日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

アロマターゼ阻害薬使用患者における骨粗鬆症の予防・治療にビスフォスフォネートやデノスマブは勧められるか (薬物療法・副作用対策・ID10460)

CQ42 乳癌診療ガイドライン1治療編(178-180ページ)
推奨グレード B 骨粗鬆症を合併する場合および骨粗鬆症の危険が高い場合には,ビスフォスフォネートやデノスマブの投与および定期的な骨密度測定が勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 アロマターゼ阻害薬の使用により骨密度が低下すること,骨粗鬆症となると骨折のリスクが上昇することは明らかである。しかしながら,アロターゼ阻害薬を使用した場合でも,カルシウムやビタミンDの投与で骨密度低下を防ぐことができる可能性があること,またビスフォスフォネートやデノスマブ投与にも副作用があることなどを考慮し,グレードBとした。

背景・目的

 アロマターゼ阻害薬は閉経後乳癌患者の術後療法として広く用いられている。この薬剤の代表的な副作用は骨密度の低下,関節痛・関節のこわばりであり,骨関連事象(病的骨折,疼痛など)の発症頻度が高い1)。骨塩量減少に関しては薬剤による予防・治療法についてのエビデンスが報告されているため,これらについて検討した。

解 説

(1)骨粗鬆症の診断基準

 アロマターゼ阻害薬を用いた術後療法に関する主な臨床試験において,アロマターゼ阻害薬使用患者の骨折および骨粗鬆症の発症頻度は,タモキシフェンあるいはプラセボに比べて有意に高い1)。したがって,アロマターゼ阻害薬使用患者では,まず,年齢や家族歴などから骨粗鬆症のリスクを評価し,骨粗鬆症の危険が高い症例に対しては骨密度(BMD)測定を行うことが推奨される。

 ASCOのガイドラインでは,65歳以上の女性,アロマターゼ阻害薬の投与を受ける患者,60~64歳でリスク因子のある患者,乳癌治療により早発閉経をきたした患者は骨粗鬆症の高リスクとして扱っている。骨粗鬆症のリスクの高い患者には,DEXA(dual energy X—ray absorptiometry:二重X線吸収法)によるBMDのスクリーニングを行うことを推奨している。測定間隔に明確なエビデンスはないが,骨折のリスクなどを考慮すると年1回の骨密度測定は妥当である。骨粗鬆症における骨密度測定は,わが国では4カ月間隔の測定まで保険承認されている。DEXAでのBMDのT—scoreが-1.0未満の場合はライフスタイルの改善(アルコール摂取制限,禁煙,適度な運動)とカルシウム1,200~1,500 mg/日と非活性型ビタミンD(未承認)400~800 U/日の摂取,-2.5未満の場合はさらにビスフォスフォネートによる治療を開始することが推奨されている2)

 国内では2011年に「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」が改訂,出版されている3)。骨粗鬆症の診断基準は,国際的にはTスコアを用いるWHO基準が用いられるが,若年平均成人値(young adult mean;YAM)に用いるBMDは地域や民族により異なるという考え方から,国内ではYAM値と脊椎X線での評価に基づいた独自の診断基準を出している。原発性骨粗鬆症の診断基準に基づくと,骨粗鬆症は①脆弱性既存骨折の既往,または②脆弱性骨折はないが骨密度(原則として腰椎骨密度)がYAMの70%未満(YAM70%がTスコアでの-2.5 SD,YAM80%は-1.5 SDにほぼ一致)かつ脊椎X線像での骨粗鬆化を認める場合,骨量減少はYAM70~80%かつ脊椎X線像で骨粗鬆化が疑われる場合である。また,同ガイドラインでは薬物療法開始の目安をフローチャートで示し,①50歳以上で脆弱性既存骨折のある場合,②骨密度YAM70%未満の場合,③YAM70~80%では,FRAX(WHO骨折リスク評価ツール)の骨折確率15%以上の場合としている3)4)。骨折リスク因子は地域や民族によって異なる可能性があり,ASCOのガイドラインをそのまま適用することに関しては慎重である必要はあるが,YAM80%未満の場合に薬物療法の使用を検討することは妥当と考えられる。

(2)ビスフォスフォネート投与

 骨粗鬆症の予防・治療としてカルシウムとビタミンDなどのサプリメントの摂取が骨折をどの程度減少させるかについての確実なデータはないが,欧米のガイドラインでは一日量で200 mgのカルシウムの摂取と800 IUのビタミンDの摂取を勧めている。それ以外の薬物療法としてビスフォスフォネートとデノスマブが考えられる。ビスフォスフォネートとしては,レトロゾールによる術後内分泌療法を行う閉経後乳癌患者を対象としたランダム化比較試験において,ゾレドロン酸6カ月1回による予防投与(保険適応外)が,骨塩量減少後の治療的投与に比べて優れていることがランダム化比較試験により報告されている5)~8)。また,ABCSG—12では閉経前乳癌患者におけるゴセレリン投与下で,ゾレドロン酸が骨塩量減少を予防する効果が認められた9)。Ibandronate(未承認)10)やリセドロン酸11)12)の経口投与がアナストロゾールによる骨塩量減少の予防に有用であることも報告されている。ただし,これらの試験において,観察期間中の骨折のイベント数は予防投与群も治療的投与群も同等であり,より長期的なアウトカムの評価が必要である。経口製剤であるclodronate(未承認)などについては乳癌術後の卵巣機能障害に伴う骨塩量減少の予防に有用であると報告されているが,アロマターゼ阻害薬との併用に関するデータはない。

