日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

リンパ浮腫に対する治療は勧められるか (外科療法・腋窩リンパ節郭清・センチネルリンパ節生検・ID20730)

CQ18 乳癌診療ガイドライン1治療編(251-253ページ)
推奨グレード B 予防:術後リンパ浮腫に対する適切な予防指導は発症率を減少させ,発症時の早期介入の機会を増やすが,患者や家族が行うセルフリンパドレナージは不要である。
治療:弾性着衣・弾性包帯を用いた圧迫療法,圧迫下の運動を主体とした複合的治療はリンパ浮腫の病期にかかわらず有効である。
C2 リンパ浮腫に対する外科治療はエビデンスが不十分であり,適用にあたっては十分な注意が必要である。

推奨グレードを決めるにあたって

 リンパ管細静脈吻合術を始めとする外科治療はいずれも質の高いエビデンスが出ておらず,適用には慎重を期す必要があり,推奨グレードC2とした。

背景・目的

 乳癌術後の上肢リンパ浮腫は,腋窩郭清や照射によって生じ得る後遺症である。日本乳癌学会班研究(2006年度)による実態調査によれば,同部位の周径が健側より1 cm以上増大した場合を有意な左右差とみなした場合の発症率はセンチネルリンパ節生検例も含め50.9%であった(二次資料から引用)。同調査の多変量解析では肥満(BMI≧25),術式,所属リンパ節への照射,術後療法なし,予防教育なしが有意な発症予測因子であった。したがって,リンパ浮腫診療においては日常的な予防と早期発見・早期介入による重症化の抑止が何よりも重要である。治療には圧迫療法,圧迫下の運動,圧迫±用手的リンパドレナージ,スキンケアなどを併用する複合的治療(従来の複合的理学療法にセルフケア等の日常生活指導を加えた包括的治療)が推奨され,特に圧迫療法は国際リンパ学会のStageⅠ—Ⅲのすべてにおいて治療の基本となる。一方,リンパ浮腫に対する外科治療としてはリンパ管細静脈吻合術をはじめ脂肪吸引,血管柄付きリンパ節移植などが試みられ,わが国では特にリンパ管細静脈吻合術が急速に増加している。ここでは複合的治療の有用性と外科治療の位置付けについて検討した。

解 説

 腋窩操作後に上肢リンパ浮腫を発症する頻度はセンチネルリンパ節生検で0~13%,腋窩郭清では7~77%と報告には大きな幅があり1),2 cm以上の周径増大は23~38%にみられ,71%の症例が術後1年以内に発症すると報告されている。Lacombaらは116例の乳癌術後症例に対して術直後から患者指導に理学療法を中心とした介入を加える群と患者指導のみの群にランダムに振り分け,2 cm以上の周径増大を示す発症率を1年後に比較したところ,介入群では7%,対照群では25%と前者で有意に低値であった(p=0.01)2)。また,介入群のほうが発症の診断が早いという利点もある。Showalterらは,腋窩郭清を伴う乳癌術後1年間におけるリンパ浮腫発症の危険因子は,単変量解析では人種(非白人・非黒人),切傷,サウナ,多変量解析ではサウナ,人種のみが検出されたと報告した3)。また,Spechtらは乳癌術後3カ月以降の患側上肢体積の増加が5%以上10%未満の症例は10%以上増加するリスクが有意に高くなるとした。10%以上の増加を生じる他の危険因子は腋窩郭清,高BMIと術後3カ月以内の患側上肢の体積増加であると報告した4)

 従来,発症リスクの一つとされてきた「患肢で重いものを持つ」行為に関連するものとして,ウェイトリフティングに関するランダム化比較試験が複数報告されており,Schmitzらは乳癌術後ウェイトリフティング(ベンチプレス)による介入群と対照群各77例のランダム化比較試験において,プログラムされたスローペースの漸増ウェイトリフティングではリンパ浮腫の発症率が増えないことを証明した5)。リンパ浮腫患者に対するベンチプレスを用いた治療介入についてはKimらが,20例ずつのランダム化比較試験において介入群で近位側の浮腫が有意に改善したと報告している6)。Cormieらはランダム化比較試験で62例を負荷運動の程度別に3群で患肢の周径と体積を前後比較したが,高負荷群においてもリンパ浮腫,症状とも増悪を認めなかったと報告している7)

 一方,わが国では非常に多用されている発症予防のための用手的リンパドレナージについてはDevoogdtらが,介入群76例(標準的予防教育+エクササイズ+用手的リンパドレナージを6カ月継続)を1年後に対照群84例(標準的予防教育+エクササイズ)と比較したところ,リンパ浮腫の発症率に差がみられず,他の前向き試験の報告も併せて用手的リンパドレナージの予防的効果は懐疑的であると結論付けた8)

 治療についてVignesらは続発性リンパ浮腫537例の前向きコホート研究で,弾性着衣,弾性包帯,リンパドレナージを用いた初期治療後の維持療法でリンパ浮腫の治療効果に悪影響を及ぼすのは圧迫療法のコンプライアンス不良であり用手的リンパドレナージのコンプライアンス不良は影響しない,と圧迫療法の重要性を強調した9)。Partshらは上下肢の適正な圧迫圧について比較検討し,初期治療においては上肢で30 mmHg以下,下肢で30~40 mmHg程度が適正であると結論付けた10)。その他の発症予測因子や治療選択肢の優位性等についても,論文数は着実に増えてきた11)

