日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳房疾患および腋窩リンパ節に対する穿刺吸引細胞診は良悪性の判定方法として勧められるか (病理診断・細胞診・ID61860)

CQ1 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(230-232ページ)
推奨グレード B 乳房疾患に対する穿刺吸引細胞診は,良悪性の判定方法として勧められる。
C1 乳癌術前の腋窩リンパ節に対する穿刺吸引細胞診は,転移の有無の判定方法として考慮してもよい。

推奨グレードを決めるにあたって

 穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology;FNA)は低侵襲性診断手技であり,わが国の診断精度は諸外国と比較しても高く,信頼性の高い検査である。しかしながらその成績は,検体を採取する術者の技量・手技,および判定する側の細胞診断医の経験・能力に左右される。検体不適正や偽陰性,偽陽性を呈し得る病変が存在することに留意が必要である。さらに,腋窩リンパ節転移の検索に関しては,検査としての信頼性に加え,臨床的な位置付けを検討する必要がある。

背景・目的

 経皮的なFNAは,安価で,特別な器具を必要とせず,診療所などでも施行可能な検査である。局所麻酔を行うこともあるが,必ずしも必要ではない低侵襲な検査である。また熟練すれば簡便な操作により施行することができる。一方,FNAの欠点として,偽陽性例や診断不能なサンプルしか採取できない症例の存在が指摘されている1)。FNAが乳房疾患および腋窩リンパ節の良悪性の判定方法として役立つかを検討した。

解 説

(1)乳房疾患に対するFNA

 FNAを良性の嚢胞に対し施行し,すべての内容液を吸引した場合は,治療も完了することになる。採取された内容液が非血性であった場合,6,747例中癌が1例もなかったとの報告がある2)。画像で嚢胞と断定できない場合には,その確定診断のためにも,まず,経皮的に病変を穿刺することも有用である(良性嚢胞であることは,上皮細胞成分が出現しないことをもって診断可能である)。血性内容であれば約1%が癌であるため,細胞診検査を必要とする2)。全く液体が採取されない場合には,その腫瘤は充実性である。通常,穿刺により細胞成分が採取されるので,これを塗抹し細胞診検査を行う。

 29の文献を比較したFNA 31,340症例の検討では,感度および特異度がそれぞれ65~98%,34~100%であり,FNAの診断能は報告により大きな差があった3)。わが国の日本臨床細胞学会ワーキンググループによる登録12施設,検討症例数30,535例を用いた検討では,感度96.7%,特異度84.3%と報告されている4)。熟練した医師が施行した場合には感度98%,特異度97%程度であることも報告されており5),逆に熟練度が下がれば当然これらの比率は低下してくる。充実性腫瘤の場合には嚢胞性腫瘤の場合に比してさらに術者の手技に影響される。

 組織型別には,非浸潤性乳管癌の正診率は浸潤性乳管癌より低く,超音波ガイド下でも65%程度にとどまる6)。さらに,触知可能な乳房疾患に占める診断不能例の比率は4~13%程度であるが,非触知例では36%程度にまで上昇する7)。非触知乳癌に対する偽陰性率は,0~32%と報告によりかなりの開きがある8)9)。これは,採取部位の問題や癌自体が小さい,あるいは腫瘤が硬く細胞が十分に採取されないために生じるサンプリングエラー,検鏡時の細胞診断医の見落とし,およびそれらが重なり合って起こるためと思われる。診断に関しては,触診所見,画像,FNAの三者の結果を総合して最終診断を行う三者診断法が有用とされている10)。いずれもが良性,あるいは悪性と診断された場合は偽陰性,偽陽性の可能性はほとんどない。しかし,近年増加している石灰化病変などの非触知病変では,触診所見が常に陰性となり,三者診断法が適応し難く,画像診断やFNAへの依存度が増加する。

 結果報告に関しては,「乳癌取扱い規約第17版」ではクラス(パパニコロウ)分類を廃した新しい報告様式を勧めている(☞病理診断:総論1参照)。この報告様式ではそれらの問題を解決するため,まず① 検体を適正・不適正に大別し,② 適正とされた検体はさらに「正常あるいは良性」,「鑑別困難」,「悪性の疑い」,「悪性」に細分類し,③ 判定根拠となる所見および規約組織分類に沿った推定組織型を可能な限り記載することを求めている。また,精度管理上の努力目標が設定されており,その導入によって診断不適症例や良悪性鑑別困難症例を減らすことが期待できる11)。日本における乳腺細胞診診断の信頼性に関しては,前述の日本臨床細胞学会ワーキンググループの報告がある4)。組織診断が確認された10,891例の偽陰性率は3.31%,偽陽性率は0.25%であった。偽陽性26例に関しては,確定組織診断を考慮した再判定でも「悪性疑い」とした症例が4例(17.4%)存在した。わが国の乳腺細胞診の精度は諸外国と比較しても高く,信頼性の高い検査と結論付けているが,結果を知ったうえでの専門家の細胞診鑑定でも,悪性と誤診しやすい診断困難例が少なからず存在することが報告されている。