 骨折への予防効果であるが,骨塩量が減少している高齢者に関しては,ビスフォスフォネート投与により骨塩量が回復しても骨折が減らない可能性がある。

(3)デノスマブ投与

 抗Receptor Activator of Nuclear Factor κ—B Ligand(RANKL)ヒト化モノクローナル抗体であるデノスマブは,破骨細胞の前駆細胞に結合し分化を抑制する。デノスマブは転移性骨腫瘍に保険承認されており,その使用法は120 mgを4週間に1回の皮下投与であるが,骨粗鬆症に対しては,60 mgを6カ月に1回皮下投与するとされていて,使用法の違いに注意する必要がある。デノスマブは骨量の増加幅も大きくアロマターゼ阻害薬使用患者の骨塩量減少の予防効果が報告されている13)

 一方,ラロキシフェンは閉経後女性における骨粗鬆症の治療薬として日本でも広く使用されている。しかし,ATACにおいてタモキシフェンとアナストロゾールの併用で有害事象が増加し,しかもアナストロゾールの乳癌再発抑制効果を阻害することが明らかとなった。ラロキシフェンも理論上アロマターゼ阻害薬との相互作用が懸念されるため,アロマターゼ阻害薬使用時にラロキシフェンを併用することは推奨されない。

 以上より,骨密度が低下していないアロマターゼ阻害薬使用患者に最初からビスフォスフォネートやデノスマブを併用する必要はない。治療開始時に骨密度が低下していた場合や,治療開始後の定期的測定により,YAM80%未満となればカルシウムやビタミンDの投与を開始するが,骨折のリスクに応じてビスフォスフォネートやデノスマブ投与を考慮することが推奨される。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Aromatase Inhibitors/adverse effects,breast neoplasms,aromatase inhibitor,bone loss,breast cancerのキーワードを用いて検索した。さらにUpToDate 2014の“Bisphosphonates in the management of osteoporosis in postmenopausal women”および「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版」を参考にした。

参考文献

1) Chien AJ, Goss PE. Aromatase inhibitors and bone health in women with breast cancer. J Clin Oncol. 2006;24(33):5305‒12.
→PubMed

2) Hillner BE, Ingle JN, Chlebowski RT, Gralow J, Yee GC, Janjan NA, et al;American Society of Clinical Oncology. American Society of Clinical Oncology 2003 update on the role of bisphosphonates and bone health issues in women with breast cancer. J Clin Oncol. 2003;21(21):4042‒57.
→PubMed

3) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(日本骨粗鬆症学会,日本骨代謝学会,骨粗鬆症財団:委員長 折茂 肇)編.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版.東京,ライフサイエンス出版,2011.

4) FRAX® WHO Fracture Risk Assessment Tool. http://www.shef.ac.uk/FRAX/

5) Bundred NJ, Campbell ID, Davidson N, DeBoer RH, Eidtmann H, Monnier A, et al. Effective inhibition of aromatase inhibitor‒associated bone loss by zoledronic acid in postmenopausal women with early breast cancer receiving adjuvant letrozole:ZO‒FAST Study results. Cancer. 2008;112(5):1001‒10.
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6) Brufsky AM, Bosserman LD, Caradonna RR, Haley BB, Jones CM, Moore HC, et al. Zoledronic acid effectively prevents aromatase inhibitor‒associated bone loss in postmenopausal women with early breast cancer receiving adjuvant letrozole:Z‒FAST study 36‒month follow‒up results. Clin Breast Cancer. 2009;9(2):77‒85.
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7) Servitja S, Nogués X, Prieto‒Alhambra D, Martínez‒García M, Garrigós L, Peña MJ, et al. Bone health in a prospective cohort of postmenopausal women receiving aromatase inhibitors for early breast cancer. Breast. 2012;21(1):95‒101.
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8) Llombart A, Frassoldati A, Paija O, Sleeboom HP, Jerusalem G, Mebis J, et al. Immediate Administration of Zoledronic Acid Reduces Aromatase Inhibitor‒Associated Bone Loss in Postmenopausal Women With Early Breast Cancer:12‒month analysis of the E‒ZO‒FAST trial. Clin Breast Cancer. 2012;12(1):40‒8.
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9) Gnant M, Mlineritsch B, Stoeger H, Luschin‒Ebengreuth G, Heck D, Menzel C, et al;Austrian Breast and Colorectal Cancer Study Group, Vienna, Austria. Adjuvant endocrine therapy plus zoledronic acid in premenopausal women with early‒stage breast cancer:62‒month follow‒up from the ABCSG‒12 randomised trial. Lancet Oncol. 2011;12(7):631‒41.
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10) Lester JE, Dodwell D, Purohit OP, Gutcher SA, Ellis SP, Thorpe R, et al. Prevention of anastrozole‒induced bone loss with monthly oral ibandronate during adjuvant aromatase inhibitor therapy for breast cancer. Clin Cancer Res. 2008;14(19):6336‒42.
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11) Van Poznak C, Hannon RA, Mackey JR, Campone M, Apffelstaedt JP, Clack G, et al. Prevention of aromatase inhibitor‒induced bone loss using risedronate:the SABRE trial. J Clin Oncol. 2010;28(6):967‒75.
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12) Markopoulos C, Tzoracoleftherakis E, Polychronis A, Venizelos B, Dafni U, Xepapadakis G, et al. Management of anastrozole‒induced bone loss in breast cancer patients with oral risedronate:results from the ARBI prospective clinical trial. Breast Cancer Res. 2010;12(2):R24.
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13) Ellis GK, Bone HG, Chlebowski R, Paul D, Spadafora S, Smith J, et al. Randomized trial of denosumab in patients receiving adjuvant aromatase inhibitors for nonmetastatic breast cancer. J Clin Oncol. 2008;26(30):4875‒82.
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