 外科治療については,新たなリンパ経路を形成するためのリンパ管細静脈吻合術,血管柄付きリンパ管移植術や自家静脈移植片の挿入など,さまざまな術式が報告されてきたが,そのほとんどが非ランダム化比較試験である12)13)。Suamiらは外科手術の中で最も一般的なのはリンパ管細静脈吻                        合術であるがその適応には賛否両論があり,確定診断法と効果を的確に評価できる測定法の確立が肝要であるとしている12)。なお,外科治療後も圧迫療法は必須であり,圧迫からの解放を期待する患者との間に少なからず乖離がある。

 以上よりリンパ浮腫の予防指導については,十分に知識をもつ医療者が適切な指導管理を行い,発症時に早期介入が果たせるよう日頃から術前後の周径測定などで経過観察を行い,発症後は速やかに圧迫療法を中心とした複合的治療を開始することが重要である。外科治療については質の高い研究報告はなく,いずれの術後もほぼ全例に圧迫療法の継続を要するため,適用にあたっては治療成績について十分な患者説明を行い,それでも患者が希望する場合に限って実施されるべきである。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedで“Breast neoplasm”“Lymphedema”“Breast cancer—related lymphedema”,“Axillary dissection”“Sentinel Node Biopsy”“Quality of Life(QOL),“Surgery”をキーワードに検索し,それぞれ抽出した。二次資料としてリンパ浮腫診療ガイドライン(金原出版,2014),乳癌学会班研究によるリンパ浮腫の実態調査結果(脈管学50:715—720,2010)を用いた。

参考文献

1) Boneti C, Korourian S, Bland K, Cox K, Adkins LL, Henry—Tillman RS, et al. Axillary reverse mapping:mapping and preserving arm lymphatics may be important in preventing lymphedema during sentinel lymph node biopsy. J Am Coll Surg. 2008;206(5):1038—42;discussion 1042—4.
→PubMed

2) Torres Lacomba M, Yuste Sánchez MJ, Zapico Goñi A, Prieto Merino D, Mayoral del Moral O, Cerezo Téllez E, et al. Effectiveness of early physiotherapy to prevent lymphoedema after surgery for breast cancer:randomised, single blinded, clinical trial. BMJ. 2010;340:b5396.
→PubMed

3) Showalter SL, Brown JC, Cheville AL, Fisher CS, Sataloff D, Schmitz KH. Lifestyle risk factors associated with arm swelling among women with breast cancer. Ann Surg Oncol. 2013;20(3):842—9.
→PubMed

4) Specht MC, Miller CL, Russell TA, Horick N, Skolny MN, O’Toole JA, et al. Defining a threshold for intervention in breast cancer-related lymphedema:what level of arm volume increase predicts progression? Breast Cancer Res Treat. 2013;140(3):485—94.
→PubMed

5) Schmitz KH, Ahmed RL, Troxel AB, Cheville A, Lewis—Grant L, Smith R, et al. Weight lifting for women at risk for breast cancer-related lymphedema:a randomized trial. JAMA. 2010;304(24):2699—705.
→PubMed

6) Kim do S, Sim YJ, Jeong HJ, Kim GC. Effect of active resistive exercise on breast cancer—related lymphedema:a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 2010;91(12):1844—8.
→PubMed

7) Cormie P, Pumpa K, Galvão DA, Turner E, Spry N, Saunders C, et al. Is it safe and efficacious for women with lymphedema secondary to breast cancer to lift heavy weights during exercise:a randomised controlled trial. J Cancer Surviv. 2013;7(3):413—24.
→PubMed

8) Devoogdt N, Christiaens MR, Geraerts I, Truijen S, Smeets A, Leunen K, et al. Effect of manual lymph drainage in addition to guidelines and exercise therapy on arm lymphoedema related to breast cancer:randomized controlled trial. BMJ. 2011;343:d5326.
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9) Vignes S, Porcher R, Arrault M, Dupuy A. Long-term management of breast cancer—related lymphedema after intensive decongestive physiotherapy. Breast Cancer Res Treat. 2007;101(3):285—90.
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10) Partsch H, Damstra RJ, Mosti G. Dose finding for an optimal compression pressure to reduce chronic edema of the extremities. Int Angiol. 2011;30(6):527—33.
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11) Kitamura K, Iwase S, Kuroda Y, Yamaguchi T, YamamotovD, Odagiri H, et al. A practice guideline for the management of lymphedema. J Lymphoedema. 2011;6(2):60—71.

12) Suami H, Chang DW. Overview of surgical treatments for breast cancer-related lymphedema. Plast Reconstr Surg. 2010;126(6):1853—63.
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13) Chang DW. Lymphaticovenular bypass surgery for lymphedema management in breast cancer patients. Handchir Mikrochir Plast Chir. 2012;44(6):343—7.
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