(2)腋窩リンパ節に対するFNA

 センチネルリンパ節生検(SNB)の適応決定に際し,超音波検査などで転移が疑われる腋窩リンパ節にFNAが行われることがある。腋窩リンパ節の癌転移に関するFNAの感度は6~63%,特異度は96.9~100%と報告されている12)。感度の差には,手技の習熟度に加え,対象症例中の進行癌の割合,確認し得る全リンパ節を対象とするかあるいは超音波検査や触診で転移が疑われる腫大リンパ節のみを対象とするか,リンパ節の画像パターンの考慮の有無,転移の明白なリンパ節を対象に含むかなど,研究デザインの差異も関与している。FNAの偽陰性,偽陽性率は,リンパ節切除材料の最終的な組織診断の結果と比較して算出される。偽陰性は微小転移や遊離腫瘍細胞(isolated tumor cells;ITC)などに伴うサンプリングエラー,偽陽性は術前化学療法などによる腫瘍消失に起因することが想定されている。ただし,FNAで偽陰性となるような少量の転移がセンチネルリンパ節にみられた場合,最近では,腋窩リンパ節郭清が省略される傾向にある。また,FNAでリンパ節転移陽性と診断されても転移巣の大きさが不明のため,SNBを省略して腋窩リンパ節郭清を行うことの是非が問題となっている(病理診断CQ 15参照)。FNAによるリンパ節転移検索は,特異度は高いが,その臨床的な位置付けに関して今後の検討が必要である。

 FNAは有用な低侵襲性診断手技であるが,その成績は,検体を採取する術者の技量・手技,および判定する側の細胞診断医の経験・能力に左右される13。検体不適正や偽陰性,偽陽性を呈し得る病変が存在することを理解し,臨床所見から推定される病変と細胞診結果が乖離する場合には,針生検などの追加検索を検討することが望ましい。また,専門の外科医や細胞診断医がいない施設においては,細胞診を施行せずに最初から針生検を行うことも考慮に入れる必要がある。

検索式・参考にした二次資料

 2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,breast cancer,FNAC,fine needle,biopsy,cytology,aspiration,Breast Neoplasms,Biopsy,Fine—Needle,Neoplasm Stagingのキーワードを用いて検索した。検索期間は2012年以降とした。医中誌では,乳腺,穿刺吸引細胞診のキーワードを用いて検索した。検索期間は2012年以後とした。ハンドサーチで検索された重要文献も追加した。

参考文献

1) Pisano ED, Fajardo LL, Caudry DJ, Sneige N, Frable WJ, Berg WA, et al. Fine—needle aspiration biopsy of nonpalpable breast lesions in a multicenter clinical trial:results from the radiologic diagnostic oncology group V. Radiology. 2001;219(3):785—92.
→PubMed

2) Ciatto S, Cariaggi P, Bulgaresi P. The value of routine cytologic examination of breast cyst fluids. Acta Cytol. 1987;31(3):301—4.
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3) Giard RW, Hermans J. The value of aspiration cytologic examination of the breast. A statistical review of the medical literature. Cancer. 1992;69(8):2104—10.
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4) Yamaguchi R, Tsuchiya SΙ, Koshikawa T, Ishihara A, Masuda S, Maeda I, et al. Diagnostic accuracy of fine—needleaspiration cytology of the breast in Japan:report from the Working Group on the Accuracy of Breast Fine—Needle Aspiration Cytology of the Japanese Society of Clinical Cytology. Oncol Rep. 2012;(5):1606—12.
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5) Ljung BM, Drejet A, Chiampi N, Jeffrey J, Goodson WH 3rd, Chew K, et al. Diagnostic accuracy of fine—needle aspiration biopsy is determined by physician training in sampling technique. Cancer. 2001;93(4):263—8.
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6) 山本洋介,岡根倫代,安毛直美,辻 厚子,詫間敦子,香川恵美子,他.乳がん検診における乳腺穿刺吸引細胞診の有用性.日臨細胞会誌.1998;37(2):132—6.

7) Masood S. Fine needle aspiration biopsy of nonpalpable breast lesions. Cytopathology Annual 1993. Schmidt W, et al, eds. Baltimore, Williams & Wilkins, 1994, pp33—65.

8) Löfgren M, Andersson I, Bondeson L, Lindholm K. X—ray guided fine—needle aspiration for the cytologic diagnosis of nonpalpable breast lesions. Cancer. 1988;61(5):1032—7.
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9) Svane G, Silfverswärd C. Stereotaxic needle biopsy of non—palpable breast lesions. Cytologic and histopathologic findings. Acta Radiol Diagn(Stockh). 1983;24(4):283—8.
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10) Nakayama K, Abe R, Kimijima I, Watanabe T, Furukawa Y, Suzuki S, et al. Evaluation of aspiration biopsy cytology and combined preoperative tests in the diagnosis of breast cancer. Surg Today. 1995;25(5):404—8.
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11) 秋保信彦,遠藤希之,井沢路世,熊谷勝政,長嶋真紀,武山淳二,他.乳腺穿刺吸引細胞診15470例の再検討―新報告様式導入による変化.日臨細胞会誌.2007;46(6):323—31.

12) Leenders MW, Broeders M, Croese C, Richir MC, Go HL, Langenhorst BL, et al. Ultrasound and fine needle aspiration cytology of axillary lymph nodes in breast cancer. To do or not to do? Breast. 2012;21(4):578—83.
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13) Feoli F, Paesmans M, Van Eeckhout P. Fine needle aspiration cytology of the breast:impact of experience on accuracy, using standardized cytologic criteria. Acta Cytol. 2008;52(2):145—51.
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