足していた。

 以上のエビデンスの強さについては,pivotal試験と考え得るランダム化比較第Ⅲ相試験であるが,いずれの薬剤においても1試験であり,エビデンスの強さは「中」とした。トリプルネガティブ乳癌の周術期化学療法として,ペムブロリズマブを併用することでEFSの改善,pCR率の向上が示されており,重篤な有害事象や免疫関連有害事象はペムブロリズマブの併用により増加するが,益が害を上回ると考えた。OSの結果は確実ではなく,不可逆的な免疫関連有害事象もあるため,患者希望については多様性があると考えられた。アテゾリズマブの併用についてはpCR率の向上が示されているが,予後に関するデータが不足していた。

 推奨決定会議では,EFSのデータが利用できるペムブロリズマブのみ投票を行い,「行うことを弱く推奨する」が80%,「行うことを強く推奨する」が20%で,推奨は「ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)の投与を弱く推奨する」に決定した。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast neoplasms”,“Neoadjuvant therapy”,“Adjuvant therapy”,“Triple-negative breast cancer”,“Immunotherapy”,“Immune checkpoint inhibitors”,“Atezolizumab”,“Pembrolizumab”のキーワードとその同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。2021年3月までの検索期間で250編がヒットした。そこからハンドサーチによる1編2)を加えた3編を採用し,これらをもとに,定性的・定量的システマティック・レビューを行った。

参考文献

1)Mittendorf EA, Zhang H, Barrios CH, Saji S, Jung KH, Hegg R, et al. Neoadjuvant atezolizumab in combination with sequential nab-paclitaxel and anthracycline-based chemotherapy versus placebo and chemotherapy in patients with early-stage triple-negative breast cancer(IMpassion031):a randomised, double-blind, phase 3 trial. Lancet. 2020;396(10257):1090-100. [PMID:32966830]

2)Schmid P, Cortes J, Dent R, Pusztai L, McArthur H, Kümmel S, et al;KEYNOTE-522 Investigators. Event-free survival with pembrolizumab in early triple-negative breast cancer. N Engl J Med. 2022;386(6):556-67. [PMID:35139274]

3)Schmid P, Cortes J, Pusztai L, McArthur H, Kümmel S, Bergh J, et al;KEYNOTE-522 Investigators. Pembrolizumab for early triple-negative breast cancer. N Engl J Med. 2020;382(9):810-21. [PMID:32101